★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。
【第5回】コンピュータを活用した授業についての知見を聴く
大西貞憲(授業を見るプロ) 玉置崇(インタビュー)
あれからすでに20年以上も経ってしまいましたが、さて、コンピュータを活用した授業は確立したのでしょうか。
今回はコンピュータを活用した授業について、大西さんの知見をフリーに語っていただきたいと思います。とはいえ、大西さんにお聞きするわけですから、少し負荷をおかけしなければなりませんね。辛口コメントで有名な政策研究大学院大学の岡本薫さんがかつて教育用ソフトを制作していた人たちに向かって「ほんのちょっと離れた所へ行くのにヘリコプターを使う人はいない。教育ソフトを作っていた人は、教師にそういうことを要求していたのと同じだ」と言われていましたが、このことも含めて知見をぜひお聞きしたいのです。
私はコンピュータを活用した授業を考えるには、大きく2つの視点があると考えています。
一つは、通常の授業で教師が大切にしていることが、コンピュータを使うことでより効率的に実現できるのかということです。例えば教科書を全員で読むときに、多くの教師は教科書をきちんと手に持って読むように指導しています。そうすることで、子どもたちの顔が上がり口元をしっかり見ることができ、一人ひとりがきちんと声を出しているか確認できるからです。こういった指導の徹底は、なかなか大変なことです。
ところが、デジタル教科書を黒板に写すことで、自然に顔が上がるようになります。簡単に子どもたちの顔を上げさせることができるわけです。子どもたちの顔を見ながら授業をしたいと考える教師にとっては、教科書や資料を黒板に写すことでその思いを実現しやすくなるのです。
もう一つの視点は、コンピュータを使うことで初めて可能になることなのか、手間をかけても使う良さがあるのかということです。例えば統計の学習で、サンプルをいくつとれば信頼に足るデータとなるのかということを考えさせたいときには、どうしても多くのデータをもとに試してみる必要があります。何千、何万というデータを処理するといったことは、コンピュータの助けを借りないと実現できません。また、図形の性質を思考錯誤しながら考える場面では、図形を一定条件のもとで自由に変形できる幾何ツールのようなものが有効です。これは今までの紙と鉛筆だけの授業では不可能なものです。このような授業は熱心な教師の地道な実践の下、その有効性も確認されてきています。
ここで問題になるのは環境です。プロジェクタや電子黒板とパソコンや実物投影機が、すぐに使える状態で教室にあれば、手間はほとんどかかりません。わずか数分でも利用しようという気持ちになります。しかし、こういった環境が整っていなければ、機器を準備する手間でもう使う気がなくなってしまいます。
子どもたちにいろいろな資料を調べ、比較させながら考えさせたい。一人ひとりの習熟度に応じた問題を解かせたい。こんな教師の思いを実現できる環境が学校現場にやっと整いつつあると思います。ちょっと上の階に行くのに階段ではなくエレベータを使うレベルにはなってきたのではないでしょうか。
これからさらに様々なツールが学校に入ってくると思いますが、大西さんが示された二つの視点は、授業者が常に持つべき不変の視点です。当たり前のことですが、より良い授業を創り出す教師は、「機械好き」ではなく、「授業好き」でなくてはならないということだと思います。
(2009年9月14日)