子どもたちの姿から多くのことに気づく

一昨日は、中学校で授業参観をおこないました。この学校のお手伝いをするようになって5年目です。今年は新しい先生が18人異動されてきました。教室がどのようになっているかとても興味深く観察させていただきました。

3年生はさすがに落ち着いて、どの授業でも子どもたちはよい姿を見せていました。しかし、集中力は授業者によって少し差がありました。
数学は展開公式の授業でした。子どもとやり取りをしながら公式が成り立つ理由を考えさせている授業と教師が説明する授業では、明らかに前者の方が子どもの集中度が高いのです。
英語はALTの授業でした。子どもは積極的に参加しているのですが、やはりその集中度には微妙に差があります。それは、どうやらALTではなく英語の教師の立ち位置の違いにありそうです。ある先生は、教室の前方の入口のところで子どもから表情がよく見える位置で、私が見ている間ずっと笑顔を維持していました。もう1人の先生は、教室の廊下側の窓際やや前方でじっと子どもたちを見ていました。集中度が高いのは前者です。上手に授業を進めるALTですが、すべて英語なので子どもたちはわからなくなったり不安になったりすることもあります。そのとき子どもたちの目にいつもの先生の笑顔が入れば安心します。直接何もしなくても笑顔で見守っているだけでも子どもたちにとっては大きな支えなのです。見守ることの大切さはこの日いろいろな場面で感じることができました。

2年生の姿はとても印象的でした。昨年度に感じた授業によって見せる姿の差が感じられません。その姿は2年生というより1年生でした。目が期待でキラキラと輝き、とても集中しているのです。思わず教室の配置を変えたのかと学級のプレートを確認したほどです。
3年生、2年生はこの学校に残った先生が中心で担当していますが、この学年は今年が初めての方も多いようです。新年度で気持ちがリセットされることもあり、相乗効果でこのような意欲的な状態になったようです。2年生の担任団の中心になっている先生の言葉を借りれば、学級編成が変わり子どもたちがシャッフルされたが、よい子どもたちに全体がそろっている状態のようです。人事的に厳しいことがかえってよい方向に作用したようです。もちろんその根底に先生方の子どもへの働きかけが影響していることは間違いありません。このことは1年生の姿からも感じます。

一方1年生は11学級もあり、1年生であることからも新しく異動された先生方が多くを占めています。教室を見ていてこの時期にもかかわらず集中力のない子どもがたくさん目につくのです。今年の1年生は問題があるのかと心配になったのですが、いくつかの学級はとてもよい表情で集中しています。新任から5年目の先生の学級活動では、穏やかな笑顔で子どもを見つめている姿が印象的でした。余裕も出てきたのでしょう、子どもたちは先生に見守られている安心感で伸び伸びしています。男女の関係もよく、小学校でとてもよく育ってきていることが感じられました。この学校で2年ほど講師を務めている方も担任として入っています。この方の授業もとても子どもたちが意欲的に参加していました。しっかりと子どもたちを受け止めていることがよくわかります。
しかし、同じ教科のまったく同じ場面でも子どもの集中力は違っています。個人で作業をしているときの集中力も違うのです。その原因はどうやら先生が子どもを見ているかどうかにありそうです。集中している学級では、教師はしっかりと全体を見ています。集中していない子どもがいないか、手が止まっている子がいないか見守っているのです。集中を切らす子どもがいても、先生の見守る視線に触れて集中を取り戻します。一方集中が切れている学級は、教師が教科書を見たり、次の場面のための準備をしたりしています。机間指導をしていても漫然と子どもの手元見るだけだったり、ミニ授業を始めたりで全体を見ることをしていません。集中力切らしている子どもがいてもそのことに気づけない状態です。
音読などでも、教科書をずっと見ているだけの教師とチラチラと子どもたちを見ている教師との差は歴然です。5年目の教師の英語の授業では、1人なかなか集中できない子どもがいました。指でアルファベットを書く練習をする場面で、1人だけ動作が遅れます。前列の廊下側の端の席です。教師の死角になりやすい席です。しかし、この子どもの指が上がると同時に声がかけられます。たまたまかと思いましたが、そうではありません。必ず全員の準備ができるまで待っているのです。子どもたちが集中しているわけです。
一方、子どもに書けたら待つように指示しておいて、さあ始まるかと思うとまだ書けていない子がいるのでもう少し待たせる。このような学級もありました。その子ができたときには緊張が弛んでいます。遅れている子に早くするように指示をし、待っている子どもたちをほめるといったことをしないと子どもの集中力は持ちません。せめて待っている子どもたちを笑顔で見守っていないと子どもはやる気がなくなります。しかし、その間先生は次の準備をしていました。
子どもの発言を板書する場面でも違いがありました。子どもに近づいて意見を聞き発言が終わってから移動して板書をする先生と、子どもの発言途中で黒板の前に立ち板書を始める先生がいました。この差も明らかでした。
授業が始まって1週間経つか経たないうちに、1年生でもこのような違いが出てしまうことに驚きました。教師の働きかけ、かかわり方の差がこのような結果につながっているようです。2年生では、この差が少なかったのでしょう。
このことをわかってもらおうと1年生の学年主任に一緒に教室を回ってもらいました。まず2年生の1年生のような姿を見てもらい、その後1年生の教室を見てもらいました。まだまだ学年主任には若すぎると思われる歳の方ですが、子どもを見る力、授業力は確かな方です。力を見込んでの抜擢です。さすがに子どもの集中力の違いにすぐに気づきます。授業に入っている学級の子どもたちの姿の違いはショックだったのではないでしょうか。学年運営ではどう対処していいかわからないこともたくさんあると思います。しかし、彼の力を買っているからこそ助けてくれる方がたくさんいます。ドンドン頼っていいことを伝えました。

3年目の教師の数学の授業でとても素晴らしい場面を見ることができました。負の数の足し算でわからないことをつぶやいている子どもがいました。子ども同士で勝手に話し出していたのですが、注意する代わりにその子に何がわからないか聞きました。授業者は言っていることがよくわからないので子どもたちに「だれか助けてくれる」とつなぎました。本当にわからなかったのかどうかはわかりませんが、とっさになかなかできることではありません。日ごろから意識して子どもに聞くようにしているに違いありません。1人の生徒が発言し、それを受けてもう1人が「○○さんにつけ足して、・・・」と説明を加えてくれました。授業者は大きくうなずいて、「そういうことか、わかった。ありがとう」と笑顔で答えました。そして、本人やみんなに確認をしました。最後に発言した生徒だけでなく、最初に発言した生徒、わからなかった生徒、そして他の生徒も、みんな笑顔になりました。その瞬間教室が明るくなったように感じました。
昨年度に続いて今年も1年生の担任です。本人はそのことに不満だったようです。しかし、人事的に厳しい中、この学校での担任経験者として学年主任を支えてほしいという願いが込められた人事です。それに応えられだけに成長していることがこの場面でよくわかりました。正直、これまで彼にアドバイスしていて理解してもらえているのか不安な時もありました。しかし、ちゃんと素直に実践を積み重ねていたのです。学んだことが彼のものになるのに時間がかかっていただけなのです。子どもの成長を焦らず待つように言っている私が、実は若手教師の成長を焦っていたということです。このことに気づかせてもらいました。とても貴重な学びでした。
この日見た若手の先生方は、みなこの学校でしっかり成長していました。こんなにうれしいことはありません。

初任者の先生と一緒に教室を回りました。子どもたちの姿を見ながら少し話をしたところ、質問を受けました。その質問は、「子どもに考えさせたいのですが」から始まるものでした。この先生の目指す子どもの姿はとても明確です。1つ質問に答えると、それに付随して次々に具体的な場面についての質問が出てきます。たとえば、「子どもがずれた答を言って、次に指名した子どもが正しい答を言ったとき、正解と言ってしまうと最初の子どもが自分はダメだったんだとネガティブな気持ちになる。でも正解も教えなければいけない。どうすればいいのでしょうか?」といった質問です。1つ1つの場面で目指すものがはっきりしているので、現実とのギャップに悩んでいるのです。これは素晴らしいことです。私も具体的に答えることができます。とはいえ、目指す姿はベテランだってそう簡単に実現できるものではありません。焦らず少しずつ成長してほしいと思いました。
あとで聞いたところ、3年生の時に考える授業に出合い、それがとても楽しかったのだそうです。とてもよい授業との出会いがあったようです。教育実習の時は毎時間指導を受けることができたけれど、それがないためとても苦しいようでした。自分で勉強することも大切です。また、自分から教えてもらうように動くことも必要です。このことも伝えました。

子どもたちの姿、若手の成長から、教師が子どもの姿にどれほどの影響を与えるのか。子どもたちの環境がリセットされることで、どんなことが起こるのか。この日は本当に多くのことを学びました。また、新たな課題も多くいただきました。この1年間かけてこの課題を先生方と共にクリアしていきたいと思います。次回の訪問が今から楽しみです。
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30