★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。
【第9回】野木森 広 先生
「思い込みで進めてしまった算数の研究授業」
教職5年目ぐらいのときの研究授業の話です。
研究授業というのは、たとえ学年の教師だけが見合う程度のものでも、気負いこんでしまうものです。5年目ともなると、いろんな分掌を任されて忙しい時期です。年間計画で割り振られた私の研究授業の日は、指導案を考える余裕もないまま数日後に迫ってしまいました。
単元は「立体」で、導入の場面です。教科書には、典型的な柱体と錐体の図があって、それぞれの特徴がまとめてあります。教材室へ行くと、角柱、角錐、円柱、円錐、球の模型が1セットしかありませんでした。
私は、これら典型的な立体モデルを見せて性質をまとめさせるだけでは物足りない気がしました。そこで、グループに1セットずつ、立体のモデルを自作することにしました。
私が自作したモデルは、A:普通の四角柱、B:普通の四角錘、C:少し斜めに傾いた四角柱(1組の側面が平行四辺形)、D:中心がずれた四角錘(側面が二等辺三角形ではない)の4つです。そして、次のような授業を考えました。
(1)典型的な立体モデルを見せ、それらを角柱や角錐などに仲間分けする。
(2)仲間分けをしたそれぞれの立体の特徴(底面、側面の形や数など)をまとめる。
(3)A〜Dの自作モデルを各グループに与え、それらが仲間分けをしたそれぞれの立体の特徴にあてはまるかどうかを話し合わせる。
これなら、それぞれのグループが立体模型を手にして観察する活動ができ、それにより思考力を高めるという研究テーマにぴったりだと思ったからです。
4種類の立体模型を6グループ分、厚紙で作るのはかなり時間がかかりました。指導案の作成も含め、睡眠時間を削って作業をしました。
いよいよ授業当日を迎えました。研究授業は淡々と進みました。
問題の、自作モデルを使った場面も、子どもは少し難しそうでしたが、Aの四角柱は角柱の特徴に当てはまる、Bの四角錘は角錐の特徴に当てはまる、Cの四角柱は側面が長方形ではないので角柱の特徴には当てはまらない、Dの四角錘は側面が二等辺三角形ではないので角錐の特徴には当てはまらない、と子どもの意見を教師の思惑通りに導きました。
しかし、授業が終わっても、なんだかすっきりしません。満足感が残らないのです。
授業後、頭のいい控え目なA君が、Cの立体を持って私の所へ来てこう言いました。
「先生、この形(Cの立体)をこう置いたら(平行四辺形の面を下にして置く)どうなるの?」
そのとたん、私の頭の中に衝撃が走りました。Cの立体は平行四辺形を底面にすれば、すべての側面は長方形となり、角柱の条件に完全に当てはまるのです。
「いいことに気付いたね。」と褒めたものの、授業は終わってしまっています。立体を横にしてみることにも気付かず固定観念で授業を進めてしまった自分を情けなく思いました。
授業後、すっきりした気分にならなかったのは、子どもが混乱していたことを雰囲気で感じ取っていたからでしょう。当然、研究協議でもこのことが話題になりました。角柱、角錐の概念を養う導入の場面で、典型的ではない立体を導入することによって、子どもの思考を混乱させた、というのです。言われてみればそのとおりでした。
今ならば、もう少し余裕をもって教材研究をしていたでしょうし、いたずらに難しい形は扱わなかったでしょう。
そして、扱ったとしても、A君のような子どもの表情を読み、この意見を引き出していたでしょう。そうすれば授業はもっとおもしろい展開になったに違いありません。
研究授業で緊張していたとはいえ、子どもの様子を敏感に感じ取り、柔軟に授業を展開するという姿勢に欠けていたのです。反省しきりでした。
よく言われる「計画は綿密に、対応は柔軟に」という言葉の意味を深く感じ取った貴重な失敗でした。
(2008年1月21日)