★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。
【第10回】教科書を上手に使う教師
大西貞憲(授業を見るプロ) 玉置崇(インタビュー)
そこで授業をたくさん見ていらっしゃる大西さんにお聞きします。これまで見られた授業の中で、「教科書を上手に使ったな」と記憶されているシーンはあるでしょうか。思い当たる例がない場合は、このような使い方をすべきだといったことでもかまいません。これから若い教師が増えてきますので、このような教科書観を持つべきだということも含めて、お教えください。
教科書をうまく使うということは、ただ教科書にそってその内容をていねいに教えることではありません。教科書から教師も学ぶことだと思うのです。教科書には、「子どもの考え方やつまずき」、「どのように考えさせると子どもが理解しやすいのか」、「子どもの思考と学習課題のギャップをどのように埋めるか」などのヒントが隠されています。
例えば、算数の教科書のあまりのあるわり算の学習のページ(啓林館わくわく算数3上p83)を見てみましょう。 4人ずつの組が何組できて何人あまるかに対して、 あまりのあるわり算の計算の手順は、それまでのわり算の手順に、このまとめの手順をつけ加えることになります。ですから、練習問題はこのまとめの手順に重点がおかれています。 |
授業の効率を考えれば、「あまりのあるわり算は、あまりがいつもわる数より小さくなるようにするんだよ」と最初から教えて練習をたくさんさせた方がよいように思えます。
なぜ教科書ではこのようにスモールステップでいくつもの段階が示されているのでしょうか? それは、子どもにとって「あまりがわる数より小さくなるようにする」ことは当たり前のことではないからです。「19人のとき、4人の組は3組できて7人あまる」ということ自体は、決して間違いではありません。数量的には正しい関係です。算数のわり算では「できるだけたくさんの組を作る。あまりをできるだけ少なくする」といったルールが隠れているのです。このことを子どもに気づかせ、納得させないとつまずく子どもが出てきます。そのために“つばさ”の考えが用意されているわけです。教科書をうまく使う先生は、“つばさ”と“みらい”の考えを比較させ、“つばさ”の考えに対して「まだ、われる」、「あまりが大きすぎる」、「もうひと組作れる」といった言葉を子どもたちからたくさん引き出そうとします。算数の世界でのルールを子どもたちに十分理解させるのです。
教科書の次のステップは、子どもたちにこのルールの下でわり算をおこなうと、「あまりがわる数より小さくなる」という性質があることに気づかせること、逆に「あまりがわる数より小さくなるようにすればそれ以上われない」ことから、あまりのあるわり算の手順「あまりがわる数より小さくなるようにする」を見つけさせるようになっています。教科書をうまく使う教師は、このことを意識して、「あまりはいつもわる数より小さいね!じゃあ、わる数よりあまりが小さければ大丈夫?」とか「わる数よりあまりが小さければもうわれない?」といった発問を投げかけ、手順を明確にします。
教科書は子どもたちがつまずく箇所や、そのつまずきをクリアするための活動をキャラクターの発問や課題を通して示しているのです。教科書をうまく使う教師は、このことを十分に認識していますね。
また、「キャラクターが『あまりがない! わり切れたんだね』と示している箇所に数字を書くとしたら、どんな数を書きますか」といった質問をしてもいいですね。「0」という考えが出てくるでしょうね。このことであまりは「0、1、2、3、0、1・・・」ということを意識させることができるかもしれません。このように考えると、教科書をうまく使う教師は、子どもに教科書の行間を埋めさせることができる教師であると言ってもよいですね。
(2009年11月23日)