★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第36回 】転勤した学校での授業は?
9月も半ばになると、さすがに学校での授業研究も一休みとなります。この時期、何本かの懸案事項を並行して進めています。大学での後期授業の準備、学会での発表の準備、出版予定の本の準備、合間をぬって締切のある原稿書き(このコラムもその一つ)などです。もちろん日常生活でも、後回しにできないことが毎日のようにあります。
その中で、いちばん気になっているのが学会発表です。「教師の授業観の変化」をテーマにした共同研究です。抽象的な考察になりがちなテーマなので、具体性をもたせるにはどうしたらよいかが考えどころです。これまでの授業の概念とはずいぶん異なる授業(「学び合う学び」)を実践し、子どもたちも大きく変わった学校を事例に取り上げています。
事例校の授業研究(ここで言う授業研究は、当然事後の協議会も含めます)の観察や先生方へのアンケートは、授業に対する見方の(変らないことも含めた)変化を見つける重要な要素です。しかし、今回は、これまであまり行われてこなかった調査も取り入れることにしました。それは、事例校から転出した先生(退職等を除く30代〜50代の5人)が、異動した先の学校でどんな授業を行っているかを調べるというものです。
教師中心の一斉指導型の授業の対極とも言える「学び合う学び」を実践してきた先生が、転勤によって授業がどう変化するかは、個人的には非常に興味深いことです。しかし、ひとつ間違えると調査そのものが、ずいぶん残酷なものにもなりかねません。一斉授業中心に戻っていたり、その学校の先生方に合わせたりしていたとしたら、事例校での実践もまた同僚の先生方に合わせていただけではないかということになりかねません。 さて、まずアンケートの結果、全員の先生が異動した先の学校でも、「学び合う学び」を続けていました。そこで、夏休み末から2学期始めにかけて、全員にインタビューを実施しました。
インタビューで、ある先生は「学び合う学び」にはじめから納得していたわけではなく、「こういうやり方はまずいよ」と言われた方法と、薦められた方法とを、あえて両方実践してみて、ひとつずつ結果を確認して納得していったと語りました。そして、今の学校で「学び合う学び」をしてみたら、子どもたちから「この授業が好きだから、これからもこの方法でやって」と言われたそうです。
また、別の先生は「学び合う学び」を知ったとき、これこそ自分の求めていた方法だと実感したと語ります。それまで、いろんな授業法を試しても、これだというものに出会えなかったそうです。この先生は、研究2年という、まだ到達には程遠い段階で転出したのですが、その後も研究会などで学び続けているそうです。この先生からは、「子どもが育ってくると、先生が乗り越えられることがある」というお話もうかがいました。それこそ、事例校が今直面している段階だと、私は感じています。
他の先生方からも、いろいろと興味深いお話をうかがうことができました。「授業研究が苦にならないもので良かった」という声もありました。共通して出てきた話題が、「今の学校の集会がなかなか静かにならなくて驚いた」というものです。「900人を超えるマンモス校が、『静かにしなさい』などと誰も言わないのに、子どもたちが整然としていたことに、はじめて気づいた。『聴く』ことで子どもが育つとは、こういうことだと実感できた」と異口同音に語っていました。また、「『学び合う学び』の導入の頃には、形が大事だと思っていたが、今になると『学び合う学び』には形がないのが特徴だとわかった」とか、「もう元の授業には戻れない」という発言です。
事例校での先生方へのアンケートに対して、転勤1年目の先生の多くが、授業研究を「大事なことだとは思うが、負担も大きい」と答えています。成長した子どもたちの中に新たに入ることは、教師にとってとても大変なことは理解できます。それをどうサポートするか、教師としてどう成長するかは、事例校に克服しなければならない大きな課題となっています。
(2011年9月19日)