一人ひとりの活躍を意識する

子どもたちには能力差があります。興味を持っていること、得意な事も違います。一人ひとりの特性を活かして、できるだけ多くの子どもに活躍してほしいものです。そのためにはどのようなことを意識すればよいのでしょうか。

大切なのは子どもに応じた役割を与えることです。
たとえば、意外と活躍していないのはできる子どもです。
できる子どもはよくわかっているので、友だちの説明もあまり集中して聞きません。自分は解けるので、聞く必要性がないのです。一方、教師は彼らを指名すれば答えが出てしまうのですぐに指名はしません。それよりももっと低位の子どもに力を割かなければと思っています。彼らもそのことをよく知っているので、わかっていても挙手せずに自分で好きに時間を使っていることもあります。
ちょっと視点を変えて、できる子どもをうまく活かすことを考えてみましょう。その方法は、できる子どもには答を言うことではなく、みんなを納得させることを役割として与えることです。特に自分の考えではなく、友だちの考えを理解してみんなに説明することを求めます。あらかじめ、「あなたの役割は答を言うのではなく、考え方を説明してみんなに納得してもらうという、もっとレベルの高いことだよ。出番が来るまでちゃんと待ってね」と伝えておけばいいのです。教師ではなく、子ども同士が説明し合えるようになっていくと、低位の子どもをそれに伴って次第に理解できるようになっていきます。

説明などは苦手でも、計算の速い子どももいます。「式が立ったね、後は計算すればいいね。計算は○○さんの出番だね。お願いしようかな。いくつになる?」と○○さんに計算するという役割を与え、活躍させます。
漢字の得意な子どもがいれば、友だちが漢字の読みを間違えたら、「○○さん助けてあげて」とお助け係にします。
こうすることで、自分の出番がいつ来るかと集中して授業に参加します。

また、子どもを助手にするのも一つの方法です。
パソコンが得意な子どもには、セッティングを手伝ってもらったり、操作を手伝ったりしてもらう。
理科の好きな子どもは、実験の準備を手伝ってもらう。
・・・

子どもたちの興味や能力に応じて活躍させる場面はきっとたくさんあるはずです。教師がちょっと下がって、子どもたちの出番を増やすことを意識します。そのとき、「○○さんはこれが得意だから、お願いする」ということを学級全体に納得させることが大切です。学級全体がその子のことを認めているという雰囲気をつくるのです。もう一つ大切なのが、必ず「ありがとう」の言葉を活躍した子どもにかけることです。こういったことが子どもに自己有用感を与えます。

余裕のあるときに、一人ひとりの名前と顔を頭に浮かべながら、この子はどんなことが得意だったか、どんなことに興味があったかを思い出し、どんな場面で活躍させられるだろう、どんな役割を与えられるだろうと考えてみてください。この場面であれば○○さんが活躍できる、役割を与えられるというところが必ずあるはずです。少しでも多くの子どもが活躍できることを目指してほしいと思います。

説得と納得

子どもに理解させる場面で、教師はわからせたいと強く思うと、どうしてもくどく説明をしてしまいます。この説明が、子どもからすると「説得」されているように感じることがあります。「わかって」「わかりなさい」と外圧をかけられているのです。そうではなく、自分自身で「なるほどそうだったのか」と「納得」する必要があります。子どもが納得するにはどのようなことを意識すればいいのでしょうか。

まず大切なのは、自分で確かめることです。

・図を描いてみる。図を切り取って動かすといった操作活動をおこなう。
・類似の問題を解いてみる。
・資料を調べさせて、その資料をもとに考える。
・・・

とはいえ、それだけでなかなか納得できないこともあります。そこで大切になるのが子ども同士のかかわり合いです。

・まわりの子どもと確認する。
・グループで相談する。
・全体の場で友だちの考えを聞く。
・友だちの考えをもとに自分の言葉でもう一度説明する。

教師にとっては残念なことかもしれませんが、教師の理路整然とした説明よりも、互いのたどたどしい言葉を積み重ねる方が子どもにとっては納得できることが多いのです。教師が説明していて納得できていない子どもが多いようであれば、繰り返し説明するのではなく、一度子どもに返して、子ども自身で確かめさせる、子ども同士をかかわらせるとよいでしょう。教師の代わりに子どもに説明させるのも効果的です。

子どもに理解させる場面では、教師の説明が「説得」にならないように意識し、子ども自身がなるほどと「納得」できる活動を入れるようにしてほしいと思います。

進歩を実感させる

学力をつける一番簡単な方法は、子どもたちにやる気を持って学習に取り組ませることです。そのやる気を引き出すためのキーワードが「進歩」「進化」です。人は努力の結果が報われないとやる気をなくしてしまいます。絶対的な結果を求めれば達成できないこともあります。「努力は無駄にならない」と言ってもそのことが実感できなければ、次第にやる気をなくしてしまいます。しかし、努力をすれば必ず進歩します。その進歩を目に見えるようにして実感させれば、やる気は持続するのです。そのための具体的な方策を考えてみたいと思います。

進歩を目に見えるようにする一つの方法は客観的な指標を導入することです。時間、数などがその典型です。九九を何秒で言えるか、一定時間に何問解けるか、どれだけ書けるか、どこまで進んだといったことを指標にして定期的に取り組み、進歩を見えるようにします。表に数値を書き込む、グラフ化するなど、見える化を意識すると効果的です。

Before Afterを比較するのも、進歩を実感させるよい方法です。学習の初めと終わりで同じ課題を提示し、その答の違いを見るのです。
たとえば国語の読み取りであれば、最初一読したあとに感想や読み取りを書かせ、学習の最後にもう一度書かせます。そして、それを比べてみるのです。
歴史であれば、たとえば「○○時代ってどんな時代」「○○ってどんな人物」などと学習の最初にたずねます。子どもたちの知っている知識をもとに答えてもよいし、根拠のない無責任な答でもよいのです。ただしあまり時間はかけません。根拠となる知識が乏しい中で話し合っても深まらないからです。そして、単元の最後にもう一度同じことを聞くのです。
音楽・体育なども記録にとって最初と最後のもの比較します。
このようにすることで、授業で学ぶことを通じて自分たちが進歩していることを実感させることができます。単元を通じて自分が学んだこと、進歩したことを書かせておくと、成長の記録とすることができます。1年間を振り返ってみると自分がいかに進歩したかを実感できるでしょう。入学時からこういった記録をとっておくと、より進歩がはっきりと見えることと思います。

もう一つ、これはいつも心掛けてほしいのですが、教師が折りに触れて子どもの進歩を認める、ほめることです。このとき、「みんな進歩したね」と全体をほめるのではなく「○○さん、□□ができるようになったね」「○○君、□□するようになったね。すごいね、進歩したね」と固有名詞で具体的にほめるのです。教師は子どもたちをいちばん身近で見ている存在ですから、ちょっとした進歩も見つけることができるはずです。つねに自分の進歩を認められる学級は子どもたちのやる気があふれています。

授業の中に子どもたちの進歩が目に見えるような仕組みをつくる。進歩を実感できる場面をつくる。ちょっとした工夫が子どもたちのやる気を引き出してくれます。夏休みは時間的、精神的に余裕があります。2学期に向けて、子どもたちのやる気を引き出すためにどんな工夫をするか少し考えてみてください。

授業の無駄な時間を考える

授業を見ていると、この時間は無駄だと感じる場面があります。その多くは子どもが考えていない時間です。授業中の無駄な時間について考えてみたいと思います。

無駄な時間と感じる場面で多いのは、答え合わせの時間です。
問題演習の答え合わせで、子どもが順番に答を言って、他の子どもが「いいです」「ちがいます」と判定する場面が典型です。自分の答と同じであるかどうかの確認をして、間違えた子どもは正解を赤で書き込むだけで、どこで間違えたかを考える間もなく、次へといってしまいます。これでは、間違えたという事実だけが残り、どこで間違えたのかを考えることもできません。
英語のヒアリングの結果の確認などでも、正解を発表して、「あっていた人」と聞くだけでは全く意味がありません。間違えた子どもは、正しく聞き取れなかったのか、それとも意味を理解できなかったのか、そんなことすらよくわからないまま時間が過ぎていきます。正解だった子どもも、どこまできちんと理解できていたかはよくわかりません。

計算問題の答のように単純なもの、ほとんどが正解となるものなら、実物投影機などを使って答を映すというのも手です。すばやく確認をして次に進めばいいのです。問題演習をノートに解く代わりに、フラッシュカードで全体練習にするという方法もあります。
隣同士で確認し合うという方法もあります。このとき、互いの答が違っていれば、もう一度それぞれやり直して再度確認したり、互いに説明しあったりするといったルールをつくっておくといいでしょう。子ども同士だけでは不安なら、後で教師が素早く答を言って確認してもいいでしょう。全員がほとんど正しい答になっているので、時間をかけなくても大丈夫なはずです。確認をした後、隣との確認で間違いを直せた子どもを数人指名して、どこで間違えたかたずねたり、直せたことを評価したりするとよいでしょう。
ヒアリングの例であれば、子どもに聞きとった文を復唱させたり、その内容を言わせたりする。教師が正解を言った後、もう1度聞かせて、できなかった子どもに聞き取れたか、聞き取れたら内容が理解できたか確認するなど、できた子どもには根拠を求め、できなかった子どもにはできるようになるための活動をすることが必要になります。

また、意外に思うかもしれませんが、子どもに意見を言わせる時間が無駄だと感じることもよくあります。大きく2つの場合があります。
1つは、子どもに根拠を求めていない場合です。ただ思いつきで無責任に発言しているだけですから、学級のテンションは上がっていきます。このあと、落ち着いて考える状態をつくるのに苦労するだけで、子どもたちの学びにはつながっていきません。発言に根拠を求める姿勢が大切になります。
もう1つは、子どもの発言を他の子どもたちが聞いていない場合です。教師は一生懸命に聞いているのですが、他の子どもは聞くことを無駄と判断しているのです。多くの場合、このあと教師が発表者の発言を判断して、よい発言と判断した場合はもう1度教師の言葉で丁寧に説明する、そうでなければ次の子どもに発言を求めます。教師の説明を待っていれば、必要な情報は手に入るのですから、友だちの発言を聞くことは無駄なのです。
この場合、友だちの発言を聞くことが無駄でないようにする必要があります。発表の後、教師がすぐに説明するのではなく「○○さんの意見、もう1度言ってくれる」と友だちの発言を聞いていることを評価する、「同じ考えの人いる」「今の意見、なるほどと思った人いる」「○○さんの考えを、説明してくれる」とつなぐ、こういったことが必要になります。

授業をちょっと振り返ってみてください。なんとなく惰性で進めている活動がないでしょうか。この時間に子どもたちが何をしている、何を考えているのだろうか。それは、本当に意味のあることなのか、無駄ではないのか。そんなことを考えてみてほしいのです。無駄な時間と思えるものがあれば、その時間が無駄でなくなるような工夫を考えてみてください。きっと授業がよい方向へ変わっていくと思います。

動画(ビデオ)を見た後、その内容を説明する?

実際には見ることが難しい天体の動きや過去の映像などを見せるのに、動画(ビデオ)は威力を発揮します。よい教材が増え理科や社会では活躍する機会も増えていると思います。しかし、子どもは集中して見ているようですが、意外にその内容は理解していないことがあります。子どもたちの気づきを共有化して、その場面を確認しようとしても、動画ゆえに難しいところもあります(動画の活用の注意点参照)。そこで、つい教師が確認の意味でその内容をもう一度説明することがあります。これでは、動画を見せただけ時間が余分にかかり、子どもたちの活動の時間がなくなってしまいます。どんなことに注意をすればいいのでしょうか。

「○○についてのビデオを見よう」では、子どもたちは漫然と画面を眺めてしまいます。まず、子どもたちに疑問を持たせる必要があります。この動画を見ることで、どんな疑問を解決しようとしているのかを明確にしておくのです。目的・目標を持たせると言い換えてもよいでしょう。子どもたちに仮説を持たせ、その答を動画から見つけるのもよい方法です。目に見える形で黒板やノートに残すようにすると明確になります。また、見た後の活動も伝えておく必要があります。「あとで、○○の理由を聞くからね」「○○についてみんなの考えを聞くからね」と指示しておくと意識も変わってきます。

小学校の高学年以上であればメモ取るように指示することも大切です。何が大切かを意識して見るようになります。教師は子どもと一緒に画面を見ているようではいけません。内容を事前に知っているのですから、子どものようすを見ることに専念できるはずです。子どもはどこに反応しているか、どこでメモを取っているか。この情報がその後の展開に生きてきます。
「○○さん、△△の場面でうなずいていたけど、どういうこと」「□□の場面でメモを取っていたけど、どんなことを書いたか聞かせてくれる」と内容の確認や気づきの共有化のきっかけになります。

動画を見せても理解できていないと感じたなら、教師が再度説明するのではなく、子どもたちに内容を問いかけて答えさせればよいのです。もし、答えられないようであれば、意識して見てはいなかったということです。1度は、もう1回見せてもよいかもしれません。次回からは意識が変わるはずです。また、動画を見た後その内容について話し合うことが常態化していれば、自然に意識して見るようになります。

どんなに優れた動画でも、見る必然性を持たせないと子どもは受け身の時間を過ごすことになります。教師が積極的にかかわり、動画の内容をもとに考えさせる場面をつくることで初めて動画は生きてくるのです。動画を見る前後にどのような働きかけをし、どのような活動をさせるか、再生中には何に注目するか。このことを明確にした上で活用してほしいと思います。

「わからない」にどう対応する

説明のあと、子どもが「わからない」と言ったときどのように対応しますか。もう一度、同じ説明を繰り返しますか。それとも、どこがわからないか聞きますか。子どもの「わからない」にどう対応すればよいか、考えてみたいと思います。

子どもにとって、同じ説明を繰り返されると、「わかりなさい」「この説明がわからないの」とプレッシャーをかけられることになります。そこで、教師は違った説明をするのですが、今度はさっきと異なる説明なので、余計に混乱させてしまうこともあります。いくつかの説明を準備しておくことは大切ですが、子どもに応じてどのように説明するかは難しいものです。

一方「どこがわからない」と聞くことは悪い対応ではありません。しかし、どこがわからないか自分で言えることはかなり高いレベルです。答えられないことも多いはずです。そこで、算数や数学などでは「ここまではわかる?」とステップごとにどこがわからないか、どこまでわかったか確認していくことになります。一つひとつ確認していって最後まで「わかった」はずなのに、「わかったね」と聞くと、「わからない」と返ってくることもよくあります。
こういう場合、子どもは「なぜこんなことを考えるのか」と課題そのものの必然性がわからないためにつまずいてしまっていることが多いようです。子どものわからないと、教師の説明がずれてしまったわけです。子どもが何につまずいているのか見つけることは、経験ある教師にとっても難しいことです。

色々な説明を試みる、子どもがどこでつまずいているか見つけて説明することは有効な手段の一つですが、発想を変えて子ども同士に任せるという方法もあります。
「わからない人は他にもいるかな」とたずね、「どこがわからないか教えて」と聞きます。どこがわからないか答えられない子どもがいても、他の子どもから引き出すことができます。
「助けてくれる人いる」と子どもに説明させると教師の説明よりもすんなり理解してくれることもあります。説明を聞いているようすを客観的に見ることができるので、どこにつまずきがあったのかもよくわかります。
説明できる人がいない、わからない子がたくさんいるのであれば、グループやまわりの子どもで相談させることも有効です。友だちと相談してわかった子どもに全体で発表させ、何人かに補足させると、つまずいていた子どももよくわかるようです。

わからない子どもをわかるようにするのは教師の務めです。そのため、教師はわからせなければならないと説明しすぎる傾向があります。教師が一生懸命に説明すればするほど子どもにプレッシャーがかかり、子どもが引いてしまうこともよくあります。ちょっと肩の力を抜いて、思い切って子ども同士に任せることも大切です。教師が思う以上に子どもたち同士でわかりあえるものです。
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31