★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。
【第2回】酒井 直樹 先生
「感情的な一言で失った信頼関係」
とにかく、私の若いときは、失敗の連続でした。今回は、その中のひとつを紹介します。
今から20年以上も前のことです。その当時、愛知県の高校入試は国語・数学・英語の3教科でした。業者テストも花盛りで、学校全体で参加するなど、今以上に受験戦争という言葉がぴったりの時代だったと思います。
私は数学の教員です。とにかく生徒の学力を上げようと、毎日必死にプリントを作って課題にしていました。今のようにパソコンはありません。すべて手作りです。問題プリントとその解答を作ると、夜中の12時を回ることがよくありました。
そんな中、こんな事件がありました。
生徒Aはよくできる女の子でした。課題にもまじめに取り組む生徒でした。その生徒Aが課題プリントを中途半端で出したのです。赤ペンで「最後までやりなさい」と書いて返しました。次の日も中途半端でした。「最後までしっかりやりなさい」と書いて返しました。そして、次の日も…。私はもう許せんという気持ちで、生徒Aをクラス全員の前で、
「このプリントを作るのに何時間かかっていると思っとるんだ。できるのに、なんでやってこん。いい加減にしろ。」
と怒鳴ってしまいました。
生徒Aは泣き崩れ、この事件以降、私との関係が悪化したことはいうまでもありません。後からわかったことですが、生徒Aは数日前から体調が悪く、勉強も十分にやれなかったと聞きました。
今から思うと、なんてひどいことをしてしまったのだろう、生徒Aに謝罪したい気持ちでいっぱいです。自己中心的で、生徒Aの気持ちも考えないで、感情的に指導してしまい、本当に情けないかぎりです。穴があったら入りたい気持ちです。
今ならこんな失敗はしないと思います。生徒Aがはじめて課題を中途半端で出したとき、次のように声をかけます。
教師: 課題を中途半端で出して、どうしたの?
生徒: ちょっと体調が悪くて。
教師: 無理しなくてもいいよ。元気になったらやればいいから。
生徒: はい。
ちょっとした声かけから、コミュニケーションが生まれます。どんなに忙しくても、一日に1回は声かけができるといいですね。生徒との信頼関係を深めるためにも。
(2007年10月15日)