愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第40回】千賀輝男 先生
 「思い込み・・・」

小学校を7年経験して、初めて中学校へ転任しました。1年生の担任をさせてもらいました。そのとき出会った生徒のことです。

その生徒は生活習慣が乱れており、時間にもルーズなため、遅刻の毎日です。家庭環境は父子家庭で2人暮らしです。父親は早く仕事に出てしまうため、なかなか時間通りに登校できないという状況でした。父親に連絡しても「仕方がない。」という返事ばかり。彼も中学生なんだから、自立させようと考え、『明日から絶対に遅刻をしない。』という約束をしました。いや、いま考えると私が強引にさせたのかもしれません。私は翌日が楽しみと期待でいっぱいでした。

その日は、あいにくの雨。それも結構大雨。でも、「彼は必ず来る。遅刻はしない。約束したんだから。」と信じていました。「もう来たかな、まだかな。」と気にしながら、職員の打合せが終わって急いで教室へ向かうとなんとひとつだけ空席が・・・。それは彼の席でした。彼はいませんでした。「こんなおれの思いも知らないで、許せん。約束を本当に守らない子だ。」と雨の中、ダッシュして家に向かいました。たたき起こして、「この思いを伝えてやる!」そんな勢いでした。今でも決して優しいとはいえない風貌の私ですから、鬼より怖い形相で向かっていたと思います。

家について玄関の戸をあけながら、「○○!」と叫んだ瞬間です。体が固まりました。彼が玄関に正座しているのです。それもちゃんと制服を着ているのです。私はとっさにこのおかしな状況がのみ込めませんでした。
 それでも私は、「何してんだ!約束だろ!」と怒鳴っていました。そのとき、彼が一言ポツリと言いました。「先生、俺、傘がないで・・出れんかった・・・。」「なな何・・・。」頭が真っ白になっていくあの感覚、いまでもしっかり覚えています。
 彼は約束を守ろうとしていたのです。私が彼の家庭環境のことをもっとしっかりと理解していれば、傘がないことも配慮できていたかも・・・。相手のことを考えずに、自分の立場だけで物事を判断して勝手に約束を破ったと思い込んでいたのです。

「○○、ごめん。そこまで先生考えてやれんかった。」
 2人で1本の傘でさしながら学校へ行きました。少しだけ彼の方に傘を多めに傾けて。

(2011年3月14日)

失敗から学ぶ

●千賀輝男
(せんが・てるお)

昭和55年、教員生活スタート、小学校教諭9年、中学校教諭18年、平成19年度より教頭4年目。 専門は保健体育。中学生時代からバスケットボールに燃える生活をし、教職についてからは、指導に没頭。「人間はろうそくなれ。わが身を削って、周りを明るく照らせ。」をいつも心において生活している。しかし、見た目の頭だけが周りを明るく照らすようになっただけで、がっくりしている。