【第3回】9月種まき 12月の実りへ −個を育てる−
(毎度のことながら、先輩との語録からスタート:つくづく良い上司や先輩に恵まれたものである)
「これは誰の所見?」
穏やかな人柄で、卒業文集作成などの細かな作業を快く引き受けて実行する態度は立派です。英語では、予習・復習に努め、スピーチやリスニングの発表に励んで、学力を伸ばしました。
ある年の師走12月繁忙期、通知表の所見を点検した学年主任から、名前を隠されて質問された経験がある。私は一瞬考えたが、幸いにもキーファクターとなる言葉『卒業文集』という文字を見つけたので、無事に生徒名を当てることができた。次に、この上司は続けて曰く「正解。では、この文章がその子にとって大きな成長の証となるならば、夏休みの懇談や9月からきちんとその種をまいておいたのかな?」と問われた。当時、私は返す言葉がなかった記憶である。
すると、「これはあくまで結果であり、その子が成長するようにいつ、どんな条件で提示するかが重要なんだよ。運動面やリーダーシップをとれるような目立った生徒は活躍の場や居場所も多い。だから、所見の文章もたくさん浮かんでくる。しかし、学級に40名いれば、おとなしい生徒で担任や他の教師の目に止まりにくい生徒もいる。そんな子をじっとさせておくのは惜しい。1学期にともに過ごして見つけた受け持ちの生徒の良さから、一緒にできることや任せておいてできることを見極め、折にふれて、声をかけたり支援したり、短学級で紹介したりしてみろ。そうすれば、その子のやる気と自信を生み出すから」と良いアドバイスをもらった。要するに、
「植物を育てるのと同じ」
12月にいい話ができ、良い関係が築かれ、良い所見が書けるように…ある意味、担任は農業的な策士でなくてはならないかもしれない。
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学校行事や部活動の新人戦で熱が入ると、ついつい教師が入り込んでしまうことも多い。部活動を終えて職員室に戻った私は、ある先輩の先生から「今日の君は、選手かコーチか。」と問われた。意味がわからず、黙っていたら、「コーチは一歩下がり、全体を見ないと、選手やチームの状況に冷静な判断はできない。実際、U君は足を引きずっていただろう。後から故障がないかどうか聞いてみたか」と話された。うーん、見えていない。確かに、一人ひとりをじっくりと知るためには、時として子どもと同じ目線にたって考えたり、一緒にやってみたりする必要がある(教師にとって、得意分野ならなおさらである)。しかし、
入り込むことと引いてみることのバランス
が下手だと、9月からの種まきや途中の方向性、タイミングの良い支援に成果を上げることは難しくなる。冷たくなく、でも手をかけずに見守り、温かい声をかけてやりたい。
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また、担任が子どもに任せる良いタイミングを見極めたい。私のモットーの1つは
「前向きにやることは叱らない」
である。リーダーとしての工夫、責任者としてのアイデアなど、大切な要素であるが、失敗を恐れると一歩踏み出せない。時には、他人のせいにして逃げる。そういう時は、担任が「やれることはやったのか」と聞いてやる。この一言がものを言う。12月に実ることをあわてる必要はない。みかんの収穫でも表の年と裏の年がある。今年がだめでも3学期や来年にこの経験が生きてくると思って我慢強く、ゆったりとして学級経営を進めたい。
以上、第3話のまとめとして、私は「担任が教室で爽やかな風を吹かせるには、9月までの土壌づくりや種まき、12月の実りに向けた支援が大切である」と考える。農業的な態度と先を見る力量が、2学期の担任のポイントなのであろう。
さて、「昨日までの彼(彼女)はどうだったか・・・と振り返り、今日はこれで勝負!」と短学級に向かう。
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(左)ひまつぶしコンクール作品 : こんなアイデアができる子も貴重な学級の宝
(右)残暑見舞いはがき : 受験生には年賀状もいいが、夏の残暑見舞いも効果あり
(2005年10月3日)