愛される学校づくり研究会

【第3回】関わり学ぶ生徒を育てる −国語科における学習集団作り、この一年−


1 4月の学習集団状況 

昨年度卒業した3年生。4月当初、学習集団状況は次のようであった。

  1. 教科によって、大変騒がしい授業がある。また、課題に対してまじめに取り組めない生徒がいる。
  2. 小集団の話し合いでは、男女分け隔てなく話し合える班が多いが、一部で自己表現できない生徒もいる。
  3. 元気よく手を挙げて発言すればよい授業ととらえている傾向が強い。
  4. 自分の意見を言うことで満足し、他から学ぶ姿勢が少ない。他の発言を受けとめられない。


 ベネッセ編集部によるところの「自立的な学習者・学習集団形成」でいえば、「集団?未成熟・未成立(人間関係が希薄で、相手の意見を聞き合わない。)」は脱しているが、「集団?安定(相手の言うことを聞くことができる支持的な風土である。)」には至っていないという段階であった。これを「集団?活性化(反対意見が自然に言える。教え合い・学び合いが成立する。)」まで成長させるには、どんな手だてを講じるか。次のように計画した。


2 集団形成目標とその方策(計画)

  形成目標 具体的方策 関連活動
5月 男女の区別なく自然に関われる雰囲気を作る。 授業スタイルの確立 座席の工夫 友達紹介
社会体験学習への取り組み
6月 人の話を最後まで聞いてから話す雰囲気を作る。 社会体験学習班別行動調べ学習への協同的取り組み 学級の問題解決
学級の時間の工夫
7月 課題に対してまじめに取り組む雰囲気を作る。 古典授業での課題追究とふり返りの定着 学習個別面談
9月 人の話をしっかりと受けとめて聴く雰囲気を作る。 スピーチでの感想・意見交換 体育祭への取り組み
10月 わからないことを訊き、学び合える雰囲気を作る。 「情報社会に生きる」授業で難しいハードルを与えて皆で考えさせる 文化祭への取り組み
11月 自分の意見が自然に言えて訊けて学び合える雰囲気を作る。 「情報社会に生きる」授業での話し合い活動 進路指導の充実
12月 反対意見が言い合える雰囲気を作る。 「敬語」「漢文」授業でのディスカッション 社会貢献学習への取り組み
1月 楽しく学び合える雰囲気を作る。 「故郷」の授業でのコミュニケーション 受験に向けての取り組み
2月 課題に対して自主的に教え合い・学び合う。 「故郷」の授業でのコミュニケーション 卒業に向けての取り組み


3 実際の指導

計画をもとに、生徒の様子に対応しながら、国語科で指導してきた過程を記す。

  生徒の学習状態 主な単元(教材) 具体的方策
4月  思いつくままを話すことはできる。自分の発言を言えば満足し、他の発言を受け入れられない。 「日本語は乱れているか」  文章に書かれていたことを自分の言葉に直して4人班の中でしっかりと伝えさせる。
 班員の意見をメモしながら最後までしっかりと聴かせる。
5月  班の中では自分以外の人の意見をメモしながら聞き取れる。
書いたことを読むだけで、相手に伝えようとする気持ちが少ない。
「説得力のある文章」  社会体験学習班別学習に関して調べたことを3人班の中でわかりやすく説明させる。
 班別学習インタビューを想定し、相手の顔を見ながら話し聞かせる。
6月  少集団の中では、身構えずに話ができる。
話し合いが全体に広がると最後まで聴けない生徒が出てくる。
「文章を推敲しよう」
「君待つと」
 社会体験学習班別学習まとめの文章を3人班の中で読み合い、互いの文にアドバイスをし合う。
 作者の想いを想像して和歌を朗読し、誰のどんな読みがよかったかをふり返らせる。
7月  友だちの考えを聞くのが何となく楽しいと感じられる。
自分の考えを言えば満足してしまい、異同を聞き分けたり、すりあわせたりすることが少ない。
「夏草」  学習課題を工夫して生徒の興味を引き、「おくの細道」の旅に出た芭蕉の思いを様々な角度から多面的にとらえさせる。それを全体の場で伝え合わせる。
9月  自分の思いと友だちの思いを比べ、「同じだ」「ちょっと違う」と自分の中で反応しながら聴ける。
相手が言いたいことを聴き取ることができない。
「夏の思い出をスピーチしよう」
「キーワードメモのとりかたを学ぼう」
 夏の思い出の品物を一つ決め、思い出にまつわるエピソードを想起させるような質問をし合わせる。
 文章を聴いてキーワードだけを聴き取ってメモさせる。
10月  みんなと想いを共有することが心地よいことだという感想を持つことができる。
まとまった文章を読むという学習に難しさを感じて苦しんでいる生徒もいる。
「マスメディアを通した現実世界」  論説文を読み、文章を自分の言葉に置き換えて話させる。難しい文なので、わからないことは班の中で教え合わせる。
11月  わからないことやもっと知りたいことを訊くのは恥ずかしいことではないという雰囲気が出てくる。 「情報社会に生きる」  意図的に組んだ班ごとに、違う資料を読んだり、メディアを分析したりして、情報社会で起きている事実を知って自分の意見を確立させる。
12月  作品をしっかりと読み、難しい課題に対しても真剣に考えて自分の意見を確立しようとすることができる。 「学びて時に・・」
「表現の視点」「自分の記録を残そう」
 漢文訓読や解釈、文法学習を班で協力して行わせる。
1月  間違いを指摘したりされたりすることへの抵抗が消える。
 「こうだからこうなんじゃない?」という説明ができる。
「敬語」  敬語を使って班やクラスの仲間と会話させる。「セレブな会話をしよう」という目標の下、臆せずに話させる。
2月

3月
 班の中では、わからないことを訊きあい、教えあい、反対意見も自由に言い合える。班員の言葉を聴けない生徒がいない。
みんなで学ぶことが楽しいと心から感じられる。もっと聴きたい、もっと話し合いたいと思える。
「故郷」  小説「故郷」を描写に即して読む。わからないことは班の中で解決させ、全体の場では自分がどう感じたか、どう読んだかを進んで話させる。みんなの考えを聴き合い、多様な読みを知って自分の考えを深めさせる。

1学期は、班の話し合い指導に重点を置いた。授業の中で、毎時間必ず班の話し合いを入れ、話し合いの手順もその都度示した。はじめに、自分の考えをきちんと伝えることを心がけさせた。また、自分以外の人の考えをしっかりと耳で聞いてメモすることもさせた。書いたものを写すことはしない、相手の名前を明記してメモするというような基本的なルールも徹底した。
 班の人数は最大で4人である。自分以外のメンバーは3人なので3人までの意見なら聴けるし、メモをとることに苦痛も伴わない。作文の推敲のように長い文に関して伝え合ったり話し合ったりするときは、3人班で行わせた。3人班になればより顔を近づけて話せるし、意見も言いやすい。少ない人数から「話し合い」に慣れさせていった。生徒たちは徐々に「聴くと楽しい」「話すと達成感がもてる」という感覚を身につけていったように感じた。

2学期は、聴くことの指導に工夫を加えた。最初にスピーチを取り入れたのだが、その原稿作りの際にアクションラーニングのルールの一つである「質問中心のセッション」を取り入れた。4人班になって、それぞれの思い出の品物について質問し合い、答えあう。それによって思い出を鮮明に甦らせ、自分の体験を想起させてから、原稿作りに向かわせるという方法だ。前もって考えたことを伝え、聴くのではなく、聴いてさらに質問する=訊く活動へとつなげた。
 さらには、聴き方の工夫として「キーワードメモ」の学習をした。相手の言葉すべてをメモするのではなく、重要なことだけを聞き分けてメモさせる。聴く時間の短縮にもなるし、相手が何を言いたいのかを一生懸命聴く姿勢にもつながった。2学期後半には、毎時間の授業の課題を意図的に難しくした。そこでは、わからない人から訊くことを心がけさせた。

3学期は、全体での話し合い指導に重点を置いた。もちろん班の話し合いも取り入れていたが、この頃になると取り立てて手順を示さなくても班の中で「えっ?」「どういうこと?」「だってこうなんじゃないの?」「こうも考えられるよ」という関わり合いが自然にできるようになっていた。
 全体での話し合いは、思い切って挙手なし発言を取り入れた。挙手や指名を待つのではなく、自分が話したくなったら立って話す方法である。教師も生徒と一緒になって発言を待ち、聴く。板書はしない。いつ誰が話すかわからないし、様々な発言に出会えるため、興味深く聴く姿勢ができていた。


4 一年終えて

年度当初、計画を立てては見たものの初めて出会う生徒たちであったため、現状を把握するのに随分時間がかかった。その都度、生徒の姿を見ては「今度はこれをやってみよう」とこちらが挑戦する形で進めてきた。一年終えて知ったことだが、生徒たちにとってはかなりハードルが高いと感じていたようだ。それでも、すべての生徒が投げ出すことなく取り組めた。これも、先生対生徒という形で進めた学習ではなく、常に仲間と「関わって」進めてきた成果と考える。互いに刺激し合い、知らぬ間に励まし合って学べたのであろう。
 今、生徒は何ができて何ができないのか、何をすればそれが克服できるのか、それらを感じて手だてを講じる、その作業はまさにおいしい料理を作るときの「さじ加減」に似ている。行きつ戻りつしながら生徒とともに成長していけるその過程が、とても楽しいと感じられた一年であった。
 

生徒の授業感想
●今年度の国語は、難しかったです。でも、ただ読むだけじゃなくて、一つの答えを見つけるわけでもなく、自分しかできない考えを出させてくれたので、難しかったけれど楽しく考えられました。
●先生の授業はやっぱり独特だと思った。難しいことが多くて混乱しまくったけれど、みんなと話したり考えたりすることが楽しくて、「真剣勝負」できた。

(2006年5月15日)

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●栗木 智美
(くりき・ともみ)

愛知県小牧市立応時中学校教諭。国語科担当。「授業は真剣勝負」をモットーに、グループ活動のある学び、仲間との協同的な学びの授業を追究中。すべての生徒の表情が輝き、集中して学び合うエネルギッシュな授業づくりには定評がある。その授業力は岳陽中の前校長佐藤雅彰氏や「東海国語教育を学ぶ会」の石井順治氏も絶讃している国語教師である。