愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第23回】野木森 広 先生
「あわててつけてしまった図工の評定」

経験を重ねても、評定をつける学期末は気が重いものです。教職1〜2年目のころはなおさらのこと。 特に苦痛だったのが、図工の評定です。絵や工作をどのようにして評価したらよいのか分からず、感覚的につけた点数にはほとんど差がありません。にもかかわらず、当時は、児童の1割に評定「1」をつけねばならなかったのです。

 事件は、教職2年目に6年生を担任したときの夏休みに起こりました。当時は、クラス全員の子どもに暑中見舞いはがきを送っていました。何人かから受け取った返事の中に、気になる文面がありました。それは、お母さんが書き添えた、次のような一言です。
 「図工で厳しい評価をいただいたので、夏休みの工作に真剣に取り組ませています。」
 …???
 自分はどのような評定をつけたか覚えていません。
 調べてみると彼の評定は「1」。気になって5年生までの評定を要録で調べました。なんとすべて「3」なのです。
 累積簿を調べてみると、「2」の児童とほとんど点差はありません。教室に残っていた彼の絵をあらためて見ると、確かに独創的でした。

 彼に評定「1」をつけてしまった原因を考えると、次のようになります。

  1. 作品の造形性や創造性を評価する目がなかった(得点にはほとんど差がなかった)。
  2. あわてて評価した「鑑賞テスト」の点が合計点に大きく影響した。
  3. 単純計算の結果だけで評定してしまい、点数の意味を吟味していなかった。

2学期からは、図工の評価に慎重になりました。何よりも図工の時間に子どもをよく観察するようになりました。すると、例の児童は、実に生き生きと造形活動に取り組んでいました。休憩時間になっても遊びません。時間が許す限り、作品に工夫を加えているのです。接着剤で固定しにくい個所を、乾くまで針金で縛りつける工夫はみごとでした。彼の2学期の評定は、当然「3」でした。

 1学期の評定のことを母親に謝罪したのは、2学期の個人懇談のときでした。母親の「いいえ、いい刺激になりました。」という言葉には、今でも感謝しています。

 この失敗で、私は子どもが見えていなかったことを反省しました。作品(結果)だけで評価して、学習の過程を見ていなかったのです。点数だけで評価して、子どもの現実を見ていなかったのです。よくコンピュータで成績をつけるといいますが、数値の意味を自分の感覚と照合することは大切です。
 (余談ですが、全国学力・学習状況調査の結果も、点数を解釈することが大切です。)

 この失敗には、もうひとつ副産物があります。
 実は、彼とは逆で、今までほとんど「1」だったのに「3」をつけた児童がいたのです。その児童は、これを機に図工が好きになり、その後ほとんど「3」になったのです。
 (もちろん、図工の評価についてしっかりと勉強をした上での評定です。)

 このことから、子どもには、いい成績をつければ得意になるという一面もあることを学びました。いずれにしても、評価の大切さ、責任の重さを考えさせられる、重要な出来事でした。

(2008年9月22日)

失敗から学ぶ

●野木森広
(のぎもり・ひろし)

昭和55年、教員生活スタート。小学校教諭23年、教頭4年、平成19年度より愛知県教育委員会義務教育課指導主事。専門は理科。大学時代は男声合唱団に所属。今は合唱はしていないが、人知れず大声で歌うことでストレスを発散している。現在、全国学力・学習状況調査の担当として分析プログラムの開発に向けて奔走中。