★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第30回 】教員免許更新講習の開設に備える
教員免許更新研修は、いわゆる指導力不足教員問題を契機に、法律として制定されたものです。有料ということもあり、学校現場からの反発はかなり大きなものがありました。政権交代ですぐにも廃止という見方もありましたが、法律の改廃はそれほど容易なものではありません。少なくとも10年は継続されることでしょう。開始された平成21年4月から2年後の最初の修了確認期限である平成23年3月末には、未受講者の教員免許状が失効したというニュースも流れました。
ところで、この講習で最も重要なことは、受講した先生方が講習で学んだことを有意義だったと感じたかどうかということです。10年・20年・30年と実際に毎日子どもたちと接してきた先生方にとって必要な講習内容は、大学生が教員免許を取得するために履修するものとは質的に大きく違うはずです。
どこの地域や学校でも、各種の研修会や校内の現職教育が開かれています。講習と重複する内容的も多いというよりも、ほとんど重なっています。しかも、研修のほとんどは勤務時間内に無料で行われるものです。免許更新講習は少なくとも、それらの研修よりは充実していた、役立つものだったと感じてもらわなければなりません。
制度が発足する時点では教育行政の立場でしたので、制度そのものの周知と確実な履行という観点からの関心でしたが、まさか自分が授業を受け持っている大学の教員免許更新講習の担当者になるなどとは想像もしていませんでした。ところが、その大学から講習の担当や立案の依頼を受ける結果となりました。
『教員免許更新制度』(矢尾板修、明治図書2008)を読むと、この制度発足時の議論を思い出します。結局は、不適格教員を現場から排除するという引き算の考え方ではなく、専門性を「加算」するという発想での制度設計になったことがわかります。結果として、受講者から見ると日頃の研修(ひょっとすると、日頃研修の機会などないという先生もいるかもしれませんが)との重複と思われる内容が多くなったわけです。
内容的なしばりとしては、1「教育の最新事情に関する事項(12時間)」について、(1)教職についての省察(・学校を巡る状況変化 ・専門職たる教員の役割)(2)子どもの変化についての理解(・子どもの発達についての理解 ・子どもの生活の変化を踏まえた適切な指導の在り方)(3)教育政策の動向についての理解(・学校指導要領改訂等の動向 ・その他教育改革の動向)(4)学校の内外での連携協力についての理解(・各種課題に対する組織的対応の在り方 ・学校における危機管理上の課題)の8細目をすべて行うことと定められています。
35歳・45歳・55歳という受講者の年齢を考えれば、実際に学校現場で長年子どもたちに接してきた先生方に、大学としてどのような付け加えができるのか、しかも役立つと実感できるものにできるのかは、容易なことではありません。第一に、この内容をどうしたら意欲的に学んでいただけるかが大問題です。
私自身は主として1を受け持ちます。私が模擬授業を行い(だから定員は40名を提案しました)、受講の先生方に子ども役になっていただこうと考えています。その上で細目を学ぶことで、よりリアルに中身を感じていただけるのではないかと考えています。何十年も教える側に立っていると、どうしても子どもたちの受取り方を忘れがちになるものですから。
2「教科指導、生徒指導その他教育内容の充実に関する事項(18時間)」については、サポート役として入る予定です。意見を求められたので、次のようなかなり具体的な提案をしました。まずは多くの先生方が経験していないと思われる、授業記録を丹念に読むことを取り入れること。また、安易に授業に直結することよりも、例えば「作品を読む」「国際語としての英語」など大学の研究者ならではの内容の方が、受講の先生方(対象は小中高)には新鮮だし役立つだろうこと。
実際にやってみるとどうなるかは、不安でもありますし、大きな期待もあります。受講者のことを考えない単なる講義なら簡単ですが、そうではない内容を望めば準備も大変です。少なくとも、学校ではこういう経験はできなかったという学びが、受講の先生方に起こればと願っています。
(2011年6月20日)