送辞・答辞の指導で子どもの力に感動

先週末に中学校で送辞・答辞の指導をおこなってきました。例年、プロのアナウンサーにお願いしているものです。

指導の前に原稿を読ませていただきました。どちらも自身の体験をもとにしたエピソードがしっかりと語られ、とても素晴らしい内容でした。子どもたちの力もそうですが、先生方の指導力の高さもうかがえます。特に答辞はどの段落も内容の濃いもので、逆にどこに力を入れて読むのがもっともよいのか、私たちが悩むほどでした。

まずは、図書館で基本的な読み方の指導です。送辞の男子はちょっと緊張していたのか声がうまく出ていません。句読点以外のところでも息継ぎが入り、切れ切れに聞こえます。抑揚をつけようとしているせいでしょうか、トーンを落とすところが暗く感じてしまいます。彼が本来持っている元気さが出てないようです。そこで、原稿の持ち方、できるだけ顔を上げて喉を開けること指導し、声を落とすことで抑揚をつけるのではなく声を強くすることで強調するよう意識してもらいました。2回目は元気さが前面にでた、思いが伝わるものになってきました。

答辞の女子は、全体的にペースが速く感じられました。原稿量が多いため、時間を気にしているのかもしれません。言葉を強調する時、ちょっと語尾が上がる癖がありました。こういったことを指摘したあと、再度読んでもらいました。全体的にとてもよくなったのですが、何か物足りません。気持ちのこもった読み方ですが、答辞として聞くと違和感があるのです。一つひとつのエピソードに対して個人的な思いが強いので、私的なものに聞こえるのです。いつもは具体的で明確なアドバイスをしてくださるアナウンサーの方なのですが、今回は困ってしまいました。伝わらないことを覚悟の上で次のようなことを話されました。

卒業生みんなの代表として読み上げてほしい。書かれているのはあなたの気持ちかもしれないが、そこにみんなの気持ちが重なっているはずだ。一人ひとりがあなたの言葉に自分のことを思い出すのだ。私たちという言葉は、文字通り卒業生みんなの思いだ。その思いを伝える気持ちで読んでほしい。

このような抽象的なアドバイスをされたことはかつてありません。強く読む、ゆっくり読むといった、具体的なことは伝えていません。言われたからといってすぐにできるようになることは難しいでしょう。しかし、こうとしか言えなかったのです。無理を承知で、彼女自身が考え、変化することを期待しました。

体育館では、本番同様にマイクを使い、BGMも流しての練習です。
送辞の男子は、マイクを意識して緊張したのか、声がこもって、先ほど直ったことがまた出てきました。身体を少し動かしてリラックスさせてから、よい姿勢をとるように意識させました。その上で、声が前に出るように、マイクから少し距離をとるよう指導しました。その結果、声がしっかりと出て、言葉がはっきりと伝わるようになりました。下手に感情をこめて抑揚をつける必要はありません。話の中身が濃いだけに、元気よく読み上げて内容をしっかりと伝えれば感動的なものになるのです。読み手のよさを活かすことが大切なことがよくわかりました。

答辞は、そのあまりの変容に驚いてしまいました。先ほどとは全くの別人です。堂々とした、聞き手を引き込む答辞です。あえて指摘しなかった細かい欠点もなくなっています。途中で原稿を見るのをやめて、聞き入ってしまいました。最初の印象では、彼女は文化部なのかと思ったのですが、聞いてみたところ実はバスケットボール部のキャプテンでした。これがきっと本来の姿なのでしょう。みんなの思いをしっかりと伝えてくれる、力強くまた感動的なものになっていました。後半に比べて前半の方がややトーンが強い感じだったので、前半を抑え気味にするようにアドバイスしましたが、すぐに修正しました。素晴らし対応力です。

BGMは聞こえなくてもいいのでできるだけ小さくするようにとお願いしました。BGMに頼らなくても、2人とも十分に思いは伝わります。BGMがかえってじゃまになるくらいなのです。
2時間ほど、一人4回ずつの通読でしたが、みるみる上手になっていく姿に、子どもたちの持つポテンシャルのすごさをあらためて教えられました。
この後の指導について、担当の先生から具体的なアドバイスを求められました。お話を聞くと、プロのアナウンサーに来てもらうので、あえてこと細かく指導をしないでいたそうです。今回の指導を元に、本番当日までブラッシュアップするように指導を続けてくださるということです。私たちとの連携を意識していただけたことをとてもうれしく思いました。先生方のきめ細かい心遣いが、子どもたちの素晴らしい姿の陰にあるのです。

卒業式当日は、2人とも素晴らしい送辞・答辞を披露してくれることと思います。毎回的確なアドバイスをしていただけるアナウンサーの方からだけでなく、子どもたち、先生方からたくさんのことを学ばせていただけました。ありがとうございました。
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