愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第17回】吉野 和美 先生
「良かれと思って言ったその一言が…」

教師になりたてのころは、自分で言うのも恥ずかしいのですが、子どもと一緒になって笑ったり、泣いたり、怒ったり、困ったりと、全てのエネルギーを子どもに費やす情熱的な指導でした。そんなとき、一人の子どもに出会いました。ここでは、仮にAさんと呼ぶことにします。
 Aさんは、目のくりくりっとしたかわいらしい男の子でした。誰にでも愛想がよく、自分の知っている先生を見かけたら、どんなに遠くにいても手を振り、抱きついてきます。人懐っこい笑顔で、甘えん坊タイプの子どもでした。Aさんは、じっと座っていることは苦手です。授業中でも、誰かに注目していてほしくて、教師のところに擦り寄ってきたり、大きな声を出して授業とは関係のないことを言ったりしていました。わたしは、Aさんは精神的に不安定であると考え、「何とかしたい」と思いました。
 Aさんの接し方については、学年の先生によく相談をしました。相談を繰り返すうちに、「Aさんの不安定な行動は、愛情不足ではないか」という結論に至りました。ちょうどその話をしている時、Aさんのお母さんから担任の私のところへ電話が入りました。私は、Aさんのお母さんの話を聞いた後、待っていましたとばかりに学校での様子を伝え、「愛情不足だと思われます」と話したのです。お母さんはいきなり電話口で愛情不足などと言われたので、頭の中が真っ白になり、何と答えていいのかわからなくなったようです。
 次の日、便箋3枚にぎっしり書かれているお手紙をいただきました。その手紙には、私が良かれと思って言った一言「愛情不足」という言葉について、お母さんの思いがつづられていました。その手紙を読んだ時、私は「しまった!」とものすごく後悔しました。「愛情不足」という言葉を電話で保護者に言ってはいけなかったのです。

 この失敗から、次のことを学びました。

  • どんなに子どものことを思っていても、たった一言で保護者との信頼関係を壊してしまう恐れがある。だから、常に相手の立場を考えながら話をする。
  • 大事なことを話すときは、直接会って思いを伝える。
  • たとえ愛情不足だとしてもストレートにその言葉を言わないで、保護者自身が気づけるように話をする。

幸いにもその後、Aさんのお母さんと面談をし、学校や家庭での接し方についてじっくり話し合ったので、Aさんは見違えるように落ち着きました。若かりし頃、自分の思ったことに向かってまっしぐらだった私にとって、この失敗で「相手を思いながら話す大切さ」「周りに目や気を配る大切さ」を学びました。

(2008年5月19日)

失敗から学ぶ

●吉野 和美
(よしの・かずみ)

1986年より教員を続けている。2002年に情報教育と出会い、本格的に研究をスタートさせ、2006年には社会人大学院生として情報学を学ぶようになる。子どもたちには、情報社会での生き方を身につけてほしくて、ポスターやコマーシャルの分析やインターネット上での情報が広がる仕組みなど、「メディアとのつきあい方学習」を視野に入れた教材開発を行っている。