学習と部活動の両立

新年度が始まり、授業が本格的にスタートして1週間ほどでしょうか、学校ではまだまだ落ち着かない日が続いていることと思います。ゴールデンウィークが過ぎれば部活動も新入生を迎えて本格化していきます。特に新入生にとっては新しい環境でよいスタートを切れるかどうかとても大切な時期になります。
中学校や高等学校では、学習と部活動の両立ということが大切にされています。両輪という言葉もよくつかわれます。この2つをともに充実したものにすることはとても大切であり、また難しいことだと思います。

とかく教師は安直に両方とも頑張れという言葉を使います。また学級担任によっては、部活動は顧問の問題と考え、あまり意識をしない方もいらっしゃいます。その逆に顧問が部の子どもたちの学習状況に頓着しないこともあります。そうではなく、双方が互いに意識して子どもたちに接する必要があります。一方からは学習を頑張れ、もう一方からは部活動を頑張れといわれても、子どもの体は一つです。どちらかに偏ってしまったり、時として共倒れになってしまったりすることもあります。バランスをどのように取るかが問題です。子どもたちが、部活動が負担になって、学習時間を確保できなくなっていないか、学習面でつまずいて部活動を止めたいと思っていないかなど、互いに意識し合い連携をとる必要があります。

学習と部活動を両輪にたとえて、一方だけしか回さないとその場でぐるぐる回って前へ進まないとよく言われます。とはいえ両方を同時にバランスよく回すのはとても難しいことです。私は、同時は無理でも交互になら回せると思っています。右だけ回すと左に向きます、次に左を回せば右に向きます。蛇行はしますが結果的に前へ進みます。どちらが先かは別にして、今は学習にエネルギーを多く使う、今は部活動にエネルギーを多く使う。そんなリズムを持つことです。子どもたちが自分でコントロールできればいいのですが、最初のうちは、教師が意図的にコントロールすることが大切です。学級担任、部活動の顧問が共通の認識を持って、「今は学習のリズムをつかむときだ、部活動が終わって疲れているかもしれないがすぐに宿題だけでも片づけるくせをつけよう」「もうすぐ部活動が本格化するから今のうちに予習に力をいれて少しでも貯金をしておこう」といったことを伝えるのです。学級担任と部活動の顧問の連携は個々にやっていると無駄が多くなります。できれば、学校全体または学年全体で歩調を合わせると効果も高いと思います。

また、部活動の個別の事情や学年によっても状況は変わってきます。部活動の先輩が後輩に両立のコツを伝えたり、悩みの相談を受けたりする。学級で互いに悩みや工夫を聞き合う。こういうことも必要になります。もちろん個別に教師が相談の受け皿になることも必要です。いずれにしても頑張れと励ますことよりも、具体的にどうすればよいか明らかにすることが大切です。

学習と部活動の両立は、教師がどう関わるかがとても重要です。学級経営、部活動の経営の柱として意識してほしいと思います。

正論しか言えない学級にしない

子どもたちは、ルールを破ったり、人の気持ちを傷つけたり、よくない行動をとることがあります。学級の中でそのような行為がおきたとき、教師はよい方向に向かうような対応を求められます。そのとき注意してほしいことがあります。それは、正論しか言えない学級にしないことです。

子どもがよくない行動をとったとき、自分ですぐにその間違いに気づいてそのことを認められれば問題はありません。しかし、間違っているにせよ、子どもなりの理屈を言ったり、本音の部分で話したりすることがあります。そのときに、教師が正論で子どもの発言を頭から否定しないようにすることが大切です。

「ゲームカードを学校に持ってくるのは禁止だったはずなのになぜ持ってきたのかな」
「ぼくはカード使って遊んではいません。レアカードを持っていると言ったら、本当かどうか疑われたので、証拠に持ってきただけです」
「みんなどう思う」
「ちょっと見せただけで、遊んでいるわけでもないから、いいと思います」
「でも、ルールは持ってきていけないとなっているから、ルール違反だね。見せるだけから、ちょっとくらい遊んでもいいだろうとなってしまうこともあるよ。みんなはどう思う」
「私は、持ってきてはいけないのがルールだから、やはりいけないことだと思います」
「そうだね、持ってきてはいけないルールを破ったから、いけないね。カードは先生が預かります。帰るとき返すからね」

子どもの考えに対して、教師が正論で反論しています。「持ってくるくらいならいい」と思っている子どもも、これでは自分の意見を言えません。教師の考えに近い子どもの意見だけを認めていると、教室の中に自分の考えは先生に認められそうもないから言わないでおこう、先生はきっとこう言ってほしいのだろうと教師の顔色をうかがう雰囲気ができてしまいます。教師が確固たる姿勢で臨むことは大切ですが、頭から否定するのではなく、子ども自身が本当にいけなかった思うことで間違いを正す必要があります。

「なるほど、遊んでなければいいという意見だね。同じような考えの人はいるかな」
「何人かいるね。もう少し聞いてみようか」
・・・
「それでは、他の考えはないかな。みんな、同じ考えかな。じゃあ、持ってくるのを禁止じゃなくて、遊ぶのを禁止にすればいいのかな。どう思う。ルールを変えたらどうなるかな」
「カードを持ってきたら、つい遊んじゃうと思います。遊ばない自信はないです」
「なるほど、遊んじゃいそうか。同じよう思う人はいるかな。あっ、結構いるね。どうすればいいのかな」
・・・

できるだけ、子どもが自由に意見を言えるように、たとえ認めがたい意見でもまず認めて、子ども同士で考える中で修正されるようにします。
間違った意見を教師がすぐに否定すると、正論しか言えない雰囲気が教室に広がります。子どもたちの本音の部分は陰に隠れて、見えないところでよくない行動をとるようになってしまうこともあります。そうではなく、本音の部分を出しあったうえで、本当にどうあるべきか判断できるような子どもを育てることが大切です。教師は権力者です。教師の考えに反対できる子どもはなかなかいません。教師が正論を押し付けて、正論しか言えない学級にしないことが大切です。

なくてはならない人から、いなくてもよい人になる

「なくてはならない人から、いなくてもよい人になる」。これは、私が大切にしている考えです。学級を運営する上で学級担任は絶対的な統率者でなければいけません。子どもたちは未熟です。指導することが必要です。子どもたちが安心して学校生活を送れる環境をつくるために教師はなくてはならない存在なのです。新年度が始まった4月は全力で学級のルール作り、組織化を進めます。この時期にきちんと学級のルールを子どもたちに浸透させなければ、1年間苦労をすることになってしまいます。この1月を乗り切るとその後の学級経営はとても楽になります。教師の指示がきちんと通る。係活動が円滑に進み、子どもたちが落ち着いて学校生活を送れるようになります。

しかし、子どもたちを育てるという視点で見ればここからが勝負になると思っています。どういうことかと言うと、子どもが教師を信頼し、教師の指示に素直に従うということは、受け身であるとも言えるからです。また、子どもが自分の指示に従うようになると、思うように子どもを動かすことができるので、学級の支配者となってなんでも細かく自分が決めて指示してしまうようになってしまう方もいらっしゃいます。学級の規律を保てばそれでよいのではありません。子どもたちが自ら考えて正しい行動ができるように育てることもとても大切なことなのです。「なくてはならない人」になるまでも大変なことですが、そこから一歩進んで「いなくてもよい人」になることが求められるのです。

学級が安定して動きだしたら、少しずつ教師が子どもたちにどうすればよいか考え、判断させるようにします。いきなり子どもに任せるのではなく、事前に学級委員や係の子どもと相談し、何が問題か整理し、どのように進めたらよいかを考えさせます。学級への提案は彼らからするようにします。行事なども、担任が先頭を走ってリーダーとして引っ張って行くのではなく、子どもたちのリーダーに任せて一歩引いて見守るようにします。行事は学級担任の力が大きいと言われます。中には子ども以上に熱くなる教師もいます。確かに教師が先頭切って指導し、行事で優勝することで学級が盛り上がるかもしれません。子どもたちではうまくまとまらずによい結果が出ないかもしれません。しかし、問題はどれだけ子どもが成長したかです。子どもたちの成長のためには教師が少しずつ下がっていくことも大切なのです。教師がいなくてもまわっていく学級をつくることが理想だと思っています。

最初から「いなくてはいい人」では困ります。この時期、まずは子どもたちにとって「なくてはならない人」になることに全力をあげてください。それができた段階で、今度はどうやったら「いなくてもいい人」になれるか考えてほしいと思います。

定点観測の勧め

学校・学級経営において子どもの変化をきちんと捉えることがとても大切です。その方法の1つに定点観測があります。同じものを継続的にみることで変化がよくわかるのです。何を定点観測すればよいのでしょうか。

子どもの変化がよくわかるものには、

・朝の登校風景
子どもが自分から挨拶できるか。
服装がきちんとしているか。
登校時間に余裕があるか。
誰と一緒に登校するか。

・下駄箱
きちんと整理されているか。
かかとが踏まれていないか。
泥がぬぐわれているか。

・掃除道具入れ
道具が整理されているか。
道具が壊れていないか。
雑巾がきちんと絞られているか。

・トイレ
スリッパ・下駄が整理されているか。
きれいに使われているぁ。
入り口付近でたむろしていないか。

・廊下
ゴミが落ちていないか。
どんなグループが話しているか。

・掲示物
取れかかっていないか。
落書きがないか。

・・・

などがあります。もちろん、遅刻や欠席の数などの出席状況は必ずチェックします。子どもたちの学校生活のようすは、大きく変化する前にこういったところに予兆が現れます。好ましくない方向への変化には、あわてて注意するのではなく、その原因を考えることが必要です。その上で、叱るのではなく子どもたちが自ら気づいて改めるように仕向けることが大切です。よい方向への変化は、すばやくほめることで確かなものにします。「えらいね」とほめるよりはIメッセージで「うれしい」「きもちがいい」「すてき」といった言葉を使うとよいと思います。
学校や学級の状況でも定点観測すべきものは違ってくると思いますが、学校・学級経営の視点から定点観測すべきものを考えて、子どもの変化への感度を高めてください。
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