愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第32回】坂野 久美 先生
「今でも『忘れえぬ一日』」

教員としての生活もだんだんペースが出てきて、我ながら脂がのっている状態。毎日子どもたちとも楽しく過ごし、先生たちからも「よくがんばっている」とお褒めをいただき、「何でもお任せください、私、やって見せますわ」…って感じでした。しかし、思い上がりというか、慣れたころの油断というか、それは、それは大失敗をしでかしました。今でも、調子づいてきたとき、いつも思い出す「あの日」「あの出来事」です。

 何回目かの5年生、春の遠足。行く先は、目をつむっていても歩ける○○公園。自分としては、バスの行程も、公園の中の道や施設も、全てが頭の中にしっかり入っているつもりでした。
 バスを降りて、お弁当を食べる場所まで、私が先頭を行きました。他の先生方も、私がこの公園に何回も来ていることを知っていて、あなたが道先案内ですよと、先頭を任せてくださいました。私は、子どもたちと楽しく話をしながら、颯爽と歩いていきました。自由時間についての説明も私がしました。どこからどこまでは行ってもよい場所、トイレはここ、集合場所はここ、遊びはこれとこれ、と注意事項も万全でした。
 楽しい時間が過ぎ、さあ、帰ろうということになりました。バスが待っているところまで、行きと同じように私が先頭です。心ゆくまで遊んだ子どもたちとワイワイガヤガヤ、話しながら歩きました。私の後ろには、長い列が続いています。楽しかった遠足です。疲れていても、皆、すたこらさっさとついてきます。さあ、あと少しでバスの駐車場だというとき、私のすぐ後ろを歩いていた子が言ったのです。
「先生、バス、まだ来てないねえ。」
「えっ?」
なんと、駐車場にはバスがいません。そんなはずはない。時間通りだ。
「なんで?なんで?」
「きゃあぁぁぁ〜」
思い出したあ〜!私は我に返りました。そうだ、事前の打合せでいつもとは違う駐車場に帰ることになっていたんだ。今日は事情があって、違う駐車場に帰らなければいけなかったんだ。「分かっているからいいや」なんて軽く考えていて、ああぁぁ〜、すっかり忘れてたあ!
「わあぁぁぁ〜!!!」

 さあ、それからが大変でした。携帯電話などない時代です。とにかく、違う駐車場に来てしまったことを皆に知らせなくてはいけません。長い列を血相変えて逆走しました。何事か起こったことは、子どもたちにも私の様子で伝わります。信じてついてきた皆からは、「ええぇぇぇ〜!」大ブーイングです。
 でも、とにかく長い道のりを引き返し、バスがいる駐車場へ行かなければなりません。時間もかかっています。私は焦りました。とにかく焦りました。なんてことをしてしまったんだ、とんでもない失敗だ、たくさんの子どもたちを全然違うところに連れてきてしまった、どうしよう、どうしよう、どうしよう!
 引き返す道で、私はいろいろなものにおそわれました。木の根っこが蛇に見え、「ざまあみろ。調子に乗っているからこうなるんだぞ。」と言いました。空の雲はお化けになり、「もうこれで皆からの信用はなくなったね。」と言いました。チョウの羽音が、「おばかだね、おばかだね。」と笑いました。そして、ついてくる子どもたちは、ひとこともしゃべらなくなりました。

 帰りのバスの中は、くらーい雰囲気に包まれました。皆、道を引き返しくたくたになって、楽しかった思い出は吹っ飛んでしまったようです。でも、子どもたちはひとことも私に非難の声を発しませんでした。子どもは子どもなりに、しょんぼりしている私に気を遣ったのでしょう。それが、私にはかえってつらくなりました。

 学校に戻って、私は謝りました。心から「申し訳ありませんでした」と詫びました。たくさんの子どもたちを動かす行事だったのに、「分かっているからいいや」と思い上がっていた自分の姿勢を詫びました。どんなおしかりを受けても仕方ないと思っていました。でも、そのときの主任は、今日の出来事を笑い話に変えて、私を励ましてくださいました。他の先生たちもくたくたのはずですが、皆で笑い飛ばしてくださったのです。

 「慣れているから、分かっているから」と調子に乗っていると思わぬところに落とし穴がある、ということを思い知らされた、今でも「忘れえぬ一日」となりました。

(2010年11月8日)

失敗から学ぶ

●坂野久美
(ばんの・くみ)

昭和57年、教員生活スタート。現在、東海市立緑陽小学校教頭。平成15年度から3年間、東海市教育委員会青少年センター主幹(社会教育主事)として、和太鼓「嚶鳴(おうめい)座」合唱「嚶鳴唄座」青少年劇団「おうめい」踊り「舞美翔(まいびと)嚶鳴」の四座を中心に、青少年文化の創造に携わる。愛知万博で、小学生から社会人まで若者100人と共に舞台に立ち、感動を味わう。
「明日の日本を背負う子どもたちを育てるのだ」と夢はでっかく、「抽象より具体」「考えたら行動」をモットーに奮闘中。