愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第16回】横田 茂樹 先生
「乙女心をつかむのは難しい!」

初任の時の失敗です。私は中学校に採用され、その年1年生の担任となりました。ただし、教員採用試験にすぐ合格したわけではなかったので、前年は講師として小学校2年生を1年間受け持っていました。教員のキャリアとしては2年目の時の出来事です。この失敗を通し、乙女心をつかむ難しさを知ったのです。

 自分のクラスに、数学の学習内容がなかなか身につかない女子生徒がいました。その日も、その生徒が分かるように必死で教えたのですが、授業終了の時間が来てしまいました。そこで、帰りの短学級が終わり、帰りかけるその生徒を、私は呼び止めました。その生徒が授業で分からなかった点を理解してもらうためです。
 新規採用になって最初に自分が担当する生徒たちです。授業で遅れさせたくない。分かるようにさせたい。そんな思いが強かったと思います。小学2年生を相手にしてきた今までも、時計の読み方や計算など、勉強が分からない子どもがいたら、私は休み時間や放課後でも時間を作って個別に指導してきました。そんな私にとっては、今までとなんら変わらない行為でした。
 しかしその生徒は、私が呼び止めたことを「善意」とは思ってくれませんでした。むしろ逆にとらえました。その生徒は当然小学校でも算数に苦手意識があったはずですから、私に帰りがけに呼び止められて嫌だったに違いありません。みんなが帰る中、自分だけが呼び止められ、担任の机の前で指導を受けている。プライドも傷つけられたことでしょう。後になって思えば、そんな気持ちで話を聞いても学習が頭に入ることはなかったと思います。逆に、女子生徒には、私に対する反抗心を芽生えさせてしまいました。
 思春期という微妙で複雑な心理の生徒たちに対して、私はその時あまりにも鈍感でした。その生徒は、学級の中心的な存在でもあったため、影響はさらに大きかったです。「横田のやろう・・」と友達との会話でも話題になったことでしょう。反抗心は他の生徒たちにも広がりました。

 学習が成立する基本は、まず生徒と教師の人間関係、信頼関係の構築が重要です。その関係がギクシャクしてしまっては、たとえ正しい指導であっても、生徒は素直に受け入れてくれません。人は命令で動くのではなく、ハートで動きます。特に思春期の中学生はそうです。それを学ぶことができた失敗ではありましたが、失敗の修復には時間がかかり大変でした。

(2008年5月5日)

失敗から学ぶ

●横田 茂樹
(よこた・しげき)

平成元年、中学校教員としてスタート。途中養護学校高等部にも異動となり、生徒の進路指導担当としてひたすら企業訪問を繰り返した期間もあった。平成17年に愛知教育大学の志水廣教授のもとに内地留学し、算数・数学の指導法を学ぶ。現在は長野県飯島中学校に勤務する。著書に「中学校数学科 志水式 音声計算トレーニング法」(明治図書)がある。