愛される学校づくりフォーラム2014 in京都(午後の部)(その2)

愛される学校づくりフォーラム2014 in京都」の午後の部の「楽しく授業研究しよう」の2つ目の模擬授業は、奥州市立常盤小学校副校長の佐藤正寿先生でした。小学校の社会科「モンゴルの人々のくらし」です。

佐藤先生の授業は基本となる考え方、流し方がはっきりしています。内容がワンパターンというのではありません。大まかな学習の流れが「ウォーミングアップ(復習)」「ゴールの提示」「第1課題(活動)」「第2課題(主課題・活動)」「ゴール(まとめ)」という形に決まっていて、子どもたちは次にどのような活動があるのかわかるため、見通しをもって授業を受けることができます。また、社会科の観点「(社会的事象への)関心・意欲・態度」「(社会的な)思考・判断」「(観察・資料活用の)技能・表現」「(社会的事象についての)知識・理解」が必ずすべて取り入れられています。このことは、たとえ今回のような20分の短い模擬授業でもきちんと守られています。

今回のウォーミングアップは東アジアの国についての復習です。地図と国旗をスクリーンに表示して、国名をテンポよく、時間のことも考慮してか全体で言わせます。子ども役の言う国名に対して、正式名称も必ず確認します。単なるウォーミングアップではなく、知識の定着も意識しています。
続いてゴールの提示です。この日のゴールは「モンゴルの人々はどのようなくらしているのだろうか」という課題に対して「ノートに説明を書くことができる」でした。

第1課題は「モンゴルについて知っていること、思っていることをノートに書きなさい」です。書かせた後、ペアで確認をします。ペアの人の書いたことを自分のノートに写しているのを「いいですね。他の人から学んだことを書き加えていますね」とほめています。「他の人から学んだことを写しなさい」という指示ではありません。よい行動を見つけてほめることでよい行動を広げようとしているのです。こういうところに佐藤先生の自ら考え行動する子どもを育てようとする姿勢がうかがわれます。
子ども役に発表させます。どの発表もきちんと受け止め評価します。「地図帳に注目した」といった社会科的な価値づけも忘れません。いつものことですが、その場では板書をせず、後で必要なものだけを板書します。テンポを大切にしていることと、余計な情報を残したくないことがその理由でしょう。ゲル、力士、料理の3つを板書して、今日はゲルについて勉強することを伝えます。子どもから出てきたことをもとに課題や活動がつくられています(もちろん、コントロールはしているのですが)。

ペアでゲルについて何を知りたいかを考えさせます。「知りたい」は子どもたちの言葉を引き出しやすい発問です。知りたい意欲を持たせることで、次の展開での子どもたちの集中度は上がります。「知りたい」は知識の獲得意欲につながります。知識は原則教えるか、調べるしかありません。時間があれば図書館やインターネットで調べることもできますが、今回は時間がないのでもちろん教える形になります。しかし、一方的に教師が説明するのではなく、子どもたちの「知りたい」をまずスクリーンに写真で見せます。子どもたちが写真(資料)から知識を学ぶことを優先します。その上で、必要な説明を簡潔に加えます。そのため授業のテンポがよいのです。ゲルを組み立てる写真を見せ、大人たちが協力して数時間で組み立てられことを説明します。簡単に組み立て、分解ができるゲルの特徴から、家畜と一緒に年数回移動しているモンゴルの人々の暮らし方につなげていき、「遊牧民」という言葉を押さえました。「遊牧民」から出発するのではなく、子どもたちの興味関心を引きつけたゲルに着目することから、遊牧民の暮らし方に思い至らせるという展開は、部分から全体を想像する、資料からその裏にあるものを推測する力をつけることにつながります。社会科でつけたい力を意識した展開です。

ここで、第2課題です。「遊牧民は現在も同じようなくらしをしていると思うか」です。子どもたちに挙手をさせます。考えは分かれます。本来はここで時間をかけて、根拠を持って考えさせたいところです。「どのような資料がほしいか考える」「教師が用意した資料をもとに議論する」などの方法が考えられます。時間の制限あるので、今回は教師主導で進めました。
最初に見せたゲルの写真のトリミングしていた両端を広げて見せました。そこには、太陽電池や衛星放送用のパラボラアンテナが写っていました。子ども役からも驚きの声が上がります。最初の写真が布石になっていました。一部分を見ていた時と資料から見えてくるものが大きく違います。車やバイクも使っていることを示して、昔のような生活を維持しながらも文化(現代)的な暮らしをしていることを伝えます。ここで客観的な資料を提示します。
モンゴルの遊牧民の数が、以前は人口の80%だったのが、現在は13%に下がっているグラフと首都ウランバートルの人口が40万人から122万人増えたグラフを重ねてスクリーンに映します。視覚的にわかりやすい資料です。そして、現在のウランバートルにあるゲル地区をグーグルアースで見せることで、遊牧民が都市に定住している様子を実感させます。ICTを活用することで、とても説得力があります。都市への定住の理由として、「子どもの教育」「現金収入」「牧草地の減少」を授業者が説明しました。時間があれば子ども役に推測させたいところでした。

書かせる代わりにどんなこと思ったかペアで話をさせて、まとめに入りました。「1つの国を見る時多面的に見ることが大切である」という社会科としての見方・考え方でした。なるほど、ここでも、ゲルの写真が布石になっていました。外国の教科書における「日本では人力車で移動している」「日本人は下駄をはいている」といったおかしな日本の記述を紹介して終わりました。

今回は資料をもとに知識を与え、知識によって子どもたちの認識や考えを変容させ、深めていく授業でした。時間の関係で子どもたち自身で考えさせる場面が少なかったのが残念です。最後のまとめも、本当は子どもたちから言わせたいところだったと思います。逆に言えば、時間があればきっと考えさせていたはずだということが見える授業だったということです。それは、「ペアでの意見交換を多用することで、一人ひとりの表現活動の時間を保障している」「子どもの興味関心や、子どもの気づきをもとに授業を進めようとしている」「子どもが考える根拠となり得る資料を準備している」といったことから伝わってくるのだと思います。
これだけの内容を20分という限られた時間の中で授業として成立させる手腕は、さすが達人と言えるものでした。

授業検討は、4人のグループで行う「3+1授業検討法」で行いました(詳しくは教育コラム「楽しく授業研究をしよう」参照)。授業検討者は、2色の付箋紙に「よかったところ、参考になったところ」「疑問に思ったところ、改善点」に分けてメモを取りながら授業を参観します。グループではその付箋紙をもとに「よかったところ、参考になったところ」を3つ、「疑問に思ったところ、改善点」を1つにまとめて、模造紙を使って全体に発表するというものです。コーディネーター(司会)は小牧市立岩崎中学校の校長の石川学先生です。
授業検討者がグループで話し合っている間、会場でも同じように考えていただきました。模擬授業が素晴らしかったこともあり、会場の皆さんも真剣に考えておられ、まわりと話し合っている姿がたくさん見られました。

2つのグループの発表は、
最初のグループ
よいところ
・資料の提示のタイミング
・知りたいことは何ですかとう発問で子どもの興味を引き出した
・日本が外からどのように見られているかに注目させた
改善点
・子どもの意見がからまなかった

2つ目のグループは
よいところ
・しっかり起立して発言させるなど、「授業規律」が意識されていた
・どう思う、どんなことを知っていますか問いかけ、そこから子どもの言葉をうまく拾いながら進めていく「授業技術」
・説得力のある資料
改善点
・知識中心になってしまった

でした。

このまとめに至るまで、たくさんのよいところがグループ内で紹介されたことと思います。この検討法は、まとめそのものよりも、その過程をグループで共有することにそのねらいがあります。若手、中堅、ベテラン、個人のフェーズに合わせて多様な学びがあることと思います。

コーディネーターは、2つのグループが共に着目した資料に関連して、どこから探すのかを授業者に質問しました。基本は、「文献を探す」でした。文献には新しいものがないので、そういうときはインターネットを使うが、信用できないデータも多いので、できるだけ信用ができそうなものを探すようにしているそうです。ICTを活用されている佐藤先生だからこそ、文献に当たることの大切さを実感されているのでしょう。こういう言葉を引きだすのも、コーディネーター(司会者)の大切な役目です。

今回の授業では「知識」を与え、写真や資料によって「関心・意欲」を持たせ、隠したもの、隠されたものを意識することで「資料の見方」を教え、部分と全体を見ることで社会科的な「ものの見方」を考えさせました。社会科の4つ観点を意識してすべて扱っていることを授業者が説明してくれました。

最後に、この検討法の感想を佐藤先生に聞きました。
若い人やベテランの授業者にとってはよい方法ではないか。若い人は力がないので自信がない。よいところをたくさん言われれば元気が出る。一方ベテランはプライドがあるから、批判的なことが多く出れば授業者になろうとしない。そういう点でこの「3+1授業検討法」は価値があるということです。もちろん佐藤先生にとっても、自分が気づかなったよさを指摘されることで、意図的にそのよさを活かすことができるようになるので参考になるということでした。しかし、佐藤先生は、「3+1」ではなく、「3+3」でも「3+10」でもいい、改善点や課題をたくさん言ってもらいたい。その方がたくさん学べるということでした。たしかに、「3+1」にこだわる必要はありません。授業者や学校の集団の状況に応じて、柔軟に対応すればいいことです。よいところと改善点の比率をあらかじめ示しておくという仕組みを活かし、あとは、その比率をいくつにすればよいかを状況にあわせて決めるだけです。そのことを佐藤先生から改めて気づかせていただきました。

次のICTを活用した授業検討法については、「愛される学校づくりフォーラム2014 in京都(午後の部)(その3)」で。
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