★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。
【第42回】神田直也 先生
「やめさせる勇気と思いやり」
教師になって6年目28歳のことでした。新任で小学校3年生を担任し、幸せなことにそのまま6年生まで持ち上がり、卒業させることができました。新たな気持ちで高学年を担当し、ちょっぴりの自信と気負いの中で5、6年と持ち上がり、教師6年目を迎えました。
とにかく何にでもみんなで一生懸命!疑うこともなく突き進んでいました。合唱コンクール、運動会など、順位がつくものは優勝しなければならない、優勝に向けてクラス全員が協力すべきだ。それがクラスのまとまりに大切なことだし、個から集団への視野の広がりなんだ・・・と信じて。
そして、迎えたマラソン大会・・・疑うこともなく、クラス全員で体育の時間や放課に練習を重ねました。教室では、一人ひとりのがんばりが優勝に結びつくのだと熱く語りかけました。クラス全員の順位点を合計し優勝が決まります。さらに欠席者は減点対象になります。担任に引きずられるように子どもたちは意気込んで当日を迎えました。ただ、得点源だと思われていたMが数日前に足を痛めたのが気がかりでした。
本番の走りはどの子も一生懸命でした。1点でも多く順位点を稼ごうと、前の一人を追い抜こうとがんばります。足の具合は大丈夫と確認したMも必死の走りをします。しかし、途中から足を引きずるようになりました。「がんばれ、M!」担任やクラスの子どもたちから声援が飛びます。無事ゴールし、気迫で勝った我がクラスは、当然優勝。みんなで喜びました。
その週の週案の反省には、Mのがんばりを褒め称え、クラスのまとまりを自画自賛しました。それに対する教務主任の先生の朱書きは「走るのをやめさせる勇気や思いやりも教えたいですね」とありました。
雷に打たれたようにショックを受けました。同時に自分の傲慢さ、配慮のなさに顔から火が出る思いでした。全体のまとまりの名のもとで一人ひとりを見失うことがないよう、より広い視野を求められていたのは、私でした。
小学校で10年間勤務した後、中学校勤務になり、学校祭でクラスのまとまりを求める場面が毎年ありました。リーダーが頑張ってクラスを引っ張っていくだけではなく、クラス全員が自分の本音を表現し、満足感が味わえるよう願いました。リーダーは、自分の意見を表現することが苦手な子の気持ちが分かり、また、その子たちもリーダーの気持ちが分かる、そんなクラスのまとまりを期待しました。
M達の学年が28歳になったとき、同窓会に呼んでくれました。28歳の若者たちに囲まれ、小学生の時と変わらない雰囲気にまどろみながら、28歳の担任だった自分の未熟さがちくりと痛く思い出されます。東京勤めで来られなかったMと電話で話をしました。出席したかったと残念がるMでしたが、28歳のMの姿を想像することができない私の脳裏には、足を引きずりながら走るあの日のMの姿が鮮明に浮かんでいました。
(2011年4月11日)