授業改善から学校改革へ

私立の中・高等学校で、教科主任との懇談と授業アドバイスを行ってきました。

高等学校で今年度から取り組んでいる外部試験の結果の報告を受けました。1、2年生を対象にしたものですが、まず目につくのが、2年生と1年生でスコアの度数分布が大きく異なっていることでした。1年生は下位層が非常に大きく、その一方で上位まで分布が伸びています。一方2年生は下位層が1年生と比べてかなり少なく、上位層も広がらず、スコアの分布の幅が小さくなっています。1年生は入学後間もない状況での試験なので、入学時の素の状況を表わしているものと考えられます。2年生については、入学時は現1年生と同じような傾向の分布だったとすれば、入学後、学習意欲が高まった結果、下位層の成績が向上したと考えることができそうです。また、試験と同時に実施された授業や学習の実態調査の結果を見ると、子どもたちの授業への取り組みに前向な傾向が見られます。このことも、この考えを裏付けているように思います。もちろん、学年ごとの独自の傾向と見ることもできますので、今後継続的にデータを見ていくことが必要だと思います。
また、授業に対する集中度の高いコースの子どもたちは、その一方で家庭学習の時間が一番少ないという面白い結果がありました。授業を受けてそれで満足しているのかもしれません。ともあれ、このコースに限らず家庭学習時間の少なさが課題と思われます。これからの時代は、問題集の何ページをやるといった問題演習的な宿題を課すのではなく、授業と直接関係が無くてもよいので、子どもたちが学外で主体的に学びに取り組むようなものを用意する必要があると思います。
一人一台のタブレットがあるので、そこに学びのためのポータルサイトを構築することを提案しました。具体的には、「先生方や子どもたちがお勧めの本を紹介する」「授業から一歩進んだ課題を提示する」「ボランティア活動の紹介やお誘い」といった「招待」、「活動の結果の報告や感想」「それに対してコメント」といった「共有」「価値付け」をするようなサイトです。個人のページからは自分のこれまでの取り組みが、学校のページからは全体の取り組みが一覧できるようなものをイメージしています。どのような形で実現できるかわかりませんが、前向きに取り組んでいただけることを願っています。

教科主任の方との個別の懇談では、どの教科からも授業を変えようという前向な姿勢を感じました。
子どもたちの書く力がついてきているのは、いろいろな教科で書くことを意識した取り組みがなされているからだといううれしい報告もありました。学校全体で目標が共有されてきていることを感じます。
教科として目指す部分と先生方の個性をどう折り合いをつけていくのかが課題だと感じられている方もいました。大切なのは、まず教科としての目指す姿を納得いくまで話し合うことだと思います。実現方法についてはどれが正解ということはありません。互いに授業を見合いながらそれぞれが日々授業改善していくしかないと思います。互いのよさを学び合うことを意識できればと思います。
一方で教科としての連携が進んできたという報告もありました。その教科の複数の科目を受講することで、教科として身につけさせたい力が子どもたちに蓄積されていくようになれば、大きな成果だと思います。
また、子どもたちが私たちの思う以上に、これまでの暗記中心の学習観に支配されていることが話題になりました。そこから脱却させるために、いつも目にするワークシートの柱に「原因を考える」といった教科の目指すものを印刷しておくことも有効かもしれません。
出力型の授業を目指しているが、子どもたちがなかなか話せないという悩みも出されました。読んで理解したり、考えたことを書いたりはできるが自分の意見として話すことができないというのです。この問題は、話すことより、自分の話を聞いてもらえるという安心感を与えることを意識するとよいでしょう。授業のあらゆる場面で、「正解を求めない」「発言を否定しない」ことを心がける必要があります。学級全体が互いに受容し合える雰囲気になることを目指してほしいと思います。

中学校では、教科の壁を越えたプロジェクト型の学習を取り入れたいと考えているようです。いきなりプロジェクト型に挑戦するのではなく、プロジェクトで必要とされる力をいくつかの基本的なものに細分化して、それぞれの力をつけるためのミニプロジェクトを教科の枠の中で行うことから始めることを提案しました。その上で、自由なプロジェクトに取り組むのです。
現在、先生方の用意したテーマでゼミを行っていますが、より主体性を引き出すために自由なテーマで子どもたちに活動させたいとも考えられています。しかし、自由にした場合、活動がどこに向かうかコントロールができないという不安もあるようです。テーマを自由にしても、ゴールを明確にすることで活動の方向はコントロールできると思います。例えば「eスポーツ」をテーマにするならば、「eスポーツが普及するための施策」「eスポーツをスポーツとし認知させるためにどうするか」というように、活動のゴールを明確にするのです。あらかじめゴールのパターンをいくつか提示しておき、そこから選ばせるとよいでしょう。
中学校では、常に新しいことに挑戦しています。失敗もあるし、壁にもたくさんぶつかると思いますが、その経験が先生方に力をつけ、ひいては子どもたちの力をつけることにつながっていくと思います。先生方の挑戦に立ち会うことで、私も大いに勉強させていただいています。

いくつかの授業を見せていただきましたが、授業後アドバイスを求めてくる方は、私が指摘する以前に自分自身で課題に気づいているようでした。課題に気づいているからこそ、客観的な意見やアドバイスを聞きたいのでしょう。

子ども同士のかかわりで問題解決していく授業を目指している先生は、ただ活動させている状態から、どこをゴールにするのかの落としどころを意識するようになっていました。どのくらいの子どもたちが解ければ活動を終えるのかが難しいと悩んでいます。問題を解けたかどうかを指標とするのではなく、子どもたちがどのような状態かを意識することをアドバイスしました。「答」を共有するのではなく、解けるために必要な足場や手がかりは何かを意識して、途中でもよいので、「何を考えたか」「どのようなことをやってみたか」と「考える道筋」を共有するのです。
手探り状態でこの1年間、かかわり合いを中心にした授業に挑戦する中で、課題となることを自身で一つひとつ解決しています。まだうまくやれているという手ごたえは薄いかもしれませんが、確実に進歩していると思います。これからの伸びが楽しみです。

今まで一方的に説明していた若手の授業に少し変化が見られました。子どもたちに問いかける場面が出てきました。何を問いかけるのかを意識するだけで、授業のポイントは明確になります。授業にリズムが出てきました。ただ、問いかけた後に間を持てず、誰かがつぶやけばすぐに自分で説明してしまいます。全員が考える時間を待てないのです。結局、一問一答形式の、教師による一方的な説明になってしまっていたのが残念です。子どもたちが考え、自身の言葉で説明する授業を目指してほしいと思います。

授業改善が、一部の先生や教科によるものから、学校全体を巻き込むものに変わりつつあるのを感じます。学校改革につながる動きが加速しているようです。これからもたくさんの壁にぶつかるとは思いますが、あせらず一つひとつ乗り越えてくれることを願っています。

テンションの上がりすぎに注意

小学校で、経験者と若手の授業を見てアドバイスを行ってきました。初めて訪問する学校です。

共通してどの学年も元気な子どもたちが多いように感じましたが、テンションが上がりすぎる傾向がありました。その要因として挙手指名中心で授業が進むことがあるように思います。子どもたちは自信のある時はここぞとばかりに大きな声を上げて挙手します。指名されたいのでテンションが上がるのです。一方、自信のない時には挙手はしませんが、それでも発言したい子どもはその場でつぶやきます。正解であれば先生が拾ってくれるし、そうでなければスルーされるだけなので傷つかないのです。
先生は発言者の方を向いて話をしっかり聞こうとするので、発言者も先生の方を向いてしゃべります。発言者は先生に受け止めてもらえるように感じます。しかし、発言を受けてすぐに先生が説明するので他の子どもは友だちの話を聞かずに先生を見ています。先生と子どもたちの視線は交わりません。結局、発言する子どもが中心で授業が進んで行くので、多くの子どもは受け身のまま時間が過ぎているように思います。

ある教室のグループ活動では、グループで一つの結論にまとめていました。元気な女子が仕切って、他の男子はよそ事をしていたりします。指名された子どもがグループの考えを発表しますが、他の子どもたちがあまり熱心に聞いていないことが気になりました。子どもたちが活動に真剣に取り組んでいなかった可能性があります。一生懸命参加して考えたのであれば、他のグループの考えが気になるものだからです。もう一つ考えられるのが、課題がやさしすぎて聞かなくても答えがわかっている子どもが多いことです。グループの課題はやや高めにしておかないと、グループになる意味があまりないのです。
授業者は、発表が終わると子どもたちに「OK?」と確認をしてそれで次に進みます。子どもたちに発表を聞く価値を与えないと、聞こうとする意欲が低下していきます。自分たちの考えとどこが同じでどこが違うといったことを問いかけて、発表者以外の子どもたちを参加させるようにすることが大切です。

ペアで音声計算練習をしている学級がありました。答を聞く側の子どもが何もせずにただ立っているだけのペアが目につきました。この活動は聞いている子どもが正解かどうかをきちんと判断して、間違っていれば訂正してあげることが大切なポイントです。一生懸命答えているのにペアの友だちが聞いてくれないので不満の表情が表れている子どももいました。人間関係をつくることもこの活動のねらいですが、かえって悪くなってしまいます。答を聞く側の子どもに役割をしっかりと自覚させることが必要です。活動後、本人ではなくペアの子どもが結果を答えるようにすることも相手のことを意識させる方法です。活性化するための工夫を意識してほしいと思います。

ICTの活用で、ディスプレイに教科書の内容等を表示しますが、先生が子どもたちと同じように画面を見ている姿が目につきました。実物投影機などは操作の確認のために画面を見ることも時には必要ですが、子どもたちの視線と反応の確認のため前を向くことが基本です。子どもたちの様子を見ることを常に考えるようにしてほしいと思います。

この日あった研究授業は、4年生の社会科のごみ処理についてでした。
あらかじめ用意した、「生ごみ」「ティッシュ」「植木鉢」「ペットボトル」などいろいろなごみを分別する活動から入ります。70年前、40年前、現在のどのルールで分別するかをグループに割り当て、作業をしました。このごみはこの種類だと主張する子どもに引っ張られるグループ、ごみを分担して分別するグループといろいろですが、全体的に上手くかかわり合えていないように感じました。生ごみがどのようなものかもわからない子どもも結構います。相談して活動するための足場がしっかりとしていないことが要因として考えられます。
授業者が「今日は〇曜日」と言うと、子どもたちは隣の教室にごみを捨てに行きます。70年前の子どもは好きな時に捨てに行くのですが、一度捨ててしまえばあとは他のグループが移動するのを見ているだけです。
ごみ捨てが終わった後、ごみの種類について子どもたち確認しますが、知らいない、わからない子どもが結構いました。ここで説明しても、本時の活動にはあまり影響はないように思います。やはり、最初に確認しておくべきだったでしょう。
子どもたちに、70年前と今でごみの捨て方が変わった理由を予想させます。何か根拠をもって予想するわけではありません。ペアで聞き合っても、根拠を意識していないので単にしゃべり合うだけです。根拠のない言動をさせることが子どもたちのテンションを上げることにつながっていたように思います。
授業者は、子どもたちに意見を言わせた後に、「いい意見があった」「ヒントになる意見があった」といったことを口にしますが、先生の求める正解があることを示唆したことになります。無意識のうちに子どもたちを誘導しています。子どもたちは自分の考えではなく、先生が何を求めているのかを答えようとするようになっていきます。
また、ハンドサインで賛成かどうかの意思表示をさせました。授業者は全員に意思表示をさせようと、何度も声をかけます。ハンドサインでは全員に意思表示をさせることは必須です。そうでなければ、「いいです」と一部の子どもが声を上げることと差がありません。授業者がこの点を意識できていることはとてもよいと思いました。しかし、ハンドサインで大多数が賛成だからといって次に進むのは危険です。一人でも賛成のサインを示さない子どもがいれば、その子どもの考えを聞いたり、よくわからないのであればわかるような説明を他の子どもに求めたりすることが大切です。また、ほとんどの子どもが賛成であれば強い「同調圧力」がかかります。自分で判断できない子どもも、無責任にまわりを見て賛成のサインを出します。子どものハンドサインに対して、何らかの説明や根拠を問うことをしなければ、無責任な態度を助長することにつながります。ハンドサインを活かすには、相応の覚悟をもって、子どもたちとかかわることが必要です。
最後に子どもたちの発言を授業者がまとめて終わりました。なぜその意見を取り上げたのかは子どもたちにはわかりません。その意見が先生の求めていたものだと思わせて終わることになりました。

検討会はグループでの話し合いを模造紙でまとめて発表する形式でした。あらかじめ視点は決まっていたのですが、どのグループもよいところに目をつけていました。
「前半の活動は子どもたちが積極的に取り組んでいたが、それが後半の活動に活かされていたか?」「ハンドサインは有効に機能していたか?」…など、単によい悪いではなく、その視点から話題が広がっていたので、とてもよい話し合いになっていたように思います。
私からは、子どもの活動だけに焦点を当てるのではなく、その活動を通じて、「どんな力をつけたいのか」「そのために、何を考えるか」「考えるためには何を知っている必要があるのか」といったことを自身に問いかけながら授業をつくってほしいことを伝えました。また、「子どもたちは根拠なく話しているとテンションが上がる。したがって話し合いでテンションが上がっている時は決して深く話し合っているわけではない」ということに注意することが大切です。テンションが上がることはあまりよいことではないことを意識してほしいと思います。
「聞いていてどんなことを思った」「なるほどと思った」と問いかければ、挙手に頼らなくても多くの子どもに発言させて授業を進めることができます。挙手指名による一部のテンションの高い子ども中心ではなく、全員参加の授業を目指してほしいことをお願いしました。

授業者は自分の授業で上手くいかなかったことを謙虚に認識していました。前向きに授業を改善しようとする意欲があります。今回の研究授業で学んだことをもとに、大きく進歩してくれることと期待します。

この学校は今年度5回訪問の予定です。焦らずに、じっくりと先生方とつき合っていきたいと思います。

新年度のスタートの様子を見る

10連休の前に中学校を訪問してきました。今年度のスタートの様子を見せていただくためでした。

3年生は昨年度からの状況が大きく変わっていませんでした。一見すると落ち着いてよい状況に見えるのですが、子どもたちは非常に消費者的です。自分にとって都合のよいことを優先します。教科や授業者によって態度が変わることもよく目にします。
例えば、授業者が手を止めて顔を上げるように指示をすれば従います。しかし、説明を始めると板書を写すことを優先し、写し終れば顔を上げます。まわりと相談するように指示すると、授業に関係したことを相談しますが、隙間を縫って雑談をしたりします。授業者が注意をしても言い訳ができる状況を上手につくります。この先生はどこまでなら注意をしないかを少しずつ試しながら、授業者に応じて自分たちに都合のよい状況を作っているようです。ある意味、非常に賢い子どもたちです。また、彼らとかかわらずマイペースの子どももいます。この状況を変えようとはせず自分の領域を守る、これもある意味消費者的な態度と言えます。人とかかわりながら互いに学び、高め合うということのよさを子どもたちは感じていないようです。
実際に様子を見るまでは、3年生なので受験を意識して、例え個人主義的であってももっと授業に集中しているかとも思ったのですが、それ程ではありませんでした。いろいろな意味で自分たちのペースで緩く生活をしているように見えました。表面的にはここがいけないと子どもたちに注意しづらい状況でした。
進路意識を持たせて自分たちにとって何が大切なのかを考えさせるような働きかけが必要だと思いますが、目先の進学を意識させると、それこそ試験や内申ばかりに目が行ってより消費者的になってしまう危険性を感じます。10年先、20年先の未来を見つめて、自分たちが何を学びどのような力をつける必要があるのかを考えさせることが大切でしょう。授業でも結果ではなく見方・考え方を大切にし、そのことを意図的に価値づけるようにしたり、子どもたちがかかわり合えたことを評価したりすること意識してほしいと思います。

2年生は昨年度末と雰囲気が大きく変わっていました。1年生の後半になると、学力的に苦しい子どもが授業のやり過ごし方を身につけ、学習から逃げている姿がどの学級でも見られるようになっていました。しかし、2年生になって学級も変わり、そんな子どもたちの姿が見られなくなっていました。新学年になって気持ちがうまくリセットされたのでしょう。よいことですが、これで問題が解消されたわけではありません。これを機会に彼らの学習に対する参加意欲を維持しより高めていかなくてはなりません。参加しようとしている姿を認め、ほめ、友だちとつないで関係を作り、子どもたちが手ごたえを感じるような結果を出させることが大切です。最初の定期試験までに何らかの結果を出せなければ、また元に戻ってしまう可能性があります。試験の順位で追うのではなく、まず何をできるようにする、この内容は確実に点数につなげるといった目標を与え、そのために何をすればよいのかを明確に伝えることが大切です。
全体的な雰囲気は、よくも悪くも2年生でした。リラックスして学校生活を送れているように感じる一方で、目標がはっきりとせずに流されているようにも見えます。学年全体で目標を共有して、それを意識した学級経営を行ってほしいと思いまいた。

1年生はとてもよい雰囲気でした。意欲やエネルギーを感じます。ただ、小学校の時のよい状態がそのまま中学校に引き継がれているだけのようにも思えます。授業の振り返りなどはしっかりと書けていますし、積極的に挙手する子どももたくさんいます。リーダーシップを取れそうな子どもも目に付きます。しかし、これらの姿は中学校で先生方が意識して育てた結果ではありません。よい点を強化したり、伸ばしたりすることが必要です。小学校で身に付けたよい行動をほめ、中学校ではもっと上に行こうと次の目標を与えることを意識してほしいと思います。よいつぼみをつけている花でも、水やりや肥料を怠れば枯れてしまったり、小さな花しか咲かなかったりします。評価しなければよい習慣も次第に消えてしまいます。小学生のようなエネルギーの高さはテンションが上がりすぎる状況につながっています。ここをきちんとコントロールしなければ、深く考える姿勢は育ちません。
よい子どもたちが入学してきたと気を緩めていると、入学した時はあんなによかったのになんか変だなという状態になってしまいます。そんなことにならないためにも、子どもたちをどう伸ばすかを学年全体できちんと共有してほしいと思います。

全体に対してこの日子どもたちの様子を見て感じたことをお伝えしました。
共通して気になったこととして、子どもたちが先生の方を向いて発言し、聞いている子どもも発言者を見ずに先生の方を向いていることがありました。発言を子どもたちに評価させずにすべて先生が受け止め評価しているからです。友だちの話を聞くことを価値付けし、発言者には友だちに認められるよさを感じさせてほしいと思います。
また、グループで考えを深めるためには、個人の考えを先に持たせることにこだわらないことも大切であることをお話ししました。まずグループで話し合ってから個人の考えをまとめ、それをもとに再びグループで話し合うのです。一人で考えさせると自分の考えを持てず集中力を無くしてしまうことがあります。自分の考えが持てなければグループでの話し合いには参加しづらくなります。一方、自分だけで考えて結論を持つと、その考えにこだわるあまり友だちの意見を聞くことより説得することに力を入れてしまうこともあります。どれが正解ではなく、多様なアプローチを持つようにしてほしいと思います。

全体の話の後、若手が何人か話に来てくれました。この学校に来たばかり、担任を初めて持ったばかりの少経験者が中心です。個別の相談や指摘もあったのですが、一緒に話を聞いてもらいました。うれしかったのが、他人事ではなく自分のこととして聞いてくれていたことです。仲間から学ぼうという姿勢を感じました。日常的にこうやって話をする機会を持ってくれるように強くお願いしました。互いに気軽に相談できるようになれば、強いチームとなり学校全体の力が上がっていくと思います。今後を楽しみにしたいと思います。

子どもたちの成長に先生方が追いついていない?

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。

この日は新しく来られた先生方の授業を中心にアドアイスを行いました。
高校2年生の英語は日本の街の紹介をグループで行うというものでした。この時間は自分たちで選んだ街の情報をネット等で集めて紹介文を作る場面でした。
子どもたちはグループでの活動には慣れているので、ある程度はかかわることはできます。しかし、男子同士、女子同士が向かい合うグループではどうしても同性だけで話し合う姿が目立ちます。5人のグループではお誕生日席の子どもが参加しなかったり、逆にお誕生日席のまわりの3人だけで話したりしている姿が目につきます。また、4人の中で一人だけが参加できていないグループもあります。グループの人数や座席配置に工夫が必要でしょう。
授業者はグループの間を机間指導しながら進行状況を気にしています。何かあると、全体に向かって指示を追加したり、直接子どもと話したりします。質問に対して、すぐにその子どもと二人で話し始めるので、グループの他の子どもはそこに参加できません。先生に聞く子どもは友だちと関係ができていないことがよくあります。先生が直接対応すると意図せずして子ども同士を分断することにつながります。授業者が対応するのではなく、子ども同士をつなぐような動きをしなければなりません。また、作業を止めずに指示をしても徹底しませんし、集中して作業している子どもにとっては雑音になってしまいます。グループ活動中は子どもたちの様子を観察して、「どのような支援が必要か」「どのタイミングでかかわるか」「いつ活動を止めるか」「止めた後どのように進めるか」などを考えることが大切です。
全体での発表場面では、聞くことを大切にするようにと全体に声をかけますが、授業者自身が発言者を見ずに下を向いてメモしていることが何度もありました。また授業者は発言をすぐに自分の言葉で言い直し感想を言います。発言を聞く意味がないので、発言者の方を向いて聞く姿勢を見せる子どもはほとんどいません。聞いている子どもたちに発言を整理させ、どう思ったのかを発表させることが必要です。
中には発言者の方を向いてしっかり聞こうとしている者もいますので、この子どもたちをほめ、活躍させることで学級全体の聞く意識を高めることができると思います。残念ながら、授業者は全体の様子を見ていないので、こういった子どもたちの存在に気づいていませんでした。発言者だけでなく、全員の聞いている様子を見ようとすることが大切です。
授業者はとても素直な方で、私からの指摘をしっかりと受け止めてくれたようです。自分の目指すものと授業がずれていることに気づいてくれれば、必ずよい方向に変わっていくはずです。次回の訪問が楽しみです。

高校1年生の現代社会の授業者は、子どもたちに主体的に取り組ませたい、発言を引き出したいということを事前に話してくれました。授業は、前時の復習の場面で2名に発言を求めた以外、子どもが発言する機会はほとんどありませんでした。穴埋め形式のワークシートをもとに一方的に授業者がしゃべっているだけで、板書も特にはありません。まだ入学したばかりで意欲のある子どもたちなのですが、次第に集中が切れていくのが見えました。ほとんどの子どもの顔が上がらなくなり、表情もなくなっていきました。
経験はかなりある方なのですが、これまでの授業観から抜け出すことができていませんでした。具体的にどのようにすればよいのかがわからないのかもしれません。まずはいろいろな方の授業を見ることから始めるとよいでしょう。
丁度この時間、同じコースの隣の学級でも社会科の授業をやっていました。授業者の質問にグループで相談し、その考えを発表します。子どもたちはいきいきと活動していました。このような子どもの姿を見ることで、授業のあり方のヒントをつかめると思います。
こちらの社会科の授業でも先ほどの英語の授業と同じように、授業者が発言を受け止めて説明をしていました。授業者が発言者のそばに移動していたこともあって、子どもは発言者をよく見て、反応していました。意図的に視線を誘導していたのだと思います。子どもたちに聞く姿勢があるのですから発言を他の子どもにつなぎたいところでした。
場面によってどうするかの判断は難しいところがあります。この授業者は子どもの言葉を大切にしようとしていますので、ここではテンポあげたかったのかもしれません。

高校1年生の国語の授業は、宿題の発表の場面でした。一人ずつ前に出て自分の書いてきたものを読み上げます。発表者の視線は手元の原稿を見て聞いている子どもたちに向かいません。一方聞いている子どもたちも顔が上がっていませんでした。発言する子ども、聞いている子ども双方に意識させるべきことを明確にしておかなければなりません。授業者は教室の一番後ろに立ってiPadを使って発表の様子を録画しています。手持ちで撮影しているので、発表者だけを注目することになってしまいます。撮影は三脚を使うか、子どもにまかせて、前方から聞いている子どもの姿を見ることが必要でしょう。
発表が終わった後、新しい単元の学習に入ります。最初に文の題名だけから内容を想像させ、それから本文を読ませる展開です。グループで想像したことを話し合うのですが、まだ慣れていないのでしょう、うまくかかわれない子どもたちが目につきます。授業者は漫然と机間指導するのではなく、どうやってかかわり合いを生み出すかを考えて支援することが必要です。話し合いの内容よりも、まずグループが機能しているかに注意してほしいと思います。
授業者はまだ経験が少ないのに、題名だけで内容を想像させる課題を考えたことはなかなかです。このことを話すと、「実はどうやって導入しようか悩んで、いろいろな先輩に聞いて見た」という答が返ってきました。先輩からの回答の中で、自分がよいと思えたものがこの課題だったようです。先輩に聞くということはとてもよいことです。他者から学ぶという姿勢を今後も忘れずに持ち続ければ、きっと大きく成長すると思います。これからが楽しみです。ここで忘れないでほしいことは、やった結果がどうであったかを先輩と共有することです。報連相という言葉がよく言われますが、相談の後どうなったかを伝えることもとても大切です。いただいたものはお返しして初めて互いにメリットが生まれるのです。

この日は高校1年生を中心に授業を見ましたが、年々子どもたちの姿が意欲的になっているように感じます。それに対して先生方の授業は従来型の講義中心のものと子どもたちの活動を重視しているものとに大きく分かれてきているように思います。特に1年生担当の先生方は前者の傾向が強いように思われました。先生が話しつづけて受け身の状態が続いても、子どもたちに積極的に参加する意欲があるので全体としては集中力を保っているように見えます。しかし、次第に集中力が切れる子どもの姿が目立ってきます。授業者による子どもの姿の違いが早くも目に付きだしました。

先生方がやりやすい授業ではなく、子どもたちが活躍する授業を目指してほしいと思います。そのためには、まず学年やコースごとに目指す子ども像を明確にし、目指す姿を実現するために授業はどのようにあるべきかのイメージを共有することが大切です。そして、そのイメージを具体的なものにするためのどうすればよいのかを学校全体で共有していくことが必要でしょう。
そのための方策として、今年度は授業公開を積極的に行うことが計画されています。教科を越えて互いに授業を見合い、子どもたちの姿を共有し、授業改善につなげることがねらいです。先生方が、互いのよいところを学び合えることを期待しています。

あるコースでは面白い試みがされていました。文化祭のオリエンテーションを兼ねているのでしょう、高校2年生が1年生を前にして昨年度披露したミュージカルを上演していました。進行も2年生が行っています。2年生のいきいきした表情が印象的でした。1年生は先輩たちを食い入るように見ています。高校生はすごいな、自分たちでできるのだろうかと、とてもよい刺激を受けていました。
面白い場面がありました。ミュージカルの途中でアクシデントがあり、上演が止まったのです。一瞬固まった2年生ですが、自分たちで走り回って状況の把握とリカバリーに努めます。この間先生方は子どもたちの様子を楽しげに見ているだけで手伝おうとしません。子どもたちを信頼していることがよくわかります。結局最初からやり直しましたが、その判断も子どもたちで行っているようでした。先生方とよい関係を築き、立派に育っていることがわかる場面でした。

この学校では、子どもたちの成長に先生方が追いついていないように感じることが増えてきました。子どもたちの成長に大きく貢献している先生とそうでない先生の差が大きくなってきたと言ってもよいでしょう。先生方が互いのよいところを認め合い、学び合うことが大切になってきています。学校の中によい手本があることを活かせるようにしていきたいと思います。

この時期はまず聞くことを大切にしてほしい

今週の頭、中学校の授業参観日に訪問しました。4月当初の子どもたちの様子を見せていただくためです。

どの学年も子どもたちは落ち着いていて、人間関係も良好でした。先生方も笑顔が多く、柔らかい雰囲気の教室が多く見られました。1年生と3年生は学級活動だったことも影響しているかもしれません。
全体的に気になったのは子どもたちの視線です。発言者の方を向いていない子どもが多いのです。全体の発表では、顔が上がらない、上がってもだれもいないところを見ていたり、先生や黒板の方を見ていたりして視線がバラバラです。グループでも仲間が発言している時に自分のメモを見ていて顔が上がらない子どもが目立ちます。

この時期はまず授業規律を確立することが大切です。授業規律と言っても先生の指示に従い少しも姿勢が乱れないようにするといったものではありません。授業に向かう基本的な約束事を身につけると言ってもよいかもしれません、その一番は聞くことです。先生の話はもちろん、友だちの発言を相手の目を見て受容しながら聞く姿勢を身につけさせるのです。新年度が始まってすぐに子どもたちに意識させれば、意外と簡単にできるようになるはずです。ところが、今回見せていただいた先生方は発表者の方を向いて発言を受容していますが、他の子どもたちの様子を見ている方は非常に少ないのです。また、発表者が先生に向かって発言し、友だちの方を向いていなくてもそれが当然だと思っているようにも見えます。
1年生では学年共通で授業のルールが決められていましたが、聞く姿勢に関するものが無かったのが残念です。

今ならまだ間に合いますが、このまま連休に突入してしまうとこの状況がヒドゥンカリキュラムとして定着してしまいます。この時期は、授業規律に限らず子どもたちに何を求めるのかを先生が意識し、子どもたちにどう意識させ、どう評価していくかを考えることが大切です。そのためにも先生が子どもたち一人ひとりに視線を落とすこと常に忘れないでほしいと思います。
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