★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第19回 】海外学会デビュー(その1)
12月にブルネイで開催されたWALS(The World Association of Lesson Studies)に参加しました。日本の学会にも余り参加していない人間が、国際学会で、しかも発表することになろうとは少し前まで夢にも考えていませんでした。外国人の(しかし、日本語にも精通している)研究者から強く進められたのが理由です。研究者だけでなく(開催地の)現場の先生方も数多く参加するから、日本で行われている授業を紹介したらというものでした。 |
WALS全体会場(ブルネイ大学) |
退職してから米野小学校の授業を見続けているので、これを発表するのもいいかと考え、米野小の杉山智哉先生と私と共同研究者の坂本篤史さんの3人でならと考えたのが、運命の分かれ目でした。それからはハプニング続きでした。まず、12月の成績づけや個人懇談などで杉山先生が出席できなくなり、坂本さんはご自分でも同じWALSでの別の研究発表にかかりきりになりました。また、一応まとまった段階で外国人研究者から、「この内容なら、実践紹介的な内容よりも純然たる研究発表にしましょう」と提案され、それからは何度も何度も発表内容やプレゼン用のスライドを作り直しました。
当然のことですが、発表はすべて英語です。まずはスライド作りです。日本語で作ってそれを英語に直します。改めて学びましたが、日本語を英語に変えるだけでは伝わらないのです。認識の仕方につながる書き方(具体的には明確な言い切り)が必要なのです(日本人はこの種の書き方には違和感を抱くのが普通です)。発表時間のこともあり、最終的には、当初考えていたものとはかなり違う形になりました。そして、最後に杉山先生の社会科授業のビデオを部分的に見せることになりました。これが後で、大変な思いをする結果につながるのですが。
ブルネイは人口40万人の小さな国ですが、石油と天然ガスに富む豊かな国でもあります。道を渡ろうとすると、自動車は例外なく止まってくれます。イスラム教の国で、朝4時半頃には(お祈りの時間は毎日微妙に変わります。新聞の1面には一日5回のお祈りの時間が載っています)モスクからお祈りの放送が始まります。外国人を含めて酒類は一切ダメです(おかげで健康的な5日間を過ごしました)。WALSには学校の先生方も多く参加していましたが、関心の薄い内容になると私語が始まるなど、かなり奔放な一面もあるようです。 |
(写真上)ニューモスク |
私個人の発表はボロボロでした。全く余裕がなく、原稿を読むのが精一杯でした。原稿を読む発表は参加者に伝えるためには最悪の方法です。分かっていても余裕がなく、用意した英文原稿を読むだけで終わりました。おまけに最後に映した杉山先生の社会科の授業ビデオ(飛び飛びに少しずつ再生)に対して、「一人ひとりが発言しているだけで、どこでコラボレイトしているのだ」という意味の質問が出ました。質問内容を聞き取るだけでも苦労している状態で、まともに答えることもできませんでした。このように、ほろ苦い思い出と共に、私の英語での発表デビューは終わりました。また機会があれば、今度は少なくとも、原稿から目を離すようにはしたいと思いますが、もう二度とないでしょう(多分)。
考えて見れば、参加までに多くの方に助けていただきました。写真やビデオでは米野小学校に、原稿の翻訳では愛知文教大の桂川先生にお世話になりました。想定質問の回答の翻訳に関しては、現地で受け取るという状況でした。発表に必要なためノートパソコンを持参したので、こんなことも可能になりました(メールのやり取りは携帯電話が最も簡単でしたが)。
個人的な感想はともかく、レッスンスタディという言葉に込められたものは、各国で様々だと感じました。そのあたりに関しては、次回に。
(2011年1月3日)