★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第15回 】シンポジウムは難しい
私が客員教授という形でかかわる愛知文教大学で、先日教育シンポジウムが開かれました。まず客員教授というものが何かが、私自身はっきり理解できていません。退職後、定職にはつかないと決めていますが、非常勤であるということと、学会などで所属がないと何かと不便ということもあり、お引き受けしたものです。しかし、今年度は私自身が余裕もなく、授業を持っているわけでもありません。まずは、このような取組への協力というのが当面の仕事です。
シンポジウムの名前は、「教師にとっての『学びの共同体』−教師の授業観の変化−」という大上段に振りかぶったものです。まず、パネリストの選択から迷いました。普通なら、この分野を専門とする教育学者でしょうが、あいにく学会と重なります。そこで、お願いしたのが、本サイトでもおなじみの大西貞憲氏と玉置崇氏です。せっかくのテーマだからということで、小牧中学校の西尾友弘先生に、事例報告の形でライフストーリーを語っていただくことになりました。コーディネーターは、愛文大の古市将樹准教授です。
この顔ぶれなら、まず大丈夫だと確信が持てましたので、この種の企画の多くがそうであるように、事前に十分打ち合わせることはしませんでした(できなかったというのが本当のところですが)。展開のシナリオをあらかじめ決めて、予定された意見を順番に述べるだけという形では詰まらないという気持ちもありました。ただ、開催が近づき、参加者が教師だけでなく、様々な立場の方々だと分かり、少なくとも背景だけは簡単に説明しておいた方がよいということになりました。「Learning Communityと『学びの共同体』」というプリントを、急いで私が作り、それを使ってシンポジウムの冒頭で簡単に説明をすることにしました。
直接の打合せは当日朝です。よく知っている者同士ですので、簡単に済みました。前半は西尾先生の報告を聞いて、それに対する感想や意見、補足などを述べ合おう、後半は会場での質問をもとに語り合おうというものです。途中で顔を出された大学院科長の田野教授から、「僕もたくさんのシンポジウムに参加した。自分自身がコーディネーターやパネリストを務めたが、一度も面白かったというシンポジウムはなかった」という趣旨の、少し変わった励まし? がありました。
シンポジウムは、お宝探偵団でおなじみの増田孝学長、黒田彰子教職センター長のあいさつ、10分以内と約束しての私の背景説明の後、西尾先生が教員人生における自己の教育観の変遷を発表しました。「生徒は変わる、俺が変える」「大人の力」「やってやれば、必ず応える」「子供の言うことに耳を傾けてみよう」「生徒の数だけ基準がある」という変遷と、その時々の実践です。
興味深い内容だったのですが、応時中時代の実践を当事者としてもう少し詳しく語るとパネリスト全員が思い込んでいたので、みんな少し慌てました。おかげで、何を言おうかとドキドキする緊張感は味わえました。玉置、大西の両氏は、持参したプレゼン資料も見せながら、それぞれ自己の経験も交えて、一般に行われている授業と学び合いの授業の違いを説明されました。
両氏とも、岳陽中学校参観で偶然会った際の私の言葉を紹介していたのが、私にとっては印象的でした。それは両氏が「岳陽中の先生方が、授業でもう少し上手い指導をしていると思ったのに、意外だった」と言われたので、「あのくらいの指導と言うが、こんなにも生き生きと学んでいる生徒が育っていることに注目しなければ」と答えたことです。例によって私はほとんど忘れていましたが、このやり方は本物だと確信した理由でした。
休憩後の後半は、フロアから出された質問をもとにした意見交換です。教育行政の条件整備も重要、授業は事前の検討も重要、結果より過程だろうか、など答えにくい質問も多く、各パネリストは回答に苦しみました。パネリスト同士もお互いに関連した発言が多く、「これがつながりのある発言だ」と思ったものです。フロアからの質問発言も活発で、予定どおりの進行にはならず、時間が不足するなかで終わりました。
後で感想を読ませていただくと、参加者の関心は多岐にわたっており、銘々がそれぞれの見方をされていました。テーマからはずれた拡散した議論で良いのか、ワンテーマでそれなりに深まりのある議論がよいのか。それが、この種のシンポジウムの難しさだなあと痛感しました。終了後、田野教授から「私は今回初めて面白いシンポジウムを経験したよ」との言葉をいただきました。反省点は多いけれども、良い経験をしました。
(2010年11月1日)