子どもへの呼びかけを考える

「掃除をしっかりしよう」「身の回りの整理整頓をしよう」というように、子どもたちに呼びかけることがたくさんあると思います。4月当初はきちんとできていても、そろそろ中だるみをしてくるかもしれません。きちんとできるようにするためにはどのようにすればよいのでしょうか。

まず、子どもたちへの呼びかけが、具体的にどのような行動をすればよいのか明確になっている必要があります。「掃除をしっかり」とは、具体的にどのようなことか客観化しておく必要があります。子どもによって「しっかり」の内容は大きく違います。教師が考える「しっかり」と子どもの考える「しっかり」のずれを埋めておくのです。(目指す学級の姿を具体的にする参照)
また、「しないさい」と命令するのではなく、「しよう」と促すことも大切です。命令形に慣れていくと、命令されなければ動かない受け身な子どもになっていきます。
そして、呼びかけるときに大切になるのがそのタイミングです。できるだけ、その行動と近いタイミングで話すのです。給食後に掃除をするのであれば、その直前、給食が終わった後に呼びかけるのです。朝に話をしておいて、もう1度軽く念を押すというのもいいでしょう。こうすることで、よい行動を引き出しやすくなります。その上で、きちんとできたことをほめるのです。初めのうちは「うれしい」「ありがとう」といったIメッセージを多用します。できなかったことを叱るのではなく、できたことをほめることが大切です。ほめることでよい行動を強化するのです。

往々にして、掃除がきちんとできていないことに気づくと、できるだけ早く修正しようと、その日の帰りの会で掃除の悪かった点を指摘し、明日はしっかりやろうと呼びかけてしまいがちです。大切なのは次の行動です。言われたことは時間がたてばどうしても意識から薄れ、そのときはちゃんとしようと思っていても、次の日には呼びかけられたことを忘れて行動してしまいます。その結果、怒られたりすれば嫌な気持ちになります。こういうことが何度かあると、教師からの呼びかけが負の気持ちに連動するものになってしまい、教師の呼びかけを嫌だなと感じ、逆の方向に行動してしまいます。

また、整理整頓のように、そのための特別な時間が取られていないことであれば、気をつけようと言って終わりにするのではなく、できるだけすぐに実行させます。その場で、机やいすを整頓したり、まわりのゴミを拾ったりさせるのです。言いっぱなしで行動の確認を取らないと、教師の言葉が実効のないものになり、「聞き流しておけばよい」と思うようになっていきます。できていなかったことに気づかせ、行動させ、できた(やった)ことを評価することでよいサイクルができていきます。

4月当初と比べて、掃除が雑になってきた、教室が乱れている。そのようなことを感じるようでしたら、ここで述べたようなことを確認して、修正を心がけてください。

特定の子どもと関係が悪くなったとき

教師と子どもの関係はちょっとした行き違いでこじれることがあります。相性が悪いとしか言えないようなこともあります。「あの先生は私のことをわかってくれない」「私のことを嫌っている」と感じたり、「あの子はどうも私に反抗的だ」「私の言葉を素直に聞いてくれない」と感じたりして、ぎくしゃくした関係になってしまうこともよくあります。特定の子どもとの関係が悪くなったとき、どのようにすればよいのでしょうか。

教師が関係改善を意識して今まで以上にかかわろうとすると、かえって反発が強くなることがあります。あせらず、少し距離を置いて、子どものようすを観察してみてください。このとき、子どものよいところを見るように意識してほしいのです。関係が悪いときは教師も無意識のうちに子どもの悪いところを見てしまいます。悪いところを見れば、ますます関係が悪くなります。この負の連鎖を断ち切るのです。距離を置いて、子どもを冷静にみるだけでも、関係は改善してくることが多いように思います。

とはいえ、教師への反発が、周りの迷惑になるような行動や、宿題をしてこないといった形で表れてくればほっておくわけにもいけません。特に他者に迷惑をかける行為はきちんと叱る必要があります(規律を守れなかった子どもの指導参照)。その一方で、第三者の助けを借りることも考えてください。その子どもとの関係が良好な同僚がいれば、事情を話して不満な点を聞いてもらうのです。大切なことは、諭してもらうことではなくその子どもの本音を聞いてもらうことです。第三者に打ち明けることで、気持ちが整理され自然によい方向に向かうこともありますし、不満の原因が教師の思ってもみなかったことだとわかることもあります。また、その子と仲のよい友だちと教師とが良好な関係であれば、その友だちに聞いてもらうように頼んでもよいかもしれません。いずれにしても、その不満の原因に思い当たることがあれば、そのことを子どもにきちんと説明することが必要です。誤解であればきちんと解く必要があります。教師の立場から一方的に話をするのではなく、たとえ子どもの言っていることが理不尽であっても、まずはきちんと受け止めることを忘れないでください。教師の方が大人なのですから。このとき、間に入ってくれた同僚や友だちに同席してもらうのも互いに冷静になるには有効です。

時には保護者に間に入ってもらうことも解決を早めます。保護者に子どもの言い分を聞いてもらうのです。そのことをお願いするのに、教師が自分の立場や都合を前面に押し出し、言い訳じみたことや上から目線で話をしないように注意してください。あくまで、保護者に助けてもらうという姿勢を崩さないことです。お願いする時点で、保護者が子どもから話を聞いていて、一方的に攻撃される可能性もあります。その場合でも、まずは言い分をしっかり聞いて、その上で、冷静に伝えるべきことを伝えてください。子どもにとって一番よい解決を保護者と一緒に考えようとしていることを、まずは理解してもらうようにします。このことを理解していただければ、問題の解決に向かって大きく進むはずです。

教師も人間です。相性のよくない子どももいます。無理して自分一人で解決しようとせず、時にはまわりの人たちに助けてもらうことも大切です。うまくいかなくなった子どもとの人間関係は、あせらずに時間をかけて改善しましょう。

試験が終わった後、何を意識すればいいのか

多くの中学校では中間試験の時期だと思います。特に1年生は初めての定期試験で緊張していることと思います。試験が終わった後、担任はどんなことを意識すればよいのでしょうか。

試験が終われば先生方は採点業務で忙しいと思いますが、一方の子どもたちはプレッシャーから解放されて気持ちが緩むときです。中途半端に緩めるのではなく、試験が終了したその日は思いっきり解放させ、翌日からリセットしてまたふだんの生活に戻すことが大切です。

「今日1日は、思いっきりリラックスして、明日は全員元気な顔を見せてね」

このような話をするとよいと思います。ポイントはリセットして次の日からいつもの生活に戻ることを意識させる言葉を入れることです。

試験の結果が出ると、自信を失くし落ち込む子どもも出てきます。また、よい結果に満足して気が緩んだままになってしまうこともあります。いずれにしても、子どもに何らかの心の動きが起きるときです。このタイミングをうまくとらえて働きかけることで、子どもたちをよいい方向へ変化させることができます。試験の結果を反省することより、次の行動を促すようにすることが大切です。「次の試験では、早めに勉強して頑張る」といった反省はあまり意味がありません。今日からできることを考えて実行させるようにします。うまくいかなかった子どもにとっては、試験の結果が出た直後が一番頑張らなければと思うときです。ここでうまく生活のリズムをよい方向に持っていくことを意識させるのです。毎日の学習をうまくやれた子どもの体験を共有し、学級に対して「今日から○○しよう」と前向きな言葉をかけるようにしたいものです。

一方で、深く落ち込んでいる子どもには、個別の対応が必要です。特に1年生は、学校内での相対的な自分の位置を初めて知らされ、自己有用感を失くしてしまうことがよくあります。励ましたり、あれこれアドバイスしたりすることよりも、まず子どもの気持ちを聞いてあげることが大切です。「なるほど」と、その気持ちを受け止めた上で、「どうしようと思う」と問いかけることや、「どうすればいいか一緒に考えよう」と寄り添うことをします。子どもの口から、今できることを何か一つ引き出せればとりあえずOKです。思い悩むことから、行動することへとフェーズを変えることが大切だからです。そのあとも、ふだんの様子を観察し、ときどき「調子はどう」とたずねます。もし、うまく行動に移せていないようだったら、「そうなんだ。また君の時間がある時にでも話を聞かせてよ」ととりあえず次につなげる言葉をかけておき、しばらく様子を見ます。すぐに話をしようと反応すると、先生が気にしている、先生にチェックされていると感じることがあるからです。その後も改善されていないようだったら、そこでもう一度話を聞きます。このような子どもとのかかわりの距離感を大切にします。

学習面にかかわらず、担任にとって学級全体に対してメッセージを発信することや一人ひとりの子どもの話を聞くことなどの働きかけは大切な仕事です。全体へはどのようなメッセージをどのタイミングで発するか、一人ひとりの子どもには声をかけるべきか、しばらく様子を見るべきかといった距離をどのくらいにとるかがポイントになります。試験が終わった後というのは、子どもの心に動きが起きる、担任が意識して子どもたちに働きかけるべきときなのです。

個の問題か全体の問題か意識する

学級が落ち着かない、授業に集中しないと感じるときがあると思います。このように、うまくいっていないと感じることが学級にあるとき、どのように対応していけばよいのでしょうか。

まず、その理由を少し詳しく考えてみます。たとえば落ち着かない状態と感じる場合、どの子とどの子が落ち着いていないと具体的に特定できる状態なのか、それともかなりの数の子どもがそういう状態なのか。特定の場面なのか、いつもなのか。そういったことです。特に意識してほしいのが、特定なのか多数なのかです。個の問題か全体の問題といいかえてもよいでしょう。
一般的には個の問題が全体に広がっていくということが普通です。個の問題であるということは、早期にその兆候をつかんだともいえます。全体の問題であれば、個の問題が広がった状態なのか、行事の後などで一気になったのかどちらかの場合が多いでしょう。

では、その対応です。個の問題の場合、多くの子はきちんとしているわけです。それなのに全体を注意してばかりいては、彼らがいやになりますし、その原因となっている子どもに対しても悪感情を持ってしまいます。最悪の場合、教師に対する反発が、乱す子どもへの同調となって表れます。このようなことを避けるため、全体に対する注意をせずに、個の子どもに対して、「・・・しよう」とよい行動を促すようにします。もちろん、よい方向に変わればすぐにほめることも忘れてはいけません。
なかなかあらたまらない場合は強く叱ることも必要ですが、短く済ませて他の子どもの時間をとらないようにします。そのかわりに、放課後に時間をとってじっくり話をするなどの対応をすることになります。時間をかけて話を聞くことで思わぬことが原因として見つかることもあるのです。このように、個の問題は全体と切り離して対応することが大切です。一方で、個にかかわりすぎて他の子どものことが置き去りになってはいけません。きちんとできている多くの子をちゃんとほめることも忘れないようにしてください。

全体の問題の場合でも、きちんとしている子どももかなりいると思います。全体に対して注意することは有効ですが、自分のことではないと思う子どももいます。学級全体の問題として意識させることが大切になります。朝の時間や帰りの時間を使って、今の学級の状況をどう考えるか、それに対してどうするかを考えさせます。学級の目標にして、チェックする習慣をつける方法もあります。そのとき、「できなかった」を注意するのではなく、「できた」をほめるようにすることが大切です。進歩をみるようにすれば、たくさんほめることができるはずです。

学級に対して感じるマイナスな状態は、素早く対応していくことで問題が大きくなる前に解決できます。個の問題か全体の問題かを意識して、それに応じた対応を心掛けてほしいと思います。

保護者からの相談への対応

子どもについての相談で保護者と話をすることがあります。ときには、苦情を受けることもあります。ちょっとした言葉の行き違いがトラブルにつながることもあります。保護者とへの対応ではどのようなことに気をつければよいのでしょうか。

次の例を見てください。

「うちの子が、どうも学校がつまらないようなのですが」
「そうですか? 授業中もしっかり手を挙げていますし、友だちとも仲良くしていますが・・・」

「うちの子が、どうも学校がつまらないようなのですが」
「なるほど、学校がつまらないようなのですね。授業中もしっかり手を挙げていますし、友だちとも仲良くしているように感じますが・・・。もう少し詳しく聞かせていただけますか」

保護者から学校がつまらないようだと相談されています。教師から見ると全くそういうことはないので、安心してもらおうと学校での様子を伝えているのですが、最初の例では、「そうですか?」と疑問で受けています。保護者からすると自分の言葉を否定されているようにも感じます。一方後者の例では、「なるほど」と受容してから保護者の言葉をくり返しています。聞いてもらえたと感じます。また、「感じます」とやや曖昧に言うことで、否定のニュアンスを弱めています。
保護者は自分の言葉を教師に聞いてもらえるか不安に思っています。たとえ保護者の意見が受け入れがたいものでも、まずは、きちんと聞いていることを伝え、その上で、こちらの考えを伝えるという手順を踏まなければいけません。

先ほどの続きです。

「実は先日、食事の時に学校はどうと聞いたところ、つまらないと答えたので、詳しく聞こうとしたのですが、答えてくれなかったので気になっていたのですが」
「そうですか。わかりました。友だちとけんかでもしたのかもしれませんね。私の方でも注意して様子を見ておきます」

「実は先日、食事の時に学校はどうと聞いたところ、つまらないと答えたので、詳しく聞こうとしたのですが、答えてくれなかったので気になったのですが」
「なるほど、それでご心配だったのですね。ご相談いただき、ありがとうございます。どうでしょう。2・3日のうちに私の方で一度話を聞いてみて、その上でもう一度お話させていただきたいと思うのですがどうでしょうか」

保護者からの具体的な話に対して、最初の例では、友だちとけんかしたのかもしれないと言っています。保護者の心配を軽くしようとして言っているのでしょうが、聞き様によっては、これも保護者の考えを軽んじているようにもとれます。また、注意して見ておくといっても、フィードバックをどのようにするか伝えていないので、うやむやにされてしまうように感じられるかもしれません。一方後者では、「ありがとう」とお礼を言っています。保護者から相談を受けることを肯定的にとらえていることを伝えると同時に、子どもに関することは自分の問題でもあると伝えていることにもなります。また、時間を切って対応とフィードバックを示したうえで、「どうでしょうか」と保護者の同意を求めています。子どもをはさんで向かい合うのではなく、親と同じ側に立って寄り添っていると感じてもらえます。

時として、保護者と教師が子どもを間に挟んで対立的な立場にあるように感じられることがあります。教師は保護者と一緒に考える姿勢を見せて、子どもを育てる仲間であることを伝える必要があります。まずは、保護者の言葉を受け止めて、その上でこちらの考えを一方的にならないように伝えることが大切です。対応についても保護者の意向をきちんと確認することが必要です。
保護者は教師にとって子どもたちを育てるための大切なパートナーだということを意識して接してほしいと思います。
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