愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第13回 】教師向けの研究会に変化の予兆が

 かつて、民間の教育研究団体が隆盛を誇った時代がありました。私などの世代は、20代、30代に、それを経験しています。その後、多くの団体が会員の高齢化などで退潮を迎えました。すべての団体の実情に詳しいわけではありませんが、機関誌等の発行部数を見ると、元気に活動を続けている団体はわずかです。代わって一世を風靡したTOSSでさえ、その趨勢から免れてないように思えます。

 教員の高齢化=ベテラン化とともに、教育研究団体が衰退したのは、当然かもしれません。しかし、よく考えてみると、当然とばかりは言えません。ベテラン化したことによって、研究が深まりを見せることだって考えられます。しかし、多くの団体は、そうはなりませんでした。
 隆盛だった当時、何か明日からの授業に使えることを持って帰りたいという参加者が多かったと、感じています。入力型の参加者が多かった、と言ってもよいのかもしれません。もちろん、自分で何かを発信する側の人もいましたし、次第に発信側にまわる人もいましたが、それは少数派でした。
 再び教員の若年化の時代を迎えつつある現在、各地で様々な研究会が開かれるようになりました。しかし、多くの会が昔ながらの入力型のものであることを、個人的には残念に思っていました。ところが、最近それだけではない研究会が徐々に増えているように感じています。私が個人的に参加する研究会は、明日の授業にすぐに役立つわけではない性格の会ですが、結構熱心な参加者が多いのです。

 しかし、その種の研究会(もちろん有料で、自費参加です)に参加したことのない人の方も多いことでしょう。そこで、少しでもその雰囲気を知ることのできるものを、紹介してみましょう。それは、メールマガジン「学びのしかけプロジェクト」です。メルマガに登録していなくても「NPO授業づくりネットワーク」サイトで見ることができます。
 毎年趣向を変えながら続いているものですが、昨年まではミニネタ等(もちろんこれを有用とする方が少なくないことも理解しています)を中心とする、すぐに役立つものの紹介というイメージがありましたが、今回は明らかに傾向が変わってきています。
 教員の若返りを受けて、従来の繰り返しではなく新しい動きが出てきたことに、私は好感を持っています。ただ、メールマガジンに入ると、なぜか迷惑メールが増えるような気がするのが玉にきずですが。

 経験の少ない教員が増えたということは、すぐに役立つ技術や知識を必要とする人が多いということです。そこをターゲットにして、ハウツーやノウハウ(この2つは、厳密には同じではないそうですが)を売り物にしている研究会や教育雑誌も少なくありませんが、必ずしもかつてと同じとは言えない状況があるようです。
 先日その現象をどう見るかについて、ある人と話し合う機会がありました。そこで話題となったのは、時代の変化があるということです。第一に、インターネット上ですぐに授業に役立つ情報にアクセスできるようになったために、わざわざ参加したり、購入したりする必要を感じない状況が生まれていることです。
 第二に、教育や教師を取り巻く状況が変わったということです。つまり、今の時代は、ハウツーやノウハウよりも、もっと長いスパンで「教師として生きることの意味」を考えることで、教師として成長しようと考え始めているのではないかということです。

 「学びのしかけプロジェクト」には、いくつかの柱がありますが、そのうちの一つがライフヒストリーです。教師としての歩み、転機、学びの軌跡等を聞き取ることで学ぶ営みです。しかし、他の柱の執筆者も、自己のライフヒストリーをそれぞれの柱の中で語っています。これが、ハウツーやノウハウ以上に参考になるはずですし、なぜこのような知見を獲得するに至ったかを知ることで、その意味を理解し、活用しやすくなるはずです。
 これらの新しい動きに注目するとともに、個人的にとても興味を感じています。歴史は繰り返すのか、単純な繰り返しはないのか、またそれが何を生み出すのか、生み出さないのか、見届けたいと思っています。

(2010年10月4日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月からは名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んでいる。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、学校の現職教育などに貢献したいと考えている。