★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第26回 】小学校から大学までに関わる
大学での授業が始まりました。かつての大学は休講がつきもので、休講が分かると学生(つまり学生である私たち)は喜んだものでした。最近は必ず補講をしなければならないことになっているようです。私自身もこの2年間は学生生活を送ったわけですが、多くは大学院のゼミ形式の授業で、学部の授業の経験はわずかです。
ましてや、初めての大学で、何人の学生が受講するのか、また学生はどの程度の意欲と関心と経験を含めた学力を持っているのかも不明です。それでも半期15回分(90分授業)のシラバス(授業計画)を、予め作らなければなりません。当然、授業が始まれば臨機応変に変更するのですが、基本となる計画は必要です。
第1回の授業に集まった学生は(小さな大学で、しかも選択教科ですから)十数人でした。構成は一般の日本人の学生、中国からの留学生、それに社会人です。この構成は、2年間の大学院生活と同じでしたので、むしろ安心しました。留学生の日本語能力を心配しましたが、授業後の振り返りに書いてもらった文章はしっかりしていて安心しました。社会人は見るからに意欲満々で、頼もしい限りです。一般の学生も真面目で、これなら十分ねらっていた授業ができると感じました。
そうは言っても、これが高等学校までと違うところで、いろいろな経歴の学生が集まっているだけでなく、互いに知り合っている学生はわずかで、あまり横の関係はできていないようです。その上2回目の授業ではかなりの数の学生が入れ替わり(4人減、7人増)、4月いっぱいで最終的に履修科目を決定する方式のようです。学生にとってはなかなか良い方法ですが、私の方は先回の授業を受けてない学生にも対応できる内容に組み直すはめに陥りました。こんな戸惑いもあるものの、先生に対しては礼儀正しく、縦の関係で苦労する(つまり、私語で悩むなど)心配はなさそうです。
講義のみの授業はしたくないという思いがありますので、互いに意見を交流できる授業を作ることをめざしています。そのためにも、それぞれが異なる考えを持っているけれど、それぞれの考えもはっきりした根拠があるわけではなく、世間やマスコミで言われているからという理由が多いことを、最初の数回の授業ではねらいました。
1回目はオリエンテーションですので(いま考えると、4月中がオリエンテーションだとも言えますが)、15回のザクっとした計画、そのなかでも(競技ディベートではない)ディベートはやりたいということを話しました。それからは、青少年問題に関する、いかにもマスコミで語られていそうな文章を示し、分節ごとに(1)正しい、(2)間違っている、(3)判断できない、に分ける作業をやってもらい、結果を表にして板書しました。ほとんどの分節で意見が大きく分かれました。「凶悪犯罪が増加している」などについては、根拠がないどころか間違っていることを示したり、「正しいかどうかではなく、わかりやすい説明がなされる報道が多い」ことを指摘したりしました。
振り返りでは「自分の思いが他の人とズレていて驚いた」とか「確かに自分も、報道の中で気に入ったものを自分の考えとしている」などが書かれていました。毎回短時間でも振り返りは書いてもらうつもりです。
ところでこの大学では、今年から「教員免許更新講習」に参加するそうで、その相談もしています。もう少し早めに準備するべきなのですが、小規模な大学で人手が足りないようです。少し遅くなる分、現職の先生にとって意味ある内容にしたいと考えています。準備に関わっていると、結構文科省からの内容のしばりがあることがわかりました。法律の制定によって始まった事業ですから、当然のことなのですが(逆に、現在の政治状況では、法律の廃止で更新研修がなくなる見込みも薄いようです)。
例えば、必修領域は12時間以上で、「教職についての省察」「子どもの変化についての理解」「教育政策の動向についての理解」「学校の内外における連携教職についての理解」の4項目を必ず行うこととし、それが22項目の内容に細分され満遍なく実施することが求められています。学校での現職教育と重なる面が多く、受講者から不評な理由も理解できました。
10年以上の経験者が求める、日々の授業や指導を充実するために役立つ方法や考え方を提供するものでなければ、意欲的な受講には結びつかないでしょう。そのためには、講習方法も工夫されなければなりません。それらの工夫としばりとの両立が図れる内容を検討しています。私も10時間以上受け持つ予定です。
さて今年度は複数の県で、小学校から中学校、高等学校までの授業研究と、自分自身の大学での授業に関わることになりました。これまでには見えなかったものが見えてくるのではと、楽しみにしています。
(2011年4月18日)