新卒対象の企業研修で刺激を受ける

昨日は、企業の社内研修の講師を務めました。対象は新卒を中心とした方たちです。
2週間の研修期間の2週目でした。互いの人間関係もできあがってきた段階でしたので、グループワークもとてもよい状態でおこなうことができました。
この企業で、昨年度にもほぼ同内容の研修を実務経験のある方を対象におこなっているのですが、その時と比べて興味深い相違点がありました。
経験者から出る意見は、経験者であるからこその深いものがあったのですが、その反面自分の実務上の立場からの視点に固定されやすい傾向にありました。それに対して新卒の方たちからは、柔軟な視点での意見が多く出てきました。経験を積むことはよいことなのですが、慣れてしまうことが視点の固定化につながっているようです。
また、経験者では、個人の意見を発表する際、ともすると自分の考えを主張しようとして、他者の意見を受け入れない方が多い傾向がありました。企業ですので評価に対する意識も強いのかもしれません。それに対して、新卒の方たちは非常に素直に他者の意見を受け入れようとします。表には出さないがきっと負けず嫌いだろうと思える人も、予想外に素直に受け止めます。経験がなくまだ何もわからないので、謙虚な気持ちになれるのかもしれません。グループワークでも、仲間の発言をしっかり受け止めようとする受容的な態度が多く見られました。
最後に各グループの代表に対して、私が相手役となってロールプレイをおこないました。それぞれに対してパターンを変えながら、対応に困る状況を意図的に作りました。うまくいかない代表者を批判的な目で見ている人は皆無です。「頑張って」と応援しながら、「どう対応しよう」と自分を重ね合わせながら見ていることがひしひしと伝わってきます。わからない者同士だからこそ、助け合おう、一緒に考えようという気持ちが強いのかもしれません。経験がないことがよい研修につながったように感じました。

これは、新卒であることより参加者の個性の問題だと思われるかもしれません。しかし、私には、新卒で経験は少ないがモチベーションが高いことがよい方向に働いているように思えたのです。
基本的に、経験を積むことは人を成長させますが、マンネリとなって考え方が固定化するといったマイナス面も出てきます。経験がないからこそ学べること、よくわかっていないからこその新鮮な視点もあると感じました。これは教師の世界でも同様だと思います。経験を積み、見なれた子どもたちの反応や行動に潜む問題に、経験の少ない者だからこそ気づけることもあるのです。

懇親会の席では、「1+1はなぜ2になるのか?」といった子どものころからの疑問をたずねてくれる方がいました。子どものころの疑問はそのうち忘れてしまう人がほとんどです。それを持ち続けているというのはとても素晴らしいことです。そういう方に出会えてとてもうれしく思いました。どなたも、目にすること、耳にすることを何でも吸収しようとするエネルギーにあふれている方でした。
彼らの意欲的な姿にとてもよい刺激を受け、私も彼らから多くのことを楽しく学ぶことができました。ありがとうございました。彼らに出会えたことと、その機会を与えてくれた企業に感謝です。

学習会で「コの字の机配置」「4人グループ」について話す

先日、学び合いに取り組んでいる市の中学校で学習会の講師をしました。若い職員が増え、「改めて、足下を見つめ直そう」ということで、「なぜコの字の机の配置なのか?」「なぜ4人グループなのか?」ということについて、4月のこの時期にお話をさせていただくことになりました。

コの字の机の配置のよさについては皆さんきちんと理解されているようでした。子どもが友だちを聞き手と意識して話す。聞き手が話し手をしっかり見て聞く。そのような子どもの姿をつくるためには、子ども同士が向き合うコの字の配置が優れているのです。その目指すところを活かすためのポイントをいくつかお話しました。
子どもの視線が子どもに向かなければコの字にする意味がありません。子どもが話しているときに、視線を他に奪うような行為は避ける必要があります。
教師が教室の前に立つと子どもどうしてもそちらを見ます。発言者が教師の方を向いて話し始めたら、友だちの方を向くように指示します。発言中に他の子どもの視線を感じたら、子どもの発言をじゃましないように目や手を使って、話し手の方を向くよう促します。教師がコの字の中に入ることで、視線を中に向けるようにするのもよいでしょう。子どもたちの姿勢を変えることなくやり取りができます。子どもと同じ目の高さまで教師が姿勢を低くすることも有効です。こうすることで、子どもの目線は教師ではなく友だちに向きやすくなります。
話している途中に教師が板書すると、子どもの視線は黒板に移ります(子どもの発言、意見をすぐに板書しない参照)。途中で問い返したりすることもできるだけ避け、途中で言葉をはさむ場合は、視線が大きく動かないようにコの字の中に入るようにします。
もう一つ大切なのが、聞き手が反応することです。友だちを見て話すということは、その反応を見るということでもあります。子どもたちが、うなずきながら聞く、よくわからなければ首をかしげるといった反応をする聞き手に育っていることが大切です。子どもの発表場面だけでなく、教師が話をする場面、授業以外の場面などいろいろな場面で、「○○さん、うなずきながら聞いていたね。△△さん、気づいていた? どんな気持ちがした?」「今うなずいてくれた人がいるね。納得した?」「首をかしげてくれたね。反応するのはとてもいいことだね。何か困ったことがあったのかな? 聞かせてくれる」と反応することを価値づけして聞く姿勢を育てる必要があります。
机をコの字の配置にすれば、子ども同士がかかわり合って話す、聞くようになるわけではありません。教師の意図的なかかわり方が必要になるのです。

4人グループについて、ペア活動との違いをお話ししました。ペアは1対1ですので逃げられない関係です。小学校の低学年では抵抗がありませんが、自我が発達してくる中学年以降はうまく成立しないこともよくあります。その点4人グループはペアよりも緩い関係です。子どもたちにとってよりかかわりやすい場となります。中学校ではペアよりも4人グループの方が使いやすいのです。
4人グループに限らず、学び合いを成立させるためのポイントは「聞く」ことです。一方的に教える、教えられる関係になってはいけません。子どもがわからなければ自分から聞き、聞かれたら一生懸命教える、こういうかかわり方が大切です。友だちに聞ける子を育てるためには、教わることへの抵抗感をなくすことが必要です。その第一歩として、個人作業の共同化があります。聞けなくても、友だちの手元を覗くだけでもよいのです。こうしてわかる経験を積むことで友だちに頼る、聞くことへの抵抗感をなくしていくのです。
4人グループのよさの1つに、活動量の確保ということがあります。子どもたちが活発に活動しているように見えても、実は発言しているのは一部の子どもだけで、多くの子どもは傍観者になっていることもよくあります。4人グループにすることで、子どもたちが積極的に参加する機会を増やすことができます。とはいえ、何でも4人グループにすればうまくいくわけではありません。課題の内容、課題の把握や出力、教師のかかわり方など、4人グループを活かすためにはたくさんの要素を考える必要があります(グループ活動を活かすために参照)。

先生方の考えを拾いながら進めたかったのですが、時間の関係もあり後半は一方的な講義になってしまいました。それでも、皆さん集中して話を聞いていただけ、とてもうれしく思いました。

学習会終了後、英語の若手教師が質問に来てくれました。GDM(「GDM英語教授法研究会」参照)を取り入れている方です。GDMのように、1時間に1つのことをいろいろな形で考え、基本的に個人で取り組むものであれば、最後まで頑張って理解することができる子どもも、教科書や問題演習のように一定時間でこなさなければいけない課題のときに、うまくまわりとかかわれなくて、結局教師が個別に対応しなければならなくなることがあるそうです。どう対応すればよいかという質問です。GDMのようにすべて英語で進む授業でも、最後まで頑張ればわかるという成功体験をしていれば頑張れるものです(子どもが積極的になるには参照)。しかし、限られた時間の中でこなす課題の時には、なかなかそうはいきません。自力では解決できない、うまく友だちとかかわれないのであればどうしても教師が助けてしまうことになります。しかし、教師に教えてもらって解決する経験を積むと、ますます教師に頼り友だちとかかわれなくなります。なんとか友だちとかかわれるようにする必要があります。「聞いてごらん」と友だちにつなぐことはきっとしているのだと思いますが、聞かれた側にわかるまでしっかり説明することを徹底することが必要かもしれません。先ほども述べましたが、最初は友だちの答を覗く、写すところから始めてもよいかもしれません。友だちとかかわることでうまくいくという成功体験を、まず積ませるのです。
とても真剣に授業に取り組んでいるからこそ出てくる質問でした。明確な答を出すことができなくて申し訳なかったのですが、私にとってはかかわれない子どもにどう対応するかを考えるよい具体例になりました。ありがとうございました。

いつものことですが、私がお話する以上に先生方から学ぶことが多い1日でした。先生方に感謝です。

入学式で思う

昨日は、中学校の入学式に来賓として参加しました。

いつものように式に参加する子どもたちのようすを観察していたのですが、校長式辞の際に面白いことに気づきました。式辞ですので、最初は型通りの言葉が並びます。続いて本題に入りました。中学生活を楽しいものにしてほしいという言葉に続き、その楽しさとは何かについての話になりました。そこで子どもたちの集中が明らかに上がるのを感じました。それまでも決して悪い態度であったというわけではありません。静かに聞いていたのですが、顔がより上がる、姿勢を直すというようにしっかり聞こうという姿勢を見せたのです。在校生だけでなく新入生も同様です。子どもたちは、話のどの部分が大切なのかちゃんと聞き分けているということです。優秀な子どもたちです。大切なことに集中するというのはとてもよいことです。その一方で、最近の子どもに感じる功利性にもつながることではないかと懸念を持ちました。過程を省いて早く結果をほしがる。コストをかけずに早くよいものを手に入れたいという消費者的な行動につながることのように感じたのです。実際のところはわかりませんが、このことを心にとめて彼らを見ていこうと思います。

入学式に続いて始業式です。私たち来賓は入学式で退場ですが、この市独自の制度である地域コーディネーターの方はそのまま始業式も参観されました。毎年のことです。機会があれば、少しでも学校の情報を得よう、子どもたちのようすを見ようという姿勢の表れなのでしょう。地域がかかわるといっても、決められた会議等に参加するだけという形式的な役職も目にします。そうではなく、本当に自分にできること、自分がなすべきことを考えて子どもたちのために、学校のために何ができるかを考えていることがよくわかります。保護者や教師だけでなく、こういう方々の支えがあってこそ、子どもたちがよりよく育っていくのです。私も微力ながら少しでもお役に立てるように努力したいとあらためて思いました。
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