愛される学校づくり研究会

★授業における「ICT活用」とは縁のなかった小学校が、1年後にはすべてのクラスに実物投影機が入り、毎日使うようになりました。1年間に起こった事実をお伝えします。1年間で学校も、子どもも、保護者も、職員も、そして地域も変わるのです。

【第7回】ICTを使うと、学力は向上することを実感

太郎生小学校では1年間で「ICTを使った授業が普通」になりました。そのノウハウを、前回に続いて紹介します。

(3)ICTは本当に基礎学力の向上に貢献するのか
 太郎生小学校の研修のキーとなる問題意識です。職員にそのことをズバリ聞いてみました。すると、「伸びると思います。特に理解に時間のかかる子どもにとっては、実物投影機を使うと『注意がそれない』『資料や授業のポイントがよく見える』ことになり、授業がわかるということにつながると考えます」とか、「授業がわかりやすくなります。その結果として学力は伸びるはずです」という感想を持っています。
 職員の感想としてはICTを適切に使うと、「授業が分かりやすくなる」という手応えがあります。それが学力の向上につながるはずだという考えです(太郎生小学校でいうところのICT機器は実物投影機のことです)。
 授業が分かりやすいということは児童の理解が進むわけですから、当然学力アップになります。しかし、授業が分かりやすいかどうかはICT以外にもいろんな要素があります。ですから、ICTを使うと学力が上がるのかということをストレートに問う前に、分かりやすい授業をするためにICTを使うことを日々の課題にしています。ICTをどの場面でどのように使うかということです。実践的に研修を進めています。いわばOJTです。 ICT(特に実物投影機)を使った手応えは確実に出ています。一斉指導がしやすくなっています。ただICTを使った学習と使わない学習を比較することが現実的には不可能であるため、残念ながら客観的な考察はできていません。
 このQ&Aの考察をしていると、興味あるデータに出会いました。それは「平成20年度小学校の全国学力調査」をICT活用と正答率について調べた考察(横浜国立大学委託研究)です(文部科学省のweb )。
 それによると、ICT活用が「週1回以上」と「ほとんど行っていない」を比べると、週1回以上の児童の国語・算数の正答率が高い傾向が見られ、特に国語について明確な傾向が見られたとあります。またプロジェクタ設置率が高いところはさらに国語・算数の平均正答率が高い傾向がより明確に見られたとのことです。
 この考察は全国学力調査結果に基づいたものですから、全国ほぼすべての公立小学校のデータ分析を行っており、信頼度は極めて高いと思われます。「学力とICT活用」についての調査は、これほど大がかりなものでなくても全国的な研究会で報告されることがあります。私が目にした限りでは、いずれもICTを適切に活用した場合は学力の向上に寄与しているという考察ばかりでした。
 私たちが経験的に感じていることが、データとしても裏付けされているといえます。ICTを使った実践を推進している学校としては、たいへん元気づけられました。

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▲スクリーンと黒板の一体化(4年理科・根の役目)

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▲教科書を大きく写して説明している(5年社会)

(4)ICT活用を日常化させる必要がある
 ICTを使った授業が分かりやすくなるということがわかっても、それが1年に一度の研究授業だけであったり、特別な場合のみICTを使うのでは、学力の向上にはつながりません。日常の学習に使わないと成果が上がりません。つまり、できれば毎日使うということです。
 そのためには高い、高いハードルがあります。高価なICT機器をどうやってそろえるのかということです。
 太郎生小学校は(複式学級があるため)普通学級は4ですが、国語や算数は単式化しているので6台ずつICT機器が必要になりました。ICT機器の有効性が職員に理解されると、予算をICTに重点的に使うことができます。また、そういった研究により民間の研究助成を得ることができる場合もあります。さらには個人購入をしたり、借りたりして、なんとか台数を増やしていきました。
 ある先生は「教室に入ったら最初にすることはプロジェクタのスイッチを入れることです。授業をしていると、教科書を拡大して子どもたちに見せたいという場面が必ずありますから」と言います。まさにICT活用が日常化しているからこそといえます。

 「しかし、簡単にはプロジェクタなどの台数は増やせない。1台ではどうにもならない」と思われる方もいらっしゃると思います。次回は「1台のプロジェクタを活用する方法」です。

(2010年1月4日)

中林校長

●中林則孝
(なかばやし・のりたか)

1951年生まれ。津市立太郎生(たろう)小学校校長。一輪車が小学校に普及し始めた頃、練習を継続すれば大半の児童が一輪車に乗れるようになることを知り、「練習量が、ある時、質に転化する」ことを実感する。その後、「デジタルとアナログの両面で子どもを鍛える」実践を進める。校長となった今も、担任時代のスタイルを踏襲し、補欠の授業に入れば子どもに作文を書かせ、それをほぼ毎日発行の「学校便り」に載せている。講演を聞きながらタイピングできるという特技を持つ。
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