愛される学校づくり研究会

★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。

【第19回】「優れた発問」とは何か

onishi_small.gif大西貞憲(授業を見るプロ) tamaoki_small.gif玉置崇(インタビュー)
 

tamaoki_small.gifこれまで「発問」、特に「主発問」の質が話題となった研究協議会には何度も遭遇しました。
 あらためて広辞苑で「発問」の意味を調べてみると「問いを発すること」という当たり前のことしか書いてありませんでしたが、教育界の使われている「発問」の意味は、これだけに止まらないと思います。
 そこで授業を見るプロの大西さんにお願いしたいのですが、「発問とは何か」、そして「優れた発問とは何か」について大西流に定義していただけないでしょうか。多くの授業を見ていらっしゃるので、「これは優れた発問だ」とお感じになられたこともあると思います。具体的に示していただけるとありがたく思います。
 


onishi_small.gifなかなか難しい質問ですね。私は、発問とは「(教師が意図する)子どもの思考や活動を促す」ものと考えています。思考や活動を促すといっても、「考えなさい」「・・・しなさい」といった「指示」ではなく「問いかけ」です。そして、優れた発問とは「子どもが自ら考えたくなる、活動したくなる」もので、その結果「授業のねらいや課題解決につながる」ものです。

 

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例えば、社会科で「日本に近い国はどこ?」という優れた発問があります。ありふれた発問のように思われるかも知れませんが、奥が深い発問です。
 この発問をすると、子どもは「韓国」「中国」とすぐに距離の近い国を答えますが、ここで「ドイツも近いと思うけど、近いって距離のことだけかな?」と揺さぶります。実は、日本とドイツは面積が非常に近いのです。この追加発問(ゆさぶり)で子どもたちの思考が促され、「近い」という言葉の意味を広げて、面積が近い国、人口が近い国、GDPが近い国等を積極的に探し始めます。つまり、授業のねらいにつながる活動を引き出すことができるのです。

 また、優れた発問は、「興味関心を引く」発問と「ねらいにつながる」発問との組み合わせであると考えてもよいかもしれません。
 例えば理科の浮力の導入で、「ボーリングの玉は水に浮きますか?」と発問します。子どもたちの意見は「あんな重い物浮かないだろう」「いや、先生がわざわざ聞くから浮くんじゃない」「よくわからない」といろいろと分かれます。そして、実際にボーリングの玉が水に浮くのを目にすると、その意外さに驚きます。子どもたちが興味関心をもったところで、ねらいにつながる「水に浮くものと浮かないものを水に入れないで見分けられる?」と発問をするのです。ここで、思考を促す発問をせずに教師が「ボーリングの玉が浮く理由は・・・」と説明を始めてしまっては、子どもが「自ら考える」ことにはつながりません。一番大切なのは、子どもが「考え、活動」することです。
 発問を考えるときに子どもに興味関心をもたせる工夫が大切です。しかし、それだけに留まらず、子どもが興味関心をもつことで教師がねらう活動や思考が自然に起きるのか、また、そこにどうつなげていくのかまで考えることで初めて優れた発問になると思います。
 

tamaoki_small.gif大西さんのお話を聞いていて、「aと2aでは、どちらが大きいですか」という玉置オリジナルの数学の発問を思い出しました。生徒は、初めは「2a」と考えてしまうのですが、そのうちにaにはいろいろな値が入ることに気づき、aの方が大きくなったり、aと2aは等しくなったりすることもあるという考えに達します。手前味噌ですが、生徒の思考を促す優れた発問だと思います。久しぶりに数学の授業をやってみたくなりました。子どもたちが必死に考えながら、表情を徐々に明るくしていく様子を見るのは、授業者の喜びの一つです。
 

(2010年4月12日)

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●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「フォーラムin東京」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

1979年、教員生活スタート。小学校教諭3年、中学校教諭16年、教頭6年、校長3年、2007年度より愛知県教育委員会義務教育課へ。ICTを活用した授業や学校経営で実績があり、文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」作成委員の一人。大学時代には落語研究会に所属。今でも高座に上がりご機嫌をうかがっている。「やってみなきゃ分から ない」をモットーに、「思いついたら、すぐ動き出す」ところもあって、失敗は数知れず。そのくせ、ちょっとしたミスで、いつまでもくよくよ悩むタイプ。眠れぬ夜も多い。
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