★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。
【第31回】梶浦 寿男 先生
「空回りの進路指導」
中学校3年生担任。人生の岐路に立つ生徒との関わりは、教員にとってとても大切な時間であり、教員としての力量を高める充実した時間であると思います。
今でも苦い思い出として頭に浮かぶのが、初めて中学校3年生の担任をもたせていただいた、新任から10年目の1年間です。
その年は、小学校で9年経験した後の初めての中学校への転勤の1年目でした。にもかかわらず、3年生の担任。期待もあり、不安もありのスタートでしたが、「熱意だけは他の誰にも負けないぞ」と望んだ1年でした。
1学年6学級規模の1クラスです。担任した学級は、たいへん落ち着いた優秀な生徒が多く在籍する学級でした。生徒会役員等も何名かおり、いわゆる誰が担任しても問題が起こらない学級です。中学校の経験がなく、なおかつ3年生の担任ということへの配慮がありありと伺える学級編成でした。
4月当初の授業参観では、参観される保護者の不安げな顔が今でも思い出されます。いたたまれず、授業を中断して自分の思いを演説ぶって語るほど、熱い思いをぶつけた毎日でした。
あわただしく過ぎる毎日を、生徒達に助けられながら様々な出来事を経て学級を構築し、9月の学校祭までは、自分なりに及第点がつけられる学級運営ができていたと思います。
さて、学校祭が終了し、その余韻がさめない中で、大切な進路選択の時期がやってきました。そのあたりから、なにやら生徒と自分との距離が、日に日に大きくなっていくのを感じるようになってきました。より信頼を得ようとがんばった進路指導でしたが、次に示す手だてが逆に大失敗だったようです。
生徒との面談は、定期的に時には必要に応じて実施します。一人ひとりの将来の夢実現に対する思いを担任として受け止め、具体的に生徒に還元していく。あたりまえの進路指導ですが、自分はその手だてのひとつとして、面談に望むときには、進路希望調査から受け取った情報をもとに資料を徹底的にそろえて提示する方法をとっていたのです。
あるとき、同様に進路面談をしていた女子生徒から、こんな言葉をもらいました。「私たちが先生にしてほしいのは、こんな資料を提示してもらうことだけじゃない。もっと進路に悩む気持ちを受け止めてもらいたい。」胸が締め付けられる思いでした。今思うとこのような機械的・画一的な進路指導が完璧と錯覚し、しくしくと空回りの進路指導を続けていたことを恥ずかしく思います。
4月スタートは、初めての中3担任ということで、大切にしていた生徒とのコミュニケーションが、この進路選択の時期になって欠落していたように思います。
情報をもらった時点からの指導方法転換はうまくいくはずがありませんが、生徒個々の力量と保護者の支援に助けられ、結果、全員が希望の進路へ一歩を踏み出せたことを嬉しく思います。そして自分自身も、教員がもつべき大切な心に気づかせてもらった1年に感謝しています。
(2010年10月25日)