★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。
【第13回】和田 裕枝 先生
「大失敗!初めての研究授業〜子どもの顔も思い出せない〜」
初めて他の先生方に見ていただく授業をしたのは、新任として赴任して、3か月目でした。
いつも元気な子どもたちでしたので、校長先生と研究主任のお二人が、教室の後ろに立たれていても大丈夫だろうと思っていました。もちろん、自分なりに教材研究をし、教具も準備しました。
ところが始まってみると、いつも自分の意見を恥ずかしがらずに発表する子どもが、発言しません。きょとんとした顔をして、固まったようになっています。その子の様子は、あっという間に学級全体に広まり、教師だけが「〜だから〜になりますね。」と一方的に話す授業となってしまいました。私は、胃がきりきりと痛み、立っているのが精一杯となりました。
授業後、指導の時に言われた一言は、「あれが、あなたが3か月間やってきたことのそのままの結果です。」でした。とてもショックでした。
しかし、研究主任の話を聞いて、自分に足りなかったことが明確に分かりました。私は、子どもの顔を全く見ていなかったのです。研究主任が、「A君が・・・と言ったときにね」と説明してくださるのですが、A君がそんな発言をしたことが思い出せません。A君の発言したときの表情も思い出せません。思い出せないというより、初めから、私の頭の中に入っていなかったのだと思います。
そういえば、教材研究するときも、子どもの顔を思い浮かべて考えていませんでした。これを提示すれば、分かるはず。これを発問すれば、こうやって答える子どもがいるから指名すればよい。そんな準備だったのです。
教具も、いつも子どもたちが慣れて使いこなしているものではなく、その日だけの特別な教具。子どもたちは、きっとどうやって使っていいのかわからず、手が出せずにいたのに、その困った様子も見ることができない私でした。
その日から、子どもの顔を見て授業をすることを心掛けました。笑顔になるのは、子どもによってさまざまでした。「計算ができると笑顔になる子」「考え方が発表できると笑顔になる子」「自分が思いつかなかった考えを見つけると、いきいきしてくる子」。本当に一人ひとり、教科によって、内容によって、笑顔になる時が違うことに気づきました。授業の奥深さを感じる毎日でした。
研究主任からは、「次に来るときまでに、子どもは〜ができるように。」「教師は〜ができるように。」と具体的な指示をもらいました。具体的な方法を一つも提示されなかったので、それから大変でしたが、自分の考えた方法で、失敗を繰り返しながら、わずかながらの歩みをしていたと思います。失敗しても「あなたの方法ではだめ」と言われなかったことが、なにより嬉しかったことです。
今思えば、長い目で見守っていてくれたのだと思います。私自身、今、若い先生にいろいろ話す機会がありますが、「あくまでも私はアドバイスをしているだけなので、最後にどうやってやるかは、自分で決定してください。」と話すようにしています。ただし、自分の若いころの失敗を思い出し、『子どもの顔をしっかり見ていると 必ず、自分にあった方法が見えてきますよ。誰よりも子どもが「先生、それでいいよ。そのやり方はよく分かるよ。」と笑顔で返してくれますよ。』と話しています。
(2008年3月17日)