愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第20回 】海外学会デビュー(その2)

授業研究の国際学会ですから、当然レッスンスタディやラーニング(学び)という言葉が飛びかっていました。しかし、そういう言葉にどこまでのイメージを持って議論しているかは、日本から来た参加者を含めて、人によってずいぶん違いがあると感じました。国や地域による違いも大きいと思いました。
 発表の内容も、(私が理解した範囲内では)二通りの方法で教えたら、こんな差があったと数量的な分析をしたもの(しかも、どんな方法での二通りかが不明)から、授業研究を取り入れたら子どもたちの成績が向上したというものまで、様々でした。学ぶ側の子どもの姿が少しも見えない、見えてもとても積極的に学んでいるようには感じられない発表も少なくありませんでした。

中国(香港や上海を含めて地域により差がある)、韓国、シンガポール、インドネシアなど、熱心に授業研究に取り組んでいる国は、国策によって取り組んでいるという側面があります。国の政策としての上からの改革というわけです。スピーディではあるでしょうが、弊害も見逃せません。
 授業研究に取り組んで発表したりすると、学校や先生個人の実績として評価されるという話も聞きます。また、その評価は、学校評価や教員評価となって、学校予算や教員の等級や給与の差に結びつくそうです。そのため、具体的な実践内容を明らかにしない傾向があるとの話題も出されていました。その学校や先生個人の成果とするために、よそには知らせたくないということです。
 互いに実践内容やその結果を公表しあい、互いに試みて確かめ合いながら向上していくのが授業研究だとして、日本の先生たちは取り組んできました。受け持っている子どもたちが意欲的に学んで、学力をつけてほしいというのが、日本の先生方の気持ちですから。しかし、そんな日本の授業研究のほうが、世界的には珍しいのかもしれません。
 冷静に考えれば、日本の先生たちがこのように授業研究をとらえてきたのには、それを支えている条件や制度が存在します。「どうして日本では、こんなに先生たちが協力しあうのだろう」というのは、日本の学校を調査した研究者が異口同音に語ることです。「自分たちの国で、この協力は難しい」と嘆きます。この日本の良さを、「生ぬるい、遅れている」と指摘する日本人も少なくありません。日本だけを見ていると、本当の日本の良さに気づかないとよく言われますが、授業研究でも同じことが言えそうです。

日本人同士でも、授業や授業研究について分かり合うことは容易ではありません。そういえば、今年の正月から朝日新聞は教育特集でした。しかも、1面から2面まで。しかし、目が点になってしまうような箇所があり、考え込んでしまいました。気づいた方も少なくないでしょうが、佐藤学先生の言葉として「日本も、これまで採り入れられてきたディベートや、わからない子にわかる子が教える『学びあい』ではなく、互いに考えを響き合わせ、共同で創造する授業にもっと転換すべきだ」と引用されていました。
 記者の署名入りの正月記事ですから、十分な準備の時間があったはずです。当然、編集責任者も含め何人もが目を通しているはずです。いくつも疑問点がありますが、この説明で「学びあい」はないでしょう。これでは「教えあい」です。「互いに考えを響き合わせ、共同で創造する授業」は、一体何と呼ぶのでしょうか。
 長時間取材をして、都合の良い一言にまとめてしまう例は、これまでにも何度も経験してきました。しかし、ここでマスコミ批判をしようとは思いません。マスコミがこの程度の認識だということは、教育界も含め社会全体ではもっと見方がズレているということです。「新聞に、もう学び合いではダメだと書いてあったから」と、したり顔で語る人も出てきそうです。

ところで、来年度の(つまり今年ですが)WALSは、東京大学(多分駒場)で11月26日(土)、27日(日)に開かれます。28日(月)には小学校、中学校、高等学校コースに別れて学校参観があるそうです。授業研究の本家での開催にふさわしいWALS2011になりそうです。今度も参加しますかって? ウーン、参加はしたいけれど、発表は……

(2011年1月17日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月からは名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んでいる。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、学校の現職教育などに貢献したいと考えている。