ネタを活かすために必要なこと

授業にはいわゆるネタというものがあります。ベテランともなると、これはというネタをいくつも持っていることでしょう。子どもたちの予想を覆すような事象や興味・疑問を持たせ引き込むような課題が多いことと思います。インターネットを使えば簡単にネタを手に入れることもできます。俗にいう鉄板ネタであれば、子どもたちを惹きつける授業をつくることはそれほど難しくないと思います。
私も若手の授業づくりのお手伝いをするときに、ネタを提供することがあります。ところが実際の授業は、ネタを使うことで子どもたちの興味を引くものにはなるのですが、どんな力がついたかというと「???」ということが多いのです。何が足りないのでしょうか。

面白いネタを使った授業が考えるとき、どう見せれば子どもの興味を引けるか、どう与えれば子どもたちが活発に活動するかというところに目を奪われがちです。子どもたちに「うける」ことよりも、「何を考えさせたいのか」「何に気づかせたいのか」といったその授業のねらいが大切です。そこを明確にしておかないと、ただ「面白かった」で終わってしまうのです。

ちょっと難しいかもしれませんが、確率の有名なネタを例にして考えましょう。
「3つの箱の中に1つだけ当たりの箱があります。当たりだと思う箱を3つの中から1つ選んでください。選んだあとの残りの2つの内、はずれの箱をとり除きます。残った箱は2つです。当たりは、あなたの選んだ箱か残ったもう1つの箱のどちらかです。ここで、最初に選んだ箱ではなく、残ったもう1つの箱を選び直すチャンスを与えます。あなたは選び直しますか?」
子どもの多くは、当たりは2つの箱のどちらかだから、選び直しても直さなくても確率は1/2で同じだと予想します。しかし、実際にグループで実験をさせると予想と違って選びなおした方が当たりやすくなります。予想が外れるので、子どもが興味を持ってその理由を考えます。これがネタの力です。しかし、そこで終わってはいけません。この授業では、正しい確率(選び直すときは、最初にはずしていれば必ず当たり、逆に最初に当たりを選んでいれば必ずはずれます。選びなおして当たる確率は最初にはずれを選ぶ確率と等しくなるので2/3)を導くこと以外に、もう1つ大切なポイントがあります。それは、残った2つの箱のどちらに当たりがあるかは「同様に確からしい」が成り立っていないということです。だから、確率が1/2にならないのです。何が「同様に確からしい」かが、確率を考えるときに一番の基本となることです。確率の授業としては一番肝心なのはここなのです。ここを押さえなくては、なんとなく「面白いね」、「正解はなんとなくはわかるが、なぜ1/2にならないのかよくわからない」とモヤモヤした状態のままで終わってしまいます。
このこと意識すると授業づくりのポイントも見えてきます。子どもが1/2と予想した段階で根拠を問い、この「同様に確からしい」という言葉を引き出しておかなければいけません。結論が出たところで、「同様に確からしい」が成り立っていなかったことを確認することが必要になります。
教科、単元の本質的なところをきちんと考えておかなければ授業としては中途半端なものになってしまうのです。

このことは数学のネタに限りません。社会科であれば子どもが疑問を持ったことをどのような資料をもとに解決するのか、その過程で何を学ばせるのか。そういう視点が大切になります。理科の実験などでも、課題に興味を持ったあと、課題を解決するためにはどのような実験をすればよいのか考える、そういう場面が必要になります。
ネタの面白さも大切ですが、そのネタを使ってどんな力をつけるのか明確にすることがより重要なのです。教材研究の根本となる教科の本質や単元の持つ意味をしっかりと考え、身につけることがネタを活かすためにも必要になるのです。
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