自然に背筋が伸びる本

野口芳宏先生の著書「授業で鍛える」が復刻されました。今から30年近く前に出版された書籍にもかかわらず、少しも色あせていないどころか、ますます輝いて見えました。
「鍛える」という言葉には子どもに無理やりやらせるというイメージがあるため、拒否反応をする方がいるかもしれません。しかし、野口先生の「鍛える」は子どもの自己有用感を大切にし、向上意欲を持たせることがベースになっています。子どもにおもねはしませんが、子どもたちに寄り添うことは決して忘れません。どの子どもも授業に積極的に参加し、活躍でき、その結果向上的変容を遂げ自己の進歩を実感できる、厳しいが愛情にあふれた授業を目指すものです。下手な「協同学習」や「学び合い」より、今言われているアクティブラーニングをより高いレベルで実現していると思います。そして、子どもたちを「鍛える」授業をつくるためには、教師が自らを「鍛える」ことが大切なのだと気づかされます。単なる授業技術のノウハウではなく、授業のあるべき姿、教師のあるべき姿を明確に示しておられます。

毎年、野口先生とお話をする機会をいただいていますが、初めてお会いした時に「教師が授業の主役」だと主張されました。私は「子どもが主役」の授業を目指してほしいと常々思っています。考え方が違うのかとも思いました。しかし、野口先生のお話を聞けば、一方的に教師が教え込む授業ではなく、子どもたちに考えさせ、活動させ、活躍させることを目指していることがわかります。子どもたちに全員参加を求め、活躍させ鍛えるのが教師の仕事だというそのお考えに納得したのを覚えています。この本を読んで、今学校現場で私が話していることの多くが、野口先生との出会いに影響されていることを再認識させられました。野口先生の実践やお話から私が鍛えられたことがよくわかります。

時代の変化や流行に揺るがない先生の主張に、読んでいるうちに自然に背筋が伸びてきます。若い先生方が生まれる前に書かれた本です。だからこそ、若い先生にはこの機会にぜひ読んでほしいと思います。授業のあり方を通じて教師とはどうあるべき存在かを学ぶことができると思います。

福山憲市先生から学ぶ

本年度第3回教師力アップセミナーは、山口県の福山憲市先生の「20代からの教師修業 出会いと挑戦」と題した講演でした。福山先生は「ふくの会」という勉強会を30年以上続けられていることでも有名ですが、130名の学年で算数の平均点が90点以上といった授業力や学級経営に定評のある方です。

お会いしてまず感じたのが、笑顔でした。この日ずっと笑顔が消えることがありませんでした。これは意識し続けなければできないことです。この一点だけでも、すばらしい先生であることは間違いないと確信できます。

「出会い」を大切にされています。言葉でそのことを説明するのではなく、実際の活動を通じて上手に伝えられます。会場の参加者同士で挨拶をさせますが、握手をしたかどうかを確認します。握手をして触れ合うことの大切さを伝えて、今度は移動してより多くの人と握手をするように指示します。その後、握手した人の名前を憶えているかをたずねます。憶えていない人が普通ですが、それでは出会いを大切にしていないとお話しされます。この一連の活動から、福山先生の姿勢や授業スタイルが見えてきます。伝えたいことをスモールステップに分割し、実際に活動をすることを通じて気づかせるというスタイルは授業でもとても有効だと感じました。また、福山先生は、指示が具体的でとても明確です。わかりやすくゴールも設定します。何より、よくほめます。授業力に定評のある方は、こういう基本的なことを絶対に外しません。

自身が先輩から学んだことをその時の話を交えて伝えていただきます。自信の至らなさをもとに伝えるところに、若い先生に成長してほしいという思いを感じます。よき先輩との出会いと、よき先輩になろうとすることの大切さを改めて感じました。

子どものちょっとした疑問も大切にされています。そういうものだと私たちがあたりまえのこととして疑問を感じないことも、子どもたちの目には不思議に映ります。子どもたちの「童心」と「同心」になり、いい質問をしてくれてありがとうの言葉をかけ、知らないから調べて学ぶことで「動心」し、子どもたちに「憧心」を持ってもらう。「童心→同心→動心→憧心」こんなお話に、子どもたちの側に寄り添う福山先生の姿勢を感じます。

障害児学級での経験で、子どもたちのやる気を引き出すための基本的な考えを教えてくださいます。その時間の一連の活動を事前に伝え見通しを持たせる。一つひとつの活動時間を短く区切り、名残惜しい気持ちにさせる。そして、何より子どもをほめることです。どんな些細なことでもいいので、ほめることは子どものやる気につながります。この考えには私も大きく共感します。

福山先生の講演は参加者にたくさん質問をされます。参加された方がいっぱい考えて頭がつかれたと言っていたのが印象的でした。よい授業を聞いた時の子どもの感想と同じです。福山先生の授業の本質を表わした感想なのかもしれません。子どもたちの平均点が高かったとことの秘密はそんなところにもあるのかもしれません。

以前からお会いしたかった福山先生にお会いでき、とても多くのことを学ぶことができました。このような出会いに感謝です。
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