★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。
【第22回】ベテラン教師が変容するための原動力
大西貞憲(授業を見るプロ) 玉置崇(インタビュー)
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初めて見せていただいた授業は、子どもたちが落ち着いて教師の話を聞いている、いかにもベテランらしい規律のある授業でした。しかし、子どもたちは全体的に受け身で、静かに席についてはいましたが、授業に参加していない子どもが何人か見受けられました。この点を指摘したところ、「そうは言うけど全員が参加するなんて現実にはなかなか難しい。このやり方で今までうまくやれている」と思われたようでした。
ところが驚いたことに、次に訪問したときは、前回の教師の説明中心とは全く違う、子どもたちがグループ活動でかかわり合い、積極的に考えを発表する、子どもの言葉を活かそうとする授業に変わっていました。また、この先生が持っているコミュニケーション力が子どもの発言を引き出す場面で存分に発揮されていました。
以前の受け身の授業から子どもたちが積極的に参加する授業に変わったことをほめると、「しかし、A君とB君がうまく参加できていなかった。そのことが残念です」と、全員が参加できる授業を目指す姿勢に変わっていました。あまりに大きく変わっていたので、その理由をぜひ聞かせてくださいとお願いしました。
「正直、最初は自分の授業が何故いけないのかよくわからなかった。ただ、子どもにとって良い授業をしなければいけない、今より良い授業をしたいとは常に思っていた。指摘されたことは今までの自分の授業観とは異なる部分があったが、指摘を契機として、子どもが何を考えているか、どのような状態であるかをしっかりと見るように意識した。その結果、確かに子どもの様子が変わってきた。手ごたえを感じている」ということでした。より良い授業がしたいという思いで、素直に指摘を受け入れ、子どもの事実をもとに授業をつくることにチャレンジされていたのでした。
私が出会った進化する教師は、必ずと言っていいほど、「より良い授業をしたいという向上心」、「他人の指摘を受け入れる素直さ」、「子どもの事実をもとに授業をつくる姿勢」を持って、チャレンジを続けている人です。自分のスタイルを変えることは今までの自分の否定と感じてしまう方も多いようですが、スタイルを変えても今まであった長所がなくなることはありません。逆に変えても変わらないものこそが本当の長所であり、変わることはその長所を生かすことにつながっているように思います。ベテランこそ自分の経験や長所を生かすためにも、思い切って新しいスタイルにチャレンジしてほしいと思います。
ありがとうございました。
(2010年5月24日)