★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第1回 】今は何をしているのか
退職してから何をしているのかと、聞かれることがよくあります。「勤労学生から普通の院生になりました」とか「教育フリーターです」とか答えています。教頭になってから18年間ほど、名前よりも肩書きで呼ばれる仕事が続いたので、肩書きのない生き方への憧れがあったことは事実です。
現在のメインである大学院というところは、教職大学院などの専門職大学院はまた別でしょうが、学部とは違い、何か知識を教えてもらうというよりも研究の方法を学ぶところです。だから、必要な単位数はそれほどありません。せいぜい週に2〜3日(夜だけのことも多い)通うだけです(2月上旬からは、もう春休みですしね)。
それでは暇なんだと言われそうですが、それが不思議なことに仕事していた時以上にやることが多いのです。社会人から入学した私は、専攻分野の研究論文を読んでいません(書籍として刊行されたものはできるだけ読むようにしていましたが、学会誌の研究論文までは読んでいませんでした)。だから、まずは先行研究の論文を読んでいます。
特に、自分の研究分野である「教師の学び」に関しては、英文の論文が多くあります。「英語の論文は日本語論文とは異なり、文章の構造や論旨が明確で理解しやすい」などというのは嘘だ、ということは分かりました(「他の分野ではそうでもない」と聞くこともありますが、確かめる暇がありません)。「that」や「,」が3つも4つも出てくる文章に音を上げています。
研究のフィールドである小学校にも、ちょくちょくお邪魔しています。授業を見せてもらうと同時に、これがメインの目的なのですが、授業後の研究協議会の録音をとらせていただいています。この小学校は、半年ほど前からの低中高学年部会での研究協議会の録音があります。これが私たち(東京の院生との2人の共同研究です)にとっては宝の山で、全体会では難しいだろうと思われる本音満載の、しかも内容のある協議なのです。
まずは手始めに、低学年部会に焦点を絞って分析しています。先日は、学年1名ずつインタビューもさせてもらいました。最初からどんどん思っていることを話していただいたので、「打ち解けてもらうのが一仕事」と言っていた共同研究者は驚いていました。私は、当然だと思いましたが。
録音をすれば、文字化しなければなりません。それに、どなたの発言か(論文や研究発表の際には、もちろん仮名にしますが)を確定しなければ、資料にはなりません。早口だったり、外部の者には聞きとりにくい内容だったりして、この作業も時間がかかります。また来年度になれば新しいメンバーでの学校の取り組みが始まりますので、今年度の記録は今年度中に文字化する必要があります。
逐語記録として文字化が確定すると、それから分析が始まります。まずは発言を区分原則に従い、分析単位に区分する作業です。区分が終わると、あらかじめ設定したカテゴリーに分類します。共同研究とした大きな理由の一つが、この恣意的なものになりがちな作業に客観性を持たせるためです(もうひとつの個人的な理由は、既に優れた研究を発表している共同研究者から、具体的な方法を学びたいというものですが)。ただ、共同研究は時間がかかります。こういう作業の一つ一つを、メールのやり取りで進めています。統計処理を使った量的研究と談話分析を使った質的研究を組み合わせた、欲張った研究をめざしています。
他の学年部会の分析や中学校との比較なども考えてはいたのですが、今回とてもそこまでは手が回らないことが分かりました。また、正確に整理された資料は、変化を分析する際の貴重なデータとなるので、いずれはそこまで手掛けたいと考えています。個人的には研究の手法が身につけば、少しはスピードアップも可能かと考えています。
その他にも、こんなことを手伝ってほしいとかいうお話が結構来て、お断りできないものもあり、時間もとられます。しかし、当分は、研究のまねごとと、学校現場のお手伝いを中心にしていきたいと考えています。実質今の生活に入ったのは年明けからですので、実際に呼ばれて行ったのはまだ一度だけですが、他県の学校というのは刺激が大きいです。自分が当然としてきたことの意味を問い直す貴重な機会ともなります。
それではなぜ、退職してから(正確には在職中から)研究者のまねごとをしようなどと考えたのか、というお話は次回に。
(2010年4月5日)