「チェックする目」から「育てる目」へ

私が教師時代に生活指導を担当していた時期があります。女子のスカートの丈、靴下、男子の制服のボタン、生徒とすれ違うときには必ず服装をチェックしていました。もちろんルール違反がれば指摘をして直させます。私の姿を廊下の端で見つけると隠れる生徒もいました。いつの間にか私の目は、生徒を「チェックする目」になっていました。

学校を訪問して、笑顔が少ないと感じることがあります。その場合、かなりの確率で教師の子どもたちを見る目が、この「チェックする目」になっているのです。別の言い方をすれば、「悪いとこみつけ」です。規律を守れていない、できていない子どもを注意しようとする姿勢です。「チェックする目」はどうしても表情がかたくなります。教師の表情がかたければ、子どもたちも笑顔になりません。
「できない子どもを減らすのではなく、できる子どもを増やす」という発想を持ってほしいと思います。できる子どもを増やそうとすると子どもをほめることになります。できた子ども、できている子どもをポジティブに評価することで、他の子どももほめられようとまねをしてよい行動が広がっていきます。ほめることが、できる子どもを増やすのです。

学級の規律でいえば、できていない子どもより、できる子どもの方が多いはずです。たくさんの子どもをほめる機会があります。たとえできていなかったとしても、できるようになればほめることができます。できる子どもを増やそうとすれば、自然に多くの子どもがほめられ、学級の雰囲気がよくなっていきます。一方、できない子どもを減らそうとすると、特定の子どもばかり注意されることになります。できるようになるまで、集中的に注意をされることになります。できる子どもも友だちが注意をされる場面を見せられるのであまりよい気持ちにはなりません。学級の雰囲気が悪くなります。

「できない子どもを減らすのではなく、できる子どもを増やす」という発想で、子どもたちのできていないところを「チェックする目」から、できているところを見つけて「育てる目」に変えてほしいと思います。

この時期に子どもに伝えてほしいこと

大体どの学校も授業が始まって最初の土日が終わったところでしょう。忙しい毎日を過ごしている先生方も、ちょっと一息入れて新しい週の始めを迎えていることと思います。ゴールデンウイークまでは、もう少し時間があります。大切なこの時期、もうひと踏ん張りして、それまでに子どもたちに最低限のことを伝えておく必要があります。

一つは子どもたちにどうなってほしいかという目指す姿です。学級、授業の規律と言い換えてもいいかもしれません。チャイムが鳴る前に席につく、話し手の方を向いてうなずきながら聞くといった具体的な場面での行動です(目指す学級の姿を具体的にする参照)。わずかな間に完璧にできるようになるわけではありません。時間をかける必要があります。あせって、できていないことを指摘し続けるのではなく、わずかでもできたことを認めることで伝えていきます。できること、できる人を少しずつ増やしていくのです。大切なのは、できる、できないにかかわらず、4月の内にまずその目指す姿を子どもたち全員が理解することです。4月は子どもたちも緊張していますし、今年は頑張ろうと意欲的になる時期でもあります。これがゴールデンウイークで緊張がゆるんだ後ではなかなか浸透しません。また、最初から多くは無理だからと伝える中身を絞るという発想もありますが、今まで許されていたこと、指摘されなかったことが後になってダメと言われても子どもたちは釈然としません。目指すものだけは明確に伝えておくことが大切なのです。

もう一つ伝えてほしいのは、子どもたちの目指す姿を見ることが教師にとって喜びだということです。子どもたちのよい姿に対して、「えらい」「いいね」「すばらしい」とほめて認めるのはよいことなのですが、こういう言い方はどうしても上から目線にも聞こえます。「うれしい」「ありがとう」といった言葉に変えたり、付け加えたりすることで、子どもたちのよい姿を教師がうれしく思っていることを笑顔と共に伝えるのです(主語を意識する参照)。このことを伝えることで、よい行動がほめられるためのものでなく、喜んでもらうためのものに変わります。教師が自分を一人の人間として受容し認めていると感じ、自己有用感が増すのです。今後1年間の学級経営や授業を支えてくることになります。
注意してほしいのは、このことがきちんとできるようになれば、次は、友だちに認められる、友だちの役に立つ、友だちに喜ばれるといった場面をつくることが必要になることです。自己有用感を持つための対象を教師から友だちに変えていくのです。そうしないと子どもの意識が教師にばかり向いて、友だちとうまくかかわり合えなくなってしまうからです。

何かと忙しいこの時期ですが、1年間の学級経営、授業づくりを考えると手が抜けないときです。今子どもたちに伝えておかなければならないことは何かを意識して子どもたちと接してほしいと思います。

年度当初の動きを整理する

この時期学校ではいろいろな会議が続いていると思います。職員会議では担当者からの諸連絡やそれに伴う印刷物がたくさん配られます。入学式や始業式に続く何日は、検診など日ごろとは異なる日程で動きます。子どもへの連絡事項も多くなります。
ここで、勧めたいのが情報の整理です。年度当初の動きに関する情報の中から自分の学年・学級に関係するものだけを抜き出し、子どもに伝えるもの、保護者に伝えるものをそれぞれまとめるのです。日程と場所、移動の方法、提出する書類。新入生であれば、式での並び方も示しておくとよいでしょう。日ごとの持ち物(翌日の分も合わせて書いておく)など、連絡すべきこと、伝えたいことを別の紙に書き出すのです。それと同時に自分のためのチェックシートもつくり、期限などもあわせて書いておきます。パソコンやスマートフォンのスケジュラーなどを利用してもよいでしょう。
年度当初はあわただしく、確認もおろそかになりやすいときです。自分の手で作り直すことで、子どもや自身の動きを見通せます。情報をコンパクトにしたものを印刷して配っておけば、確認も容易で連絡漏れも防げるのです。

年度の初めは、学級づくりにとって一番大切な時です。黄金の3日間、1週間という言葉もあります。一方でイレギュラーな日程で落ち着かないときでもあります。できるだけ落ち着いて学級づくりに専念するためにも、それ以外のことに教師も子どもも振り回されないようにしたいものです。余裕を持ってスムーズに動くためにも、スタート前に少し時間をかけてこの時期の日程、連絡事項などの年度当初の動きを整理しておくことを強く勧めます。
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