愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第11回】佐藤 正寿 先生
「教室でボツにした学級通信」

教員になって2年目のことです。この年、4年生を担任していた私は、学級通信作りに燃えていました。子どもたちの様子はもちろん、授業のこと、私の教育観など、何でもかんでも学級通信につめこんでいました。常に通信のネタを探していました。

 ある日のこと、学級内で次のような出来事がありました。朝の会で歌担当の係が、新しい曲をその日からすることになっていました。曲名は「四季の歌」。ところが、次のような歌声が聞こえてきたのです。
 「愛を語るハイネのような僕のヘンジン
 係の子どもたちが書いた歌詞の模造紙を見ると、「恋人」が「変人」になっていたのです。私は苦笑し、小説「青い山脈」のラブレターの話(「恋しい恋しい」を「変しい変しい」と書き間違えた話)をしました。
 そして、翌日の学級通信もこのことをネタにして、「小4の子どもたちが『愛』『恋』といった言葉が入った選曲をするのは斬新。異性を意識し始めたのかも」というようなことを書きました。これは保護者にはウケるだろうなあ・・・なんて思いながら。

 ところが、印刷して教室に持って行ってから、私は「カァー」と体中が熱くなりました。歌詞を間違えて書いた洋子の「私のわがまま聞いてください」という題の日記を読んだからです。
 【(何が変人よ。変人でわるかったわね)と思った。だって朝の会でまちがえたからって、みんなまちがえたままうたうんだもん。わたしは、むねがあつくなるのを感じた。みんなわたしを見て、わらった。先生もわらった。それだけならいいけど、先生わざわざ変人のはなしするんだもん。
 早紀ちゃんもオルガン係なのに、私の方を見て笑ってた。そりゃ、まちがってかいたのは、私だけど・・・。私は泣きそうになった。でも、ぐっとこらえた。(以下省略)】

 私は自分自身の不明を恥じました。一人の子がこんな思いをしているのに、さらにそのことをネタにした学級通信を出そうとは。なんて鈍感な教師! 当然、その場で学級通信はボツにしました。また、洋子に対しては次のような返事をするのが精一杯でした。
 「まちがいはだれにでもあります。私にも洋子さんにもあります。問題はそれをはずかしがるかどうかです。洋子さんは、だいぶ気にしていますが、ほかの人は気にしていないものです。クラスのうち、大部分の人が昨日のことは忘れていると思います。もう忘れなさい。(といっても気にかかるでしょうが)」

 子どもとは有り難い存在です。このような私の返事に対して、洋子は次のように日記に書いてきました。
 【先生、昨日の返事、うれしかったです。やっぱり先生に話してよかったです。むねのもやもやもきえました。わたしが今まで日記をつづけていられたのは、先生の返事を読みたいからだと思います。今回のことで先生のクラスになってよかったと思いました。】

 洋子の日記を読んで、「子どもに教えられるというのは、このようなことなんだな」と感じました。知らず知らずのうちにしている教師の失敗に対して、子どもたちはそれを失敗と思わず、自分の力で乗り越えようとしています。子どもの持つ力の偉大さを垣間見た思いでした。

(2008年2月18日)

失敗から学ぶ

●佐藤 正寿
(さとう・まさとし)

1985年より岩手県公立小学校に勤務。社会の教材開発が大好きで、家族旅行でもつい地元の話に夢中になり、家族から冷たい視線を浴びることも・・・。最近はICTを活用した授業づくりに力を入れている。学級通信は担任であった22年間で累計で3400号に達した。そのノウハウを「手軽に発行 学級通信のアイデア40」(ひまわり社)にまとめ、2007年6月に発刊。*佐藤先生のホームページへはこちらからどうぞ。