愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第33回】浅野 哲司 先生
「教育は、愛だよ」

若い頃は、「どうしたらよいのか?」と悩み、「こんなふうにやってみよう!」と試行錯誤を繰り返す毎日でした。
 教員4年目で、小学校5年生の学級担任をしていたときの話です。
 隣の学年主任の先生の授業をチラッとのぞくと、ほとんどの子ども達が元気よく手を挙げています。一方、自分の学級では、手を挙げている子ども達はパラパラ。学年主任の先生の授業との明らかな違いを突きつけられ、闘争心が沸かないはずがありません。“子ども達が手を挙げるようになる”大作戦の始まりです。

 その大作戦のもとになっているのは、書店にずらっと並んでいる教育書。購入したり立ち読みしたりして、紹介されている全国の先生方のさまざまな指導技術にヒントを求めました。発問の仕方や関心の持たせ方、授業の展開の仕方など。「これだ!」と思うものがあれば、翌日には自分なりにアレンジして、試みました。それほどの効果がなければ、また、教育書からヒントを見つけ、試みる。そんな繰り返しをしていました。でも、結局、授業の状況を大きく変えるまでには至りませんでした。
 「もう自分では限界。」と悟り、学年主任の先生に「どうしたら、子ども達があんなふうに手を挙げることができるようになるのですか?」と尋ねました。いろいろな表技や裏技(私には“魔法”のようにも見えましたが)を教えていただけるだろうと思っていましたが、たったの一言でした。

 ☆ 教育は、愛だよ。

正直、初めはその意味するところがよくわかりませんでした。でも、なぜか、この一言は私の心にグサッと突き刺さり、学年主任の先生の姿からもっと深く学ぼうと決めました。その学んだ結果として、自分なりに答えを出すことができました。学年主任の先生は私の日ごろの様子を見ていて、「指導技術はもちろん大切だが、その前にもっと大切なものがあるだろう。」と警鐘してくださったのだと思います。それから4分の1世紀以上もたち、今は若い先生方に、自分のことを思い浮かべると、恥ずかしい限りですが、

○ 子どもが好きだから、子どもは先生・学校を好きになる。

○ 子どもといつもいっしょにいるから、子どもは話してくれる。

○ 子どもと話すから、子どもは安心する。

○ 子どもの話をとことん聞くから、子どもから信頼される。

と伝えています。
 学年主任の先生には、あの一言が意味することの答えを今も伺っていません。もっと違うところに答えがあったならば、この失敗談は“失敗談の失敗談”になってしまいます。そのときはお許しください。

(2010年11月22日)

失敗から学ぶ

●浅野哲司
(あさの・てつじ)

昭和57年、教員生活スタート。小学校教諭10年、中学校教諭12年、派遣社会教育主事2年、教頭3年、平成21年度より愛知県教育委員会海部教育事務所指導主事。専門は社会科(地理学)。大学時代には混声合唱団に所属したが、今は音楽とは全く関係のない生活。休みの日に、2時間テレビドラマの再放送を何本も視ることと、新聞を隅々まで読むことが最大のストレス解消法。