愛される学校づくり研究会

★授業における「ICT活用」とは縁のなかった小学校が、1年後にはすべてのクラスに実物投影機が入り、毎日使うようになりました。1年間に起こった事実をお伝えします。1年間で学校も、子どもも、保護者も、職員も、そして地域も変わるのです。

【第5回】小さな学校の幸せな研究会

太郎生小学校は(平成21年)11月17日に研究発表会を行った。88人の参加者があった。
 シンポジウムの場で、コーディネーターの先生から「閉校の年というのはいろいろな仕事があるでしょう。そんな時にあえて自主的な発表会をするのは何らかの意図があると思いますが……」と振られた。そこでは私は次の3点を述べた。
 「子どもたちの合唱をぜひ先生方に聞いていただきたいこと。それから基礎学力の向上は簡単ではない。そのために太郎生小学校ではパワーアップタイムとICTを使った分かりやすい授業を行っている。これを見ていただきたいこと。そして3つめにはルールを守れる子どもたちと学校を応援していただく保護者。さらには前向きな職員がいる。だからこそ、研究発表会をしたいと思った」と。
 この3点はまさにその通りではあるが、さらに付け加えるべき「別の意図」があった。発表会の翌日(11月18日)、太郎生小学校では校内研修を行い、発表会の反省をした。職員がそれぞれの立場で学んだことや課題を述べた。私はその時に職員に次のように言った。
 「この発表会は私のDreamでした。何が夢か。閉校になる年に発表会をすることではありません。これまでの伝統的な研修会や発表会、研究紀要とは一線を画す研究会をしたいという夢です。具体的には研修を通して、子どもの力を付けるという当たり前のことをするということです。発表会のために取り繕うことはしないと心の中に決めていました。2つ目には職員の力量が上がったことを職員の皆さんが自覚できること。そのような研修会であり、発表会であること。そして、3つ目にはきれいごとになりがちな「成果と課題」のない紀要を作ることです。願わくば、参加者に読んでもらえる紀要にしたい。他の学校とは違うよ、これが私たちの学校の実践ですよということを明確に主張したい。こういった問題意識への挑戦が、私の『夢』でした。」

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 研究会後、ある職員は次のような感想を書いている。「正直、校長先生が『研究発表をしたい』と言われたときには、『えっ!』と思いましたし、いやな予感も頭をよぎりました。長い会議。指導案。見せるための過剰な掲示物やら準備。殺伐としてくる人間関係。でもそんな物の一切ない『本物の研究発表会』という校長先生の言葉を信じるしかありませんでした」と。
 職員は、モジュール学習とICT活用の精度を高めることで結果を出そうと日々、教室で努力している。校長職である私は、伝統的な研究会ではない、「本物の研究会」にするための枠組みを考えることが仕事だった。
 これまでの研修会は膨大な時間を費やしてきた。そして得ることがその努力に見合っていたのだろうか。職員が書いているように「長い会議」や「指導案」があり、「見せるための過剰な掲示物やら準備」を必要としがちである。職員はまじめだから、どうしてもそうなりやすい。形式を排除し、身の丈にあった研究、子どもの学力を真に伸ばすための研究をするには校長職としての舵取りが必要だ。
 そこで、次のような研究発表会の骨格を示した。

  • 45分の通常の授業公開はしないで、10分間のモジュール学習の授業公開をすべてのクラスで行う。
  • 全体会ではパワーポイントを使った「研究の概要」の提案はしない。それは紀要に書いておけばいい。校長挨拶や来賓紹介なども一切しない。
  • 全体会では職員が1人3分で、模擬授業で授業の核心を提案する。
  • 国内トップレベルのパネリストを3人お呼びし、90分たっぷりと話してもらう。時間も内容も豪華版。


 結果として、参加者の満足度は98%と極めて高かった。パネリストの堀田先生はブログで、「異色ではあるが、逆に主張がよく伝わる構成だった」と評された。玉置先生はブログで「見てもソンをさせない(状態にした)日常をそのまま発表。形式張らない、飾らない、大胆な発表会。研究会は何を伝えなくてはいけないのか。それを感じさせてもらえた発表会」と賛辞を送ってくださった。研究発表会に関心のある方は太郎生小学校のHPをご覧いただきたい。
 ありがたいことに、他にもたくさんの方が応援してくださった。参加された方からも、「素晴らしかった」という声をかけていただいた。多くの皆さんに支えられての研究発表会だった。
 私たちが望んでいた「大胆な研修会」(堀田先生の言葉)を自信を持って行うことができた。いうまでもなく「身の丈にあった発表会」。身の丈だからこそ無理はない。ちょっとの背伸びをした職員はいるが、それも当然のこと。
 私たち職員のすべての努力はストレートに太郎生小学校の毎日の授業に反映していると断言できることが誇りである。

 今回の内容は時系列を無視して、タイムリーなことを話題にした。次回は「なぜICTを使うのか」ということについて。

(2009年12月7日)

中林校長

●中林則孝
(なかばやし・のりたか)

1951年生まれ。津市立太郎生(たろう)小学校校長。一輪車が小学校に普及し始めた頃、練習を継続すれば大半の児童が一輪車に乗れるようになることを知り、「練習量が、ある時、質に転化する」ことを実感する。その後、「デジタルとアナログの両面で子どもを鍛える」実践を進める。校長となった今も、担任時代のスタイルを踏襲し、補欠の授業に入れば子どもに作文を書かせ、それをほぼ毎日発行の「学校便り」に載せている。講演を聞きながらタイピングできるという特技を持つ。
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