★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。
【第15回】大羽 沢子 先生
「思い上がり」
教師生活24年。何とか続けてきた私も、たくさんの失敗を重ねてきました。以下は、その最大、メガトン級の失敗です。
30代のころ、教員生活始まって以来の挫折感を覚えた。5年生を担任していたが、6年生に持ち上がったとき、A君が泣いたのだ。うれしくって泣いたんじゃない、嫌で泣いたのだ。皆さん、そんな経験ありますか? 多分ないでしょう! 教師になって10年、仕事がさばけて、けっこう学級経営にも自信があった。(それが、そもそもの間違いだった。)
線が細く、勉強も苦手なところがあったA君のことを励ましたり、気にかけたりして、他の子よりもたくさん手をかけたと思っていたのに。気持ちの優しいA君は、もちろん、私のどこが嫌なのかは言わない。でも、その代わりに涙で伝えたのだ。そっちの方が、リアルで、シビアだ。今までやってきたことが全部否定された感じだった。
それから、いろいろ考えてみた。まわりの子どもたちにも聞いてみた。すると、だんだん分かってきた。私がA君にとって、よかれと思ってやったことが、本当はA君のプライドを傷つけていたのだ。A君は勉強が苦手だった。だから一生懸命教えた。みんなの前で「こんなにA君は伸びたよ。」といった。でも、変な一言を付け加えていた。「前のA君は、○○もできんかったよね・・・。」
ちょっと気弱なA君をかばったつもりで言った。
「A君だってがんばるじゃない。A君のこと悪く言うのはおかしいやろ。」
でも、そう言われた周りの子どもたちは「A君ばっかりかばって」と不満をこぼした。結果、A君は周りの子どもたちからちくちくといじめられた。いじめの原因を作ったのは私だった。もう一度振り返ってみた。A君への励ましには、嫌な教師根性が見える。「私が教えたから、君は伸びたんだよ。」というメッセージが伝わってくる。自分の力をアピールしようとしていた。心優しいA君は、本当はもっと、のんびりと、ゆっくりと、学びたかったに違いない。そして、「伸びたのは君の力だよ、素晴らしいね。」といって欲しかったに違いない。
A君以外の子どもたちにも、一人ひとりに「あなたはここがすごいよ、大好きだよ」と伝えていただろうか。教師として、私は一体何をしていたのだろう。「思い上がってた・・・。」情けなくて、涙がこぼれた。
これが、私の最大の失敗です。こんな経験をして、もう教師は続けられないと思いました。でも、それから十余年、なんとかがんばっています。それは、根性を根っこから叩き直してくださった先輩教師に出会ったから。そしてA君から学んだことを次の子どもたちとの出会いに生かし、学び続け、変わりつづけると決めたから。
幸い、A君はその後元気に中学に進学し、立派な青年になっています。私以外のよき人々との出会いがあったに違いないのです。そうしたことに救われているという思いで、自分の仕事を謙虚に見直したいと思っています。
「うまくできてきたな。」と思ったところから、坂道を下っていくのかもしれません。「うまくいっている」ことを自分以外の目で見てくれる人を見つけることを是非、お勧めします。全てがうまくいっているはずはないのですから。そして、子どもや保護者の声を一度はしっかりと受け止め、自分を磨くチャンスにしていただければと思っています。
(2008年4月21日)