愛される学校づくり研究会

『なにも変わっていないと思えるのに、彼にとっては、すべては変わってしまっていた』

【第1回】不登校生徒のこころの変化を追う(1)

現在は兄と中三の彼と母親の3人家族。兄は、昨年高等学校に進学したが、中途退学をした。中三の彼も中二までは、他校の友人や卒業生との関わりもあって家庭生活が乱れ、怠学。ほとんど学校に顔を見せることがなかった。ところが中三になってから、彼はなぜか登校を始めた。彼のこころを学校へ向けさせたものは何か…。

 中二の欠席総数が100日を遙かに超えた。担任も中三へ向けて、何とか登校させようと働きかけを行った。しかし、残念ながら登校したのは修了式の午後だけだった。母親もこのままでは、中三になっても登校しないのではと不安を抱いていたが、担任はあきらめずに「自分の将来を大切に考えるように」と働きかけを続けた。
 中三になった彼に五月の半ば、直接話を聞いてみた。そして分かったことは、彼が登校を始めた最大の理由は、自分の将来のこと、つまり進路であった。
「高校へ行きたい。高校へ行くために学校へ行くことにした。」
 母親も、高校へ行けと言う。自分も今の社会のことを考えると、高校ぐらいは行っていないとまずいかなぁと思っている。だから、このまま欠席をしていたんじゃ、高校へ行けない。だから学校へ行くことにした。

 彼の場合は、病的な不登校ではない。再登校を始めるのに壁は少なかったかも知れない。しかし彼にも不安はいっぱいある。学校に来て思い知らされるのが、学力の問題。まったく授業について行けない。国語は何とか話は分かるが、英語や数学は完全にギブアップと彼は言う。このままでは受験しても合格できないのでは…? 彼が言うには、高校であればどこでもいい、穴があく高校があって欲しい…。経済的には母親が何とかすると言っているから、私立も受験するかもしれないけど、公立に行きたい。今考えているのはI高校。
 4月は欠席が5日。5月も一週間を超えることはないと思われる。しかし、どこまで分からない授業に耐えられるか。中間テストの結果も、現実の厳しさを彼に突きつけるはずである。本校が持っている、学習支援システムへの参加もうながした。しかし学習支援を受けても、すぐに結果はでない。彼自身にもモチベーションを保ち続ける努力をしてもらわないといけないことはいうまでもない。

 ここで一般に学校(教室)復帰をした生徒に、どのような配慮が必要か? ということを十分理解していないといけない。そのことを学校復帰へ向けての『3つの支援 』と名づける。
 

(1)学習の遅れに対する支援
  • 教室で他の生徒と同じペースでは、「遅れの差」は縮まらない。また、「わからない」ことを「わからない」と言えない恐れがある。それによってさらに孤立感が強まる。そして、さらなる遅れの広がりが懸念される。
(2)自尊心を守るための支援
  • 学習の遅れ、学力のなさという現実を目の当たりにして、そこから逃避しようとする。テストでは、×をつけられることにこだわる、また最初から答えを見て分かったふりをする。そういった行動をとることがあることを理解する必要がある。
  • 上記の事例のような場合、まず、「将来のため」に「学校に行くことにした」と本人が決めたことに対する十分なねぎらいが大切だと思われる。たとえば、「よく決めたね!なかなかできないことだよ。そんな君を是非先生も手伝いたい。一緒にがんばろう。」等といった励ましが必要。
  • 「守られている」という実感を与えることも大切だと思われる。これには家庭の支援が欠かせないが、そういった実感を持てることで、ストレスフルな場面でも自暴自棄にならず、自己を保ち、努力を継続していくことができると期待できる。
  • 「勉強で遅れをとっている」ということは、本人も重々承知しているでしょう。しかし、それを認めることは嫌う。認めてしまうと様々なことにかかわっていく勇気が出しにくくなってしまう。
  • 「できる!」ということの積み重ねが大切。簡単な事柄でもいい、本人が進んでやっていこうとする学習計画・レベルの調整・管理。本人がやったことに対する何らかのレスポンスが重要。「今やっていることは意味があるんだ」という実感が持て、努力の継続・学習面での伸びが期待できる。
(3)経験値を与えるための支援
  • 教室復帰を急がず、障害になっている壁を一つずつ取り除くこと。別室登校や別室授業などの配慮をしながら、その生徒にとって障害になっているものを排除する。復帰へ向けて十分時間をかけて、経験・シミュレーションを繰り返して復帰へ近づける。
  • (いまやっている)目の前のことが今後(将来)につながっていくという実感や、「これだけやったんだ」ということがわかる、わかりやすい目標・到達度を示す。そうすることによって、充実感を与え、モチベーションの維持や地道な努力の維持につながり、様々な学習・体験が経験として確実に積み重なっていくと思われる。またそのためには、他者(家族・先生・友人・近所の人など)との関係性を維持していくことが大切になる。→「人生の先輩」からの知恵・アドバイス

終わりに、学校復帰をした生徒に対して、カウンセラーとしても、ふり返り面接・フォローアップ面接を行い成果を確認する必要がある。また、復帰後も担任に対するカウンセリングは続ける必要がある。場合によっては、保護者(母親)のカウンセリングも続けないといけないと考える。

(2006年6月5日)

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●赤星 次夫
(あかほし・つぎお)

愛知県小牧市立光ヶ丘中学校教諭。保健体育科担当。保健指導主事。“詩人赤星” と言われるように、子どもたちに語りかける言葉からは美しい映像が浮かび、その言葉の持つ力に魅了される。またキリッとした口調は、子どもたちのからだにも心にも、心地よい緊張感を生み出す。いつも子どもの心に視点をおいた職員への呼びかけは、学校全体にピリッとした空気を作り出している。