★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第22回 】学級づくりと授業づくり
いつも授業のことばかり書いているので、授業づくりをすればよい学級は自然に生まれると考えていると思われているのかもしれません。確かに教育界では、一時ほど学級づくりや学級経営が取り上げられることが少なくなりました。数年前から小牧市で着任前の初任者指導の講師をお願いしてきた野中信行先生も、学級づくり(野中先生は学級経営の中には学級づくりだけでなく授業づくりもあるというお考えから2つを区別しています)が軽視されているのではと指摘されています。
指摘のとおり、教員の世代交代が急速に進んでいる時代ですから、学級づくりの必要性は大きいはずです。そんなことを感じていたせいもあり、佐藤暁・守田暁美『子どもをつなぐ学級づくり』東洋館出版社が2009年に出版されていることに気づいて、早速購入しました。
すぐに買った理由には、著者の一人が特別支援教育を中心に小牧市でも講師をお願いしている佐藤暁先生だということもあります。佐藤先生は学び合いの授業づくりや授業研究協議会のあり方に関しても、実践の豊富な方です。本書では学級づくりと学級経営を明確に区別はしていません。タイトルは「学級づくり」ですが、本の中では「学級経営」が主に使われています。
ごく簡単に内容(の一部)を紹介します。まず学級経営の基本として、教室を子どもたちが「つながる先」にしなければならないことを強調しています。その上で、学級経営を構想する際のポイントを?子どもたちの実態を細かにとらえること ?実態を踏まえて、学級目標を定めること ?「理解し合う」「支え合う」「鍛え合う」をキーワードに年間計画を立てることの、3つだとします。
実践している教師にとっては当然のことですが、「1学期の前半が勝負」で、「この時期にこれを」という実態に即した青写真を実現していくことを強調します。規律の問題についても、教師と保護者との協力を必要とする「生活・学習規律」と、教師と子どもとの間でつくる「授業規律」を区別します。また、規律が子どもたちに「安心感」と「学びの機会」を保障するためであるという基本を忘れていません。
もちろん授業づくりや、発達障害に代表される「困り感」のある子どもへの対処にも目配りが効いています。学び合いの授業の実現こそがそれらを解決するという、実践を踏まえた確信があるからです。
「学級経営を支える学校の組織化」という章があることも、本書らしいところです。学級経営、学級づくりというと、得てして学級担任だけの役割としがちな傾向があります。しかし、学校は学級だけで構成されているのではありません。学校という組織があっての学級なのです。このあたりの目配り(あるいは、管理職の責務を明確にしていること)はさすがです。
学級づくりができないことが原因で行き詰まる初任者が多いことは、初任者指導の担当者である野中先生の指摘のとおりなのでしょう。長い被教育体験がありながら(つまり、長い間生徒として、教師の仕事を見てきたはずなのに)、表面には出ない教師の職人技的な技能と専門家としての技術には目がいかず、愛情と熱意でなんとかなると考える傾向のあることは、日本だけでなく海外の研究でも明らかにされています(だからこそ、保護者も含め社会一般に教師の仕事の大変さが理解されにくいのですが)。
野中先生が初任者に焦点を当てて、学級づくりの重要性を指摘されることには大賛成です。同時に、早く当たり前の普段の授業(<味噌汁・ご飯>授業)ができるようになるようにと強調することも、よく理解できます。近く野中先生の学級づくりの本が刊行される(『新卒教師時代を生き抜く学級づくり3原則』明治図書)ので、これまでの著書と同様に期待しています。
ただ、授業づくりと学級づくり(学級経営)の問題は、もう少しきちんと過去の経緯も含めて検討されなければならない問題だと考えています。この問題を論じるのに私がふさわしいとは思えませんし、次回すぐに書けるかどうか分かりませんが、自分自身に宿題を課しておくことにします。
(2011年2月21日)