知識を活かす

生徒の係が石油ストーブに灯油を入れる学校でのことです。ポリタンクのノズルをストーブの給油口に差し込んで灯油を入れるのですが、上手く入らないと子どもがざわついたそうです。ノズルと反対側のキャップを緩めなかったので空気が入ってこなかったのです。タンクから灯油を入れる経験がなかっただけのことと言えないこともないのですが、経験だけで片付けていいことなのか、ちょっと考えてしまいました。実はこの話は高等学校でのことだったのです。

「学校で習ったことは受験以外役に立たない!」「方程式を解くことが社会で何の役に立つの?」と考えている人はかなりの数に上るでしょう。しかし、そういう方は学んだことや知識を活かそうとする姿勢が根本的に欠けているのではないかという気がします。先ほどの灯油を入れることは、経験の問題ではなく知識の活用という視点から見ることもできます。理科の圧力の学習で実験したことや学んだことを思いだせばすぐに解決するはずの問題です。高校生であれば、当然すぐに気づいてしかるべきです。醤油さしの瓶に小さな穴が開いていることに気づいてどうしてだろう考えるような、身近なことに学んだことを活用しようとする姿勢で日ごろからいれば、すぐに対処できたはずです。
子どもたちから「学校の勉強は試験のための勉強、実生活の知恵はまた別のもの」という意識が感じられることがよくあります。学校で学ぶことにリアリティがないと言い変えてもいいでしょう。新学習指導要領でも知識・技能を実生活の場面で活用する力をつけることをうたっています。先ほどの高校生は、小学校や中学校でそのような力をつけてこなかったということです。

実はこの力がないことを一番感じるのは、学校の先生に対してです。先生自身が自分の専門教科が実生活の場面でどのように活用されるかをわかっていない、少なくとも授業からはそのことを意識していないように感じられるのです。試験に出るからと言って、知識を覚えることを求める。解き方ばかりを覚えさせてどうすれば解き方を見つけることができるかという見方・考え方を鍛えようとしない。授業で学ぶことを実生活にどう活かすことができるのかという視点のない授業に多く出会うのです。これは何も若手に限ったことではありません。ベテランでも同じです。先生自身が受験に特化してしまい、自分の専門教科を活用する力を無くして(もともと身につけていなかった?)しまっているように思います。子どもたちに求める以前に先生がその力をつけることを意識してほしいと思います。

学んだことが本当に活きるのは、経験のない未知の問題に出会った時です。些細なことかもしれませんが、ポリタンクから灯油を入れるという、一度経験して知ってしまえばどうということもないことから、そのことを改めて考えさせられました。
学んだことを活用する力を意識した授業づくりを心がけ、学校で学ぶことが子どもたちにとってリアリティのあるものになるようにしてほしいと思います。
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