授業研究で考える

昨日の日記の続きです(授業参観で学年の状況の違いを考える参照)。
研究授業は、3年生のTTでの英語でした。子どもたちと教師の人間関係のよさが随所に感じられました。この学年に至るまでに培ったものが大きいように感じました。

この日の課題は2年生の復習で、ゲームを通じて疑問文とその応答を練習するものでした。質問文は誕生日、好きな教科、好きな歌手、好きな季節、次の日曜買い物に出かけるか、昨日TVを見たか、・・・など、10文が用意されていました。「5W1H」「過去・現在・未来・進行形」「比較」などを含む文で、何を復習させたいかが明確になっているよいものでした。また、この時期ですので、エンカウンターを意識したものにもなっています。授業者の思いが感じられるものでした。
授業の展開は、ウォームアップで英語の歌を歌い、英語の係が音頭をとって全体で英文の音読練習をします。
この日の課題に入り、まず疑問文を全体で音読し、その意味を簡単に説明して個人で答を考えます。
その後、グループで変形のじゃんけんを使って問題文を選びます。1人が質問をして隣が答え、今度は答えた人が同じ質問を次の人にします。1周してまた初めから繰り返します。たくさんの質問に挑戦できることが目標でした。
その後、全体で今度はT2との1問1答です。誰が答えるかはゲームで決めます。音楽を鳴らし、人形を順番に手渡しでまわして、音楽が止まったときに人形を持っていた人が当たりです。 
確認として、全体に対してT1が質問し各自が自分の答を言い、最後に授業の振り返りを書いて終わりでした。

英語の係による音読の場面です。私の近くにいた生徒は授業で使うプリントを持っていませんでした。自分からは隣の生徒に見せてくれるようには頼みません。隣の生徒も自分からは見せようとしませんでした。そのことに気づいた授業者が2人をつなぎ、忘れた生徒は見せてもらいながら参加しました。プリントを音読するのですが、見せてもらっている生徒は途中で集中力を失くしました。見せている子はそれでもプリントを2人の真ん中に保持していましたが、それ以上の働きかけはできませんでした。
英語の質問に対する答えを書く場面では、先ほどのプリントを忘れた子どもはワークシートも持っていないので作業できません。授業者は机間指導をしていてそのことに気づくのに少し遅れました。しかし、気づくとすぐにその子どもところにとんでいき、ワークシートを渡しました。その生徒はやる気がないのかなかなか手がつきません。しばらくじっとしていました。それに気づいた授業者は、ワークシートの反対側にあるヒントを示しながら具体的にアドバイスをします。すると、その生徒の手が動き始めました。やる気がなかったのではないのです。手がかりがなくて手が止まっていたのです。いくつか答を埋めた後、また手が止まりました。今度も授業者が気づいてアドバイスをすると、また手が動き出します。結局最後まで、自分からまわりの子どもに聞くことはできませんでした。
ワークシートは手がつかない子どものためにヒントも用意してあります。自分で考えてほしいという思いが伝わります。友だちに聞いてもいいとすると、写すだけで考えない子どもが出てくると思ってのことでしょう。しかし、教師が用意したヒントを見てもわからない子どもは、結局教師が個別に対応することになります。たとえ2人いても活動が止まってしまう子どもが出てきます。それよりは、まず写すことでもいいから活動をさせることが大切です。その上で、友だちの答をただ写すのではなく、ヒントを友だちからもらおうとする、写してもどうしてそうなるのと聞ける関係をつくることです。そのためには自分から友だちに聞ける子どもにすることから始める必要があります。
グループでのゲームの場面は面白いことが起こりました。先ほどの生徒は自信がないのか、今一歩積極的に動こうとはしていなかったのですが、班長の子どもに声をかけられることで参加できたのです。その後だんだん表情もよくなり、満足した顔で活動を終えました。授業者が生活班の班長をグループ活動で活かそうとした理由がよくわかります。問題はこの授業が英語の授業なのか、学級活動のエンカウンターなのか位置づけがはっきりしないことです。後者であれば、これはとてもよい場面です。しかし、前者とすると疑問が起こるのです。先ほどの生徒は自分からかかわることができません。まわりの子どももその様子を見てかかわろうとはしていないのです。働きかけるのは班長というリーダーの仕事になっているのです。リーダーがいるために多くの子どもが自らかかわり合えなくなっているともいえるのです。自らかかわり、学び合おうとする子どもをつくるのであればこれはマイナスです。このことに注意しなければなりません。

授業は全体としてそのねらいがよくわからないものになってしまいました。グループ活動は英語と関係ないじゃんけんの場面でテンションが上がります。最初のうち、英語の場面になればテンションが落ちていたのですが、グループ間で進行がずれてくると英語の場面とじゃんけんの場面が重なります。こうなると高いテンションに引っ張られて全体のテンションも上がり、聞くことへの集中力が下がってしまいます。
また、全体でのT2との1問1答もゲーム的な要素でテンションが上がってしまいます。友だちの答を真剣に聞いている子どももいるのですが、自分には関係ないとそこでは集中力が落ちている子どもも目立ちました。質問と答の文をマスターさせるのがねらいなら、もっと英語に関する活動を増やす必要があります。友だちの答が何だったかを英語でたずねる、友だちと同じ答えの人はいないかたずねるといった、聞く必然性のある活動を加えていくことも必要です。ほとんどの子どもたちは最後まで、ワークシートを見ながら答えていました。英語でのコミュニケーションを目的とするならば、達成できていないということです。
全体での授業者の質問に答える場面で1人の生徒が、ワークシート見ないで答えていました。この生徒をほめることで、ワークシートに頼らず自分の耳で聞き、頭で考えて答えることを促したかったところです。

子どもたちの感想は、楽しかったが多かったのですが、学級活動的な楽しさを追求してしまい、学習としての楽しさはそこにはありませんでした。

授業検討会では、ベテランからはこの日のゴールとなる子どもの姿が不明確であることが指摘されました。若手からはワークシートを見ないで質問し答えられることを目標とすればよかったのではないかとの意見が出てきました。よい考えだと思いました。
T2の方からは、まだ子どもたち一人ひとりの力がわからないので、その子に応じた質問を選べなかった。どうすればいいのかということを話されました。その場ではお答えしなかったのですが、基本的にあまり気にしなくてもよいと思います。もし質問に答えられなかったとしても、まわりの子どもに「助けてくれる」とつなげば解決するからです。

私からは、友だちの発言を聞く必然性のある活動、課題を心がける必要があることや振り返りシートは感想を書くのではなく、この1時間で学んだこと、できるようになったこと、わかったことなど自身の変容を書かせるようにすることなどをお話しました。
その上で、別の学校でお話した資料をもとに、特にこの時期に心がけてほしいことを伝えました。

会の終了後、希望者と懇談しいくつかの質問にお答えしました。
その中に暴言を吐く子どもたちにどのように対処すればいいのかという質問がありました。これは、その子どもが家庭などで暴言を浴びて育っているため、その言葉がどれだけ人を傷つけるか理解できていないことが大きな要因だと思います。いじめ対応などでも使われる方法ですが、暴言そのものでなくてもいいので、言葉が人を傷つける場面を設定して、どう思うか、どう対応するかを聞き合うといいでしょう。そのとき、どんな考えが出ても一切評価してはいけません。何らかのコメントが入ると本音が出にくくなるからです。最後に、みんなの言葉を聞いてどんなことを考えたかを書かせて終わります。人によって感じ方が違うことに気づき、自分の言葉が人を傷つけているかもしれないことを知ることでその子どもたちが変わっていくことを期待するのです。また、このことに関連して、傷つけることがわかっていて敢えてそういう行動をとる子どもへの対処も聞かれました。こういう子どもたちは自分が愛されていないと感じているように思います。悪い行動は悪いとはっきり否定するとともに、「あなたのことを好きだよ」というメッセージをしっかり発することが大切です。指導した後に、「話を聞かせてくれてありがとう」「話ができてうれしかった」とIメッセージを送ってほしいのです。ある生活指導の先生の場合、問題行動を起こした子どもに対しての最初の一言は「気づけなくて、ごめん」だそうです。なるほどと思います。こういう姿勢を大切にしてほしいものです。

今年から担任になった先生からの質問は、できるだけほめて学級を育てていきたいと思うが、そうすると気になる子どもはほめられないのでひがむのではないか。そう考えると他の子どもへのほめ言葉も少なくなってしまい、困っているというものです。
まずは、普通の子どもをしっかりほめて人間関係をつくることから始めるべきです。気になる子どもへの対応はその後でよいのです。この回答に対して、よくない状態で夏休みを迎えることがこわいので気になる子どもたちとの関係を1学期中につくっておきたいということでした。厳しいようですが、それは「驕り」だと答えました。まだ経験の浅い教師が学級全体も気になる子どもも同時に対応できるわけがありません。気になる子どもに対しては、他の先生方の助けを借り、相談しながら対応することが大切です。担任が話しできなくても、部活動の顧問が対応できる場合もあります。その子どもと関係を持てている子どもとよい関係がつくれればそこからつながることもできます。自分一人で何とかしよう、解決しようと力まないでほしいことを伝えました。

私が余計な経験を話したので、時間が遅くなり質問を受けられなかった先生もいました。申し訳ないことです。次回訪問時には、もう少し多くの質問を受けられるようにしたいと思います。
昨年度に訪問したときと比べて、子どものよい姿が多く見られたと思います。この状態を起点として、うまく子どもとの人間関係、子ども同士の人間関係をつくることができれば、とてもよくなっていくことと思います。教科の内容面については、次回以降にどのような方向性を持てばよいか一緒に考えたいと思います。この日も多くのことを学ぶことができました。このような学びの機会をいただけていることに感謝です。
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