★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。
【第6回】神谷 和宏 先生
「決まらない学級委員、『えっ!誰も立候補しないの』」
2年目、中学校で勤務して初めて2年生の担任を任されました。
「今年はやるぞ!」意気揚々として新しい学級に臨みました。
そして、始業式の日、ある子どもに「学級委員は君に是非任せたい!君しかいないから頼むね。」と話しておきました。根回しはバッチリ。「先生、いいよ。やってあげる。」とOKをもらって安心しきっていました。
しかし、学級委員を決める日の朝、「先生、やっぱりやめる。」と一言。一瞬にして奈落の底に突き落とされました。学級会が始まり、学級委員を決める段階になりました。
「学級委員をしてくれる人は、立候補してください。」
誰もがシーンと静まり返っています。
「では、推薦してくれる人を考えてください。」
やはりシーンとしたままです。
「何だこれは、いったい何が起こったんだ。」と気が動転して1時間が終わってしまいました。結局、その日は何も決まりませんでした。
そこで、あの子にもう一度聞いてみることにしました。
「君は学級委員に立候補するって、約束したんだけど、急にやめると言い出したよね。どうしてなの?」その子は、最初は「別に・・・、本当はやりたくないから・・・。」とのらりくらりと交わそうとしましたが、一言、こう付け加えました。
「だって、先生が何でも決めちゃうんだもの。」と。
その瞬間、自分自身の脳裏に一筋の閃光が走りました。
前日、
「えっと、教室の座席は、当分の間、名簿の席順です。授業の先生が覚えてくれないとね。」
「それから、給食当番もどうせ回ってきて同じだから、順番ね。」
「清掃区域は、決める時間がないので、とりあえず昨年1組だった人は教室で、2組だった人は外庭・・・をお願いします。」
「学級の級訓は、先生は「WA(和・輪・話)」がいいと思うな。結構イケテルでしょ。もっといいのがあったら考えてきてください。今度決めます。」
というような調子でした。
新しい学級を任され、学校で一番活気のある学級にしたいと思い、やる気満々の私は、これが最高だと新しい企画を考えていました。しかし、すべては、教師の指導で動かそうとしていたのです。子どもには、「君たちの学級だよ。」「楽しんでやろうね。」と口にしていたのに、実は教師の学級を作ろうとしていたのです。初めての担任として「君は良くやっている」と周りの教師からの高評価を受けたかっただけでした。
子どもにとっても「こうなりたい、良くなりたい」というポジティブな気持ちがあります。それを信じることをしなかったのです。教師が信じてくれていることを感じれば、そこに、安心感を生み、その安心感と期待感で前進していくのです。「子どもを信じる」そんな当たり前のことが、最も難しかったのです。
(2007年12月10日)