若手の授業から多くを学ぶ(その2)(長文)

若手の授業から多くを学ぶ(その1)(長文)」の続きです。

最後の授業は、1年生の国語でした。「これはなんでしょう」というゲームの1時間目でした。
授業規律を大切にしようと意識していることがよくわかる授業でした。教科書を全員で音読する場面で、「読むときの姿勢は?」と子どもたちに声をかけます。子どもたちは素早く教科書を持って読む姿勢をとり始めます。授業者は子どもたちがそろうのを待っていましたが、数人ができない状態で読み始めました。どうなるかと見ていました。まわりの子どもが大きな声で読み進むとちゃんと気づき、教科書を手に持ってしっかり参加します。なるほどと、思う場面です。子どもは意図的に指示を無視していたわけではなさそうです。授業者は指示が通るまで待つことの大切さはわかっていると思います。注意することで指示を徹底することは避けようとしていることも伝わります。ネガティブな言葉が授業中にほとんど聞かれなかったことからもわかります。以前はきちんと指示が通るまで待っていたのでしょうが、規律が少し弛んだ時点で、待ちきれなくなったのかもしれません。指示が通らない子どもも決して逆らっているわけではありませんので、できている子どもたちをほめることで気づかせていくとよいでしょう。
また、授業者は音読の際、手元の教科書をずっと見ていました。子どもの声がしっかりでているので参加していると判断していたようですが、やはり子どもたちのようすをしっかり見ることが大切です。子どもたちのテンションの高さも気になります。音読で目指すものが何かがはっきりしていないことが原因です。大きな声で読むことだけが目標になってしまっています。「句読点でしっかり間をあけよう」「○○を見つけながら読もう」というような目標を意識させるとテンションは下がります。
授業規律を維持するためにルールをつくって意識させるようにしています。たとえば、「答がわかっていても勝手にしゃべらない」というルールがあります。「答がわかっていても我慢してくれた人がいるんだね」とほめるとともにルールを全体に意識させていました。よい方法だと思います。学年が上がってくれば、固有名詞でほめることも必要になってくると思います。
授業者が子どもたち背を向けて板書しているとき、子どものようすがだれているのが気になります。笑顔が多く、子どもたちも安心して参加できているのですが、指示をするときや指示が通るのを待っているときの表情が硬いことが問題です。子どもたちをチェックしているという表情なのです。他の場面で笑顔が多いだけに子どもたちは緊張することになります。その反動で視線が外れると弛むのです。笑顔で指示をして、子どもたちが指示に従うことを喜んでいるという姿勢で接するようにしてほしいと思います。緊張と集中は違うのです。
授業者が用意した「これはなんでしょう」ゲームに挑戦させます。1問目はすぐに答がわかるもの用意していました。これは、ゲームのゴールは何かを理解させるためです。次の2問は、子どもから質問をしないと、ヒントだけでは答がすぐにはわからないものです。なかなかわからない状況を経験することで、このゲームのポイントや注意すべきことに気づかせるための活動です。授業者の出すヒントに「えっ」という声が上がります。わかった人と問いかけると半分くらい挙手します。質問する必然性が子どもに生まれました。できれば、「えっ」とつぶやいた子どもに、「どういうこと」と聞いてあげるとよいでしょう。「わかんない」といった発言に対して、「他にも困っている人いる」と問いかけ、「わかった人」ではなく、「困っている人」を起点に進めるとより必然性が増します。
順番に子どもに質問をさせますが、次第に集中力が落ちて聞かない子どもが増えてきます。答がわかることが目的となっているので、わかった人は聞く必要がなくなってしまうからです。ここは、「よい質問をして、全員答えがわかるようにすること」を目標にするとよいでしょう。わかった子どもも積極的に参加できますし、「今の質問の答でわかった人」「すごい、○人もわかったね」と質問を評価することもできます。また、国語の授業としては、表現にもこだわりたいところです。質問は語尾に「ですか」をつけるといったことを意識させて、「質問の形になっているね」と評価するのです。漫然と活動すると、テンションが上がっていき、その一方で参加できない子どものテンションが下がっていきます。一つひとつの活動に子ども目線の目標を持たせることが大切になります。
3つ目の問題では、答が「チーター」と「ライオン」に分かれました。授業者が正解を発表して終わったのですが、子どもたちに根拠を求めてほしいところです。「今の意見で答が変わった人」「納得した人」とつなぎ、友だちの考えを聞いて自分たちで答を見つけていく経験を早くから積ませたいのです。
後半は子どもたちに、次回は自分たちで問題をつくってゲームをすることを伝え、事前にゲームを進めるためのルールを考えることを課題にしました。ここでも、授業者が規律をとても意識していることが感じられます。
授業者の子どもの発言を受け止める力が、この場面では見事に発揮されました。子どもの発言には「なるほど、ありがとう」と受け止めます。「失格はなし」というルールを提案した子どもから「いやな気分になるから」という理由を引き出し、「すごいね。今の聞いた?」と他の子どもに復唱させます。ちょっと声が小さかった子どもに対して、「とってもいいこと言ってくれた。後ろの方の人、聞こえた?」と子どもにつなぎます。聞こえなかったという声に、「後ろの人に聞こえるように、もう少し大きな声で言って」と促します。しかし、せっかく言い直したのに、授業者がそのあとを引き取って説明してしまいました。もったいない場面でした。発表したあと出番が終わったと集中力をなくす子どもが多いのは、自分の発言を起点として、友だちとつながっていくことがないことが原因です。ここは、発表者に声を大きくするよう指示するだけでなく、「みんな、○○さんの意見をしっかり聞こうね。いい?じゃあ○○さん、もう一度聞かせてください」と他の子どもに聞くことを意識させるのです。そして、「○○さんの意見聞こえた?もう一度言ってくれる?」「○○さんの意見、どう思った?」「○○さんの意見のどこがよかった?」と、もう一度返すのです。
「間違えてもうるさくしない」「わからなければ、追加で質問できる」といった、友だちを思いやる言葉がたくさん出ます。他者を思いやることを基本に日ごろからルール作りをしていることがよくわかります。立派な学級経営だと思います。
気になったのが、ルールの決定プロセスです。提案に対して他の子どもの意見を聞くこともあるのですが、「いいね」「そうしようか」と教師が決定してしまうのです。結局、発表する子どもと教師で話が進むので、次第に集中力をなくす子どもが増えてきます。少し時間がかかってしまいますが、子どもたちが合意することも必要です。
手遊びをしている子どもに、「○○さんが話してくれるから、手の物を離そう」とちょっと強引にやめさせました。しかし、すぐにまた手遊びを始めました。「○○さんの話を聞こう。話を聞くときはどうすればいい?」と投げかけ、子どもが手遊びをやめて体の向きを変えたときに「よい姿勢だね。ありがとう」とほめるようにするとよいでしょう。注意をされたという気持ちにしないように工夫することが大切です。
「答を教室の中の物から選ぶ。答が見つかったらそこに行って、『これだ』と教える」というルールが提案されました。いきなり否定するわけにもいきません。授業者は苦しんだことと思います。「どうする」と問いかけ、他の子どもの意見を聞きます。否定的な意見も出ますが、「今の意見をどう思う」とつないで広げることはしませんでした。反対が多ければ考えが変わったかもしれませんが、単発の反対なので発案者は自分の考えにこだわる姿勢を見せます。ここで、授業者はこのアイデアは素晴らしいが学級では人が多いので大変になると子どもから出た言葉をうまく使いながら、否定しました。友だちと遊ぶ時にやるといいと認めて、「○○さんのアイデアに拍手」と全員に拍手させました。認めてもらえたので発案者も笑顔で納得しました。なかなかとっさにできる対応ではありません。子どもを否定しないということを原則としているからできた対応だと思います。授業者のこの姿勢は称賛に値すると思います。
最後は、子どもの集中力が落ちてきました。ここで、授業者は3回手をたたきます。すると子どもも「は、あ、い」と手を3回たたきながら答えます。これもルール(約束事)です。子どもたちに「話を聞いて」「こちらを見なさい」と注意をしないでも指示を通すためのよい方法です。1回では集中できなくて、2回やる場面がありました。子どもたちも悪い意味で慣れてきて、このルールも少し形骸化してきているようです。このやり方は、教師が声を出さないのがポイントなので、授業者もじっと声を出さないようにしています。時には原点に戻り、時間がかかってもきちんと指示が通るまで待つことも必要でしょう。声を出さずに、一人ひとりと目を合わせて、笑顔でうなずくという方法もあります。従わない子どもがいてもよしとするとそこから崩れていくので注意が必要です。
最後に、黒板に書いたルールを全員で読ませて、ルールに関するクイズを出しました。○×を手で示させます。子どもたちは、友だちの答を見て確認しています。授業者は、1問ごとに「正解は、」「○」「×」と発表します。子どものテンションはまた上がっていきました。まず、板書を読む目的を子どもに明確にする必要があります。「今から、しっかり読んでルールを覚えよう。この後クイズをするよ」と目標を明確にし、クイズは後ろを向かせて黒板を見えなくするとよいでしょう。正解の判定も、子どもにまわりを見ながら確認させればいいのです。もし、何人か間違えているようであれば、「さあどうだったかな?」と振り返らせて、子ども自身で修正させるのです。教師が正解を教えずに済むのなら、それにこしたことはないのです。

授業観がはっきりと伝わる、とても好感の持てる授業でした。目指すものがはっきりしているので、課題もはっきり見えてきます。このような授業であれば、アドバイスもどんどん具体的になります。今できていることがたくさんあるので、それを活かすことと、その上に何を足せばいいのかを意識して授業をしてほしいと思います。たとえばテンションを下げる技術です(テンションを上げすぎない参照)。無責任に参加できる活動を減らす。しゃべり方の間を工夫したり、トーンを下げたりすることを意識する。こうすることで、子どもたちがより落ち着いて授業に参加できるようになります。
授業者からは前向きな言葉をたくさん聞くことができました。これからの進歩がとても楽しみです。次の機会には、教材についてもう少し話ができればと思います。

実はこの学校は、昨年度の「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」で国語の授業で名人に挑戦してくれた先生の所属していた学校です。今回授業を見せていただいた先生方も提案授業の検討会(「実りある指導案検討会」「授業者も参加者も学びあえた模擬授業」「提案授業を通じて多くのドラマがあった」参照)に参加していたことがすぐにわかりました。そこで、話し合われたことが、彼らの授業にしっかりと反映されていたからです。あの授業づくりを通じて授業者以外も大いに学ぶことができたのです。とても素晴らしいことです。残念なことは、そこで学んだことを活かしてはいるのですが、次に新たな壁にぶつかって止まっているのです。あれから互いに学び合う機会があまりなかったようです。

研究を進めるにあたって、どのような子どもの姿を目指すのかをまずしっかりと共有すること。そのために必要なことは何かとそのステップ明確にすること。その上で、互いに学び合うための仕組みをつくること。ICTの活用については、できるだけ具体的な教科や場面に即して、目的を明確にした使い方を提示すること。そして、3月中には、どのようにして学び合うのかを実際に試し、具体的に共有し、4月からすぐにスタートできるようにすること。こういったことをお願いしました。
今回、どの授業もとても多くのことが学べるものでした。互いに学び合う素材が実にたくさんあるのです。たくさんの先生方に見ていただき、そこで起こっていることを共有すれば、学校全体として大きく進歩できます。研究を進める体制さえできれば、可能になることです。この1か月が勝負だと思っています。どのような体制がつくられ、どのように進化していくのかとても楽しみです。
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