若手の授業から多くを学ぶ(その1)(長文)

来年度視聴覚(ICT)で研究発表を予定している学校で授業アドバイスをおこなってきました。この日の目的は若手3人の授業を見せていただいて、今後どのように研究を進めていくか、具体的にすることです。

最初の授業は5年生の算数でした。
子どもたちは騒ぐといった目立った動きをするわけでないのですが、指示に対する動きが遅いことが気になりました。授業規律の甘さが目立ちます。教科書を見ないように指示して、実物投影機で教科書を映しているのですが、教科書を開いている子どももいます。授業者の目線があまり動きません。手のつかない子ども、手が止まっている子どもが何人かいるのですが、特定の1人だけ個人指導して、他の子どもとは全くといっていいほどかかわりません。
1問1答で進み、ハンドサインで手が挙がれば先に進んでいきます。手のついていなかった子どもも即座にハンドサインは出します。根拠を問う場面がないので、正解だと思えばハンドサインで賛成をするのです。よくできる子どもが挙手をしません。自分の活躍の場がそこにはないことを知っているのです。個人作業がすぐに終わっても、追加の指示もありません。わからない子どもがわかるようになる、わかっている子どもがより深く考える、そういう場面がないのです。
「なるほど」と受容する言葉は時々聞かれますが表情に乏しく、子どもには受け止めてもらえているという安心感がありません。友だちの言ったことを他の子どもに言わせる場面がありました。指名された子どもは一生懸命に説明するのですが、途中で言葉に詰まりました。そこで授業者は、「助けてあげて?」と他の子どもを指名し、その子どもを座らせました。発表させた後、そのまま授業は進んでいきました。うまく言えなかった子どもは、声を押し殺すようにして泣いていました。10分以上顔は上がりませんでした。
教科面でも、「1ずつ増えると同じ数だけ増えるから比例」と間違ったことを教えるなど、問題となるところがたくさんありました。しかし、今はそのことよりも子どもとの人間関係をつくり、授業のスタイルを変えることのほうが先だと思いました。授業アドバイスは教科のことにはほとんど触れませんでした。

子どもが泣いていたことには気づいていたようです。休み時間にフォローはしたようですが、何がいけなかったのか、どうすればよかったのかについては、自身で明確にはできていないようでした。助けてあげてと言いながら、彼は助けられてはいません。ナイフとフォークをうまく使えず食べられなくて、助けがきたと思ったら、代わりに料理を食べられてしまった。そのような情けない状況に置かれたのです。まわりの子どもに助けを求め、彼らに答えさせるのではなく、教えてもらって本人が答える。本人をほめ、「助けてもらってよかったね」「助けてくれてありがとう」とつなぐのです。もし今回のように他の子どもに発言させたのなら、「今、○○さんの言ってくれたことでいい」と本人に確認してもう一度言わせ、ほめて終わる。こういう対応が必要です。また、子どもの言葉をうなずきながら聞いて、安心して言葉を続けられるようにすれば、そもそも言葉に詰まらなかったかもしれません。
授業でまず意識してほしいことに笑顔があります。私と話をしているうちに、素敵な表情が現れます。この笑顔を意識して子どもたちに見せるのです。これは訓練です。子どもが間違えた答やおかしなことを言っても笑顔をつくれるようになるのは訓練なのです。次に、大切にしてほしいことは、子どもの答に「正解」と言わないこと。「なるほど、・・・と考えたんだね」と受け止めて、「じゃあ○○さん」と最低3人は指名してほしいのです。私はこれを1問1答に対して1問3答と読んでいます。正解と言わないだけで、子どもは揺さぶられます。「正解」と言わない限り何人でも指名できます。答がわからなかった子どもも、友だちの答を聞いて正解は何かを考えます。もし、意見が分かれたら、焦点化して再度考えさせてもいいですし、間違えた子どもに「違う意見があるけどどう?」と再考を促してもいいでしょう。最終的に、教師が「正解」と言わずに、子どもたちで判断させることで、授業に積極的に参加するようになります。
子ども見るということに関しては、教師の視点ではなく、子どもの視点で見るという発想が大切です。「集中していない」「注意しよう」ではなく、「どうして集中しないのだろう」「何を考えているのだろう」「どうすれば集中するのだろう」と考えるのです。また、子どものどんな姿が見たいのか、どうなってほしいかを意識して授業を進めれば、子どもの姿が気になるので、自然に子どもに視線がいくようになります。
授業者にはこのようなことを話しました。授業者は明日から挑戦すると力強く答えてくれました。前向きな姿勢にうれしくなりました。きっと大きく成長してくれることと思います。
おそらく、授業者は今までも「子ども見なさい」といったことは指摘されてきたと思います。しかし、具体的にどうすればいいかは教わっていなかったのではないでしょうか。また、指摘をされるだけで、そのあとどう変わったか、どこで苦しんでいるかということをフォローしてもらっていなかったように見えます。ここは、組織として若手が育つ環境を整えていく必要があると思います。

2つ目は、3年生の算数、「□を使った式」のTTの授業でした。
デジタル教科書を積極的に使っていますが、まだポイントがわかっていないようでした。デジタル教科書は紙の教科書では書かれているところも空欄にして、クリックすると見えるようにしてあります。一斉授業では見せない方が使い勝手がよいからです。しかし、多くの場合イラストはそのまま表示されています。これは、イラストが問題把握や問題提起に有効だからです。授業者はイラストを使わずに、自分でつくったあめの袋と絵で問題を提示しました。紙の教科書を使うときには、子どもたちの顔を上げて表情を見るためには有効な方法です。しかし、デジタル教科書でイラスト見せることで十分に目的は果たせます。
子どもは友だちの発言を聞こうとする姿勢を見せます。また、一部の子どもだけですが、友だちの方に体を向ける子どももいます。しかし、子どもの発言を教師が板書すると、すぐに体は正面を向いてしまいます。「おっ、○○さん友だちの方を向いて聞こうとしているね。△△さんも。いい姿勢だね」とほめて、こういうよい姿を学級全体に広げることをしてほしいと思います。
「あめの袋に入っている数が○個だったら全部でいくつ?」と問いかけ次々答えさせます。テンポよく進みたいところなのですが、子どもの答に対して、授業者は自分で式も板書します。この場面では□+4という式をつくりたいので、式を考えることのほうが大切です。「全部でいくつ?式は?」と式も子どもに言わせる必要があります。「気づいたことない?」「いつも式には何が入っている?」と問いかけ、「+4」「ふくろの数+4」という言葉を子どもたちから引き出して、それを板書すればよいのです。言葉だけでは不安であれば、あらかじめデジタルでスライドをつくっておいて、子どもが答えるたびにスクリーンに表示すればよいのです。
ここで、気になったのがパソコンの位置です。パソコンとプロジェクターがボックスに設置されているのですが、教師はパソコンを操作するたびに教卓の前を回って移動しなければなりません。授業の流れが止まるのです。物理的に位置を変えるのが難しいのであれば、ワイヤレスのリモコンかマウスを準備する必要があります。
□+4=16のときに□にあてはまる数を求めることが課題です。その前段階として、式を使わずに袋のあめの数を求める「アイデアある?」と問いかけます。子どもからの「迷っている」というつぶやきに「そうだよね」と返します。こういうやり取りが、子どもが安心して授業に参加できる雰囲気をつくります。にもかかわらず、参加しない子どもがかなりいます。参加しなくても最後は教師が説明するので困らないのです。「○○さんのいい意見聞こえた」とつなげようとしますが、聞こえなかったという声に、「もう一度言ってくれる」と返します。ところが、そこで、教師が「そう、・・・」と言って復唱し、次に進みました。これでは、参加しなくなるわけです。聞こえなかったといった子どもに「聞こえた?もう一言ってくれるかな?」とつなぐ必要があるのです。
袋のあめの数を□にするというアイデアがなかなか出てきません。「よくわからない」というつぶやきも聞こえます。何とか活かしたいところなのですが、結局授業者が□+4を出しました。それに対して、「わかった」とつぶやいた子どもがいました。子どもから出てこなかったアイデアなので、子どもたちに理解させる必要があります。この子どもに発言させ、そこから広げたいところですが、残念ながら先へ進んでしまいました。
気になるのが、デジタル教科書でスクリーンに表示していることを授業者が再び板書していることです。もし、板書することに意味があるのであれば、スクリーンの表示はやめるべきです。使い分けを明確にする必要があります。
課題が明確になったところで、今日のめあては何かを子どもに考えさせます。なかなか面白い発想です。子どもたちは一生懸命に取り組みますが、なかには鉛筆を持てない子どももいます。課題がまだよく理解できていないのでしょうか。
子どもに発表させます。数人指名して板書したうえで授業者が「めあて」を書きました。これでは、教師の求める答探しになります。また、発表しても根拠も問わないので、とりあえず予想しただけになってしまいます。時間をかけることにあまり意味はありません。もし、この発想を活かすなら、できるだけ時間をかけずに書かせる、または次々指名して意見を聞く。授業の最後に、振り返りとして「今日のめあて」を書かせて予想と比べさせる。思いつきですが、このような展開もあるでしょう。
□がいくつになりそうかたずねます。「12、3個になりそう」とい言葉が出てきます。「Kさんが言ってくれた予想をしているんだね」と先ほどの「めあて」でてできた言葉とつなぎました。Kさんは、このあとずっと積極的に参加していました。こういう評価やつなぎが子どもの意欲を高めることがよくわかります。とてもよい対応でした。
答が12になることを先に共有して、「説明する」ことを主課題として示します。答があっているかどうかを悩ませず、説明に集中できるようにとの考えです。ここで、説明の方法について問いかけます。これはとても大切なことです。日ごろから子どもたちにメタな知識を意識させていることがわかります。最初に指名した子どもが「主語と述語をはっきりさせて説明する」と発言しました。ちょっとずれています。あとで授業者に確認したところこれは国語の時間でいつも意識させていることでした。どの教科でも問いかけているのです。授業者は否定せずにこの発言を認めました。これもよい対応です。授業者と子どもたちの人間関係がよい理由がよくわかります。ノートを見ている子どももいます。このよい行動をほめて広げたいところでしたが、「筆算の時にどうした?」と授業者がどこを見るか指示してしまいました。ちょっと残念でした。「言葉」「式」「図」「絵」といった説明のポイントを整理して課題に取り組ませました。授業者はすぐに机間指導に入りましたが、ちょっと待ってほしいところです。ここは、手がつくかどうか、まず全体を見渡して、それから動く必要があります。すぐに手がつかない子どもも目につきます。まずは、彼らのところに行くか、何らかの指示が必要です。とはいえ、この難しい課題を子どもたちはメタな視点を手掛かりにしてしっかりと取り組んでいます。いく通りもの考え方が出ています。日ごろから説明することを大切にしていることがよくわかります。
友だちに疑問を確認している子どもがいましたが、相手は自分の作業に集中していて返事をしてもらえませんでした。ちょうどそこへT2がやってきましたが、気がつかなかったのか何もしませんでした。ここは、「○○さんが聞いているよ。答えてあげて」とつなげるとよい場面でした。日ごろから、「友だちにたずねられたら、全力で答えてあげるようにしよう」と指導しておく必要もありそうです。
最後に「ノートを見せながら隣同士で話し合おう」という指示がありましたが、自分の考えを話して終わってしまいます。また、友だちの説明を聞いて、自分の書いたものを消してしまい、書き直している子どももいました。「聞きあって、なるほどと思ったら自分のノートに書き足すように」と指示をすれば、よりしっかりと聞け、自分の考えも残しておけるようになります。横3人で並んでいる列は3人で話し合うように指示しましたが、どうしても2人と1人に分かれてしまい、非効率的です。前後でペアをつくるようにすればよいでしょう。
全体での話し合いの場面は、実物投影機でノートをスクリーンに映しながら子どもに説明させて進めました。ところが、ノートを移動するなどの操作をするために授業者が実物投影機のそばを離れることができません。子どもの説明が終わるまでそこに釘付けで、発表者とスクリーンを見ています。子どもたちの反応を見ることができませんでした。子どもたちに自分で操作できるように指導して、自身は全体を見るようにする必要があります。
発表が終わると、○○さん方式と言って板書をします。「○○さんのすごいと思うところは?」と問いかけるのですが、結局授業者が説明してしまいます。これでは、自分たちで考えずに、黒板を写してしまいます。「どんな数を入れる?」「次は何を入れるの?」と問いかけ、「□の中に『順番』に数を入れる」と、キーワードを子どもたちから出させ、焦点化したいところです。
図を使った説明では、「図を使った人?」と同じ考えの人をつなぎますが、使わなかった子どもとの間もつなぐ必要があります。教師が板書せずに、自分で図を書いて考えさせる時間を取る、その図を使って他の子どもに説明させるといった活動をしたいところです。図を見て「あっ」と言った子どももいました。この子に発言させて、そこからつなげていくこともできそうでした。しかし、授業者は機械に縛られて、その発言を拾うことができませんでした。
ちょっと気になる場面がありました。友だちの説明の時に大きな声で反応する子どもがいました。興奮しやすい子どものようです。友だちから「うるさい」という声がでました。ここは「元気がいいね。説明が聞きづらいから次はもう少し声を小さくしよう」というように、教師が間に入ることが必要でしょう。
子どもたちの説明が一通り終わったあと、教科書を広げさせます。デジタル教科書を使ってキャラクターの考え方を示し、続けて説明も表示し、○○さんの考え方と一緒だと説明します。せっかくデジタル教科書を使うのに、教科書を広げては隠しているところが見えてしまうので意味がありません。教科書は広げさせず、キャラクターの考え方だけ見せて、誰の考えと同じだろうと問いかけ、子どもたち考えさせたいところです。
次に問題に移るとき、「さっきと違うみたい」とつぶやく子どもがいます。時間がないので最後にノートだけを映して教師が簡単に説明する場面では「○○さん字がきれい」とつぶやく子どもがいます。日ごろから拾っているからこそ、子どもたちはつぶやくのだと思います。この授業ではICT機器を操作することに授業者が追われ、拾うことがあまりできませんでした。ICTが授業者のよさをかえってつぶしてしまったのです。しかし、この授業から学べることはとても多かったと思います。日ごろから子どもたちとよい関係を持って授業をしているおかげで、ICTを活用した授業の落とし穴や活かしどころに気づけます。

授業者からは、子どもの発言をいつ黒板に書いたらよいのか質問されました。授業者も悩んでいたのです。子ども同士をつなぎながら、子どもたちで結論が出してから書くようにするとよいことをアドバイスしました。また、あえて黒板には書かずに、子どもたち自身でノートに書かせる方法もあることも伝えました。
子どもの考えをつなぐのに、作業を途中でいったん止め、図などノートの一部分を映して、「こんなことを書いている子もいるよ」と紹介だけする方法もあることを紹介しました。授業者はある学校を訪問した時に、子どもがノートをしっかり書けていてすごいと思ったそうですが、そこへの道筋が見えたと言ってくれました。課題を持って取り組んでいる人はちょっとしたきっかけで、多くのことに気づけます。この授業者はこれからもどんどん進歩していくことでしょう。
長くなりましたので、この続きは「若手の授業から多くを学ぶ(その2)(長文)」で。
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