教師のねらいに近い考えをどう深めるか

子どもが発表した考えが不完全ではあるが教師のねらいに近いものだったとき、どう対応しますか。気をつけてほしいのは、教師が足りないことをつけ足しながら自分で説明しないことです。たとえその子どもの考えをほめても、子どもはそれが教師の求める答に近いからほめられたのであって、発言は教師の求める答かどうかをチェックされる場だと感じてしまいます。自分の考えを発言することに価値を見出さなくなり、教師の求める答探しを始めるようになってしまいます。
大切なことは、子どもたちでその考えを深めさせていくことです。そうすることで、子どもたちの自己有用感が高まり、授業への参加意識も高まります。そのためには子どもの言葉で考えを発表させていくことが必要になります。では具体的にどのようにしていけばよいのでしょうか。

大きくは2つの方法があります。本人に返すか、他の子どもにつなぐかです。いずれにしても、まず子どもの発言をしっかりと受容する必要があります。その上で、発言をどう判断するかです。本人の言葉や考えがまだ明確になっていない、整理できていないと感じたときは、その点について「○○ってどういうことかな。もう少し聞かせてくれる」と問い返します。本人の言葉で考えが明確になれば、「なるほど。みんな今の考えどう思った。納得した」と全体につないでいきます。注意してほしいのが、考えが整理できなくて教師のねらう考えに近づかなくても執拗に問い返し続けないことです。子どもは教師の期待する答があるのだと感じ、自分の言葉がそれとずれていると気づきます。結果、教師の求める答えを探すようになり、自分の考えを言わなくなってしまいます。無理をしないことが大切です。

発表者の考えが明確になっている時や、これ以上問い返しても追いつめるだけだと判断した時は、他の子どもにつなぐことになります。最初の発言者の考えを深める方向の意見が出るように意識することが必要です。この時、「他の人はどう」というような聞き方は、注意が必要です。子どもたちが育っていなければ、違う考えを言わなければいけないと思うからです。もとの意見を深めるためには、「同じように考えた人いる」と近い考えの人に意見を求めるのが基本となります。ここで「○○さんはどう」と指名した時に、子どもが「同じです」と答えるときがあります。「同じです」という答えは原則として許さないことが大切で。「同じです」を許すと漠然と同じだなと思うだけで、自分の考えはどうであるか整理されないままになってしまいます。その時は、「もう一度言ってくれる」と自分の言葉で言い直すよう求めます。全く同じことを言うことはまずありません。少し違った表現や、言葉が足されることが起こります。そこをとらえて、「○○さんは、・・・と言ってくれたね」「・・・と付け加えてくれたね」と教師が評価したり、「○○さんは少し付け加えてくれたと思うんだけど、どう」と他の子どもに異なっているところや付け加えたことを発表させたりします。
ここで、発表者の考えを明確にさせるために、「同じです」に対して、「どこが同じか教えてくれる」と問い返してもよいでしょう。その上で「違うところはある」と違いを意識させるのです。こうすることで、たとえ同じようでも、自分の考えと友だちの考えをきちんと比較して整理するようになります。
こういった方法の問題は、「同じように考えた人」しか発言できないことです。近い考えを出させたいときは「今の考えなるほどと思った人」と問いかける。反対意見が出ることも視野に入れた上で「今の考えどう思ったか聞かせてくれる」と広く意見を求める。このような問いかけを使うことも必要になります。
また挙手だけに頼らず、子どもの表情や反応を見て指名することも大切です。うなずく子どもがいれば、「今うなずいていたよね。どういうことか教えてくれる」と問いかければ、間違いなく関連した何かを話してくれます。指名された子どもは教師が自分を見てくれていることを知り、安心して授業に参加するようにもなります。
意見をつなげていくことで、全体が考えを深めてきたと感じる時は、周りで意見を聞き合うことや、グループにすることも有効です。自分の考えが深まってくると発言したくなるものです。挙手や指名では一部の子どもしか発言できないので、どの子どもも発言できる機会をつくるのです。

いずれの方法にしても、子どもの発言のよい部分や足りないところを焦点化しながら、子どもたちの言葉で整理し深めていくことが必要になります。

教師のねらいに近い考えだからこそ、子どもたちに自身で深めさせたいものです。どの方法が正解というわけではありません。発言の内容や子どもの状況によって選択することが大切です。そのためには、教師が対応の方法をいくつか持っていることが求められます。日ごろから子どもの考えを深める方法を意識して授業にのぞんでいただきたいと思います。
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