小学校で授業アドバイス(その2)(長文)

小学校で授業アドバイス(その1)(長文)」の続きです。

授業研究は5年生の算数で、○や△を使った式でした。
授業者はこの日の授業の流れを示しますが、算数ではその必然性を重視するので作業の場合と違って先が見えることに意味はありません。むしろじゃまなのです。
ディスプレイを使って復習や課題の提示をするのですが、画面を切りかえるたびにパソコンの前に移動します。これではかえってテンポが悪くなってしまいます。ワイヤレスマウスやリモコンなどを使うことを考えてほしいと思います。

この日の課題を黒板に書きます。授業者は笑顔で素早くノートに書くように指示します。書けた子どもに「早いね」と次々に声をかけます。子どもたちの授業規律がよい理由がわかります。全員ができるまで、ちゃんと待っています。指示の徹底を授業者が意識していることがよくわかります。最後に「待っててくれてありがとう」と一声かけることができました。こういう言葉が、教師と子どもの関係をよくしていきます。できれば最後の一人に、「待っててもらえてよかったね」と言ってつなげると、子ども同士の関係をよくすることにつながっていきます。

問題文からわかることを確認していきます。反応をしてくれるようにうながして、子どもの意見を全体に問い返しますが、まだ素早く反応してくれません。テンポが悪くなってしまいます。こういう場面では、列などで次々に指名して確認することでテンポを上げ、最後に全体でもう1度確認するとよいでしょう。

本時の第1課題は、関係を○と△で表すことです。「表せそう?」と子どもたちに問いかけますが、あまり反応はありません。授業者が4年生で○と△の問題をやったことを投げかけると「あっそうだ」というつぶやきが出ましたが、残念ながら、拾うことができませんでした。こういう言葉を拾うことで、子どもたちにとって反応する意味が出てくるのです。ただ反応してというだけでは反応してくれないのです。4年生でやったと思いださせるだけでなく、ディスプレイに4年生の教科書を映し出して同じ問題を解いてみるといったことをしないと1年前のことはなかなか思い出せません。もう一工夫ほしいところです。

個人作業のあとに発表させますが、△=○+7という式を1人発表させて終わってしまいます。○+7=△という式を取り上げませんでした。この式を書いている子どもは自分の考えが正しかったの、正しくなかったのか。正しくないと思ったのなら、なぜいけないのかわからないままです。教科書は△=を示して、右辺を考えるように構成されています。この議論を避けるためです。そこをあえて制限しなかったのですから、2つの式を取り上げ、どう評価するかを考えておく必要があります。求めるものが△なら、△=○+7の方がわかりやすいといった言葉を引き出して、この書き方を使うことにしようと納得させるといったことが必要です。中学校での関数へのつながりを意識した展開を考えてほしいところです。

続いて、表を埋めるという次の課題が提示されます。なぜ表が必要なのかは論議されていません。4年生で表のよさを学習していますが、ここでも触れておく必要があります。ここも算数の授業としては問題でしょう。
兄役と弟役の子どもを2人前に出して首に札をぶら下げます。札には兄と△、弟の名前と○が書いてあります。弟役に数字のカードを持たせ、「弟が1才の時に兄は?」とみんなに問いかけます。兄役はみんなの答に合わせて数字のカードを持ちます。友だちが前に出ているので、子どもの顔も上がりテンションも上がります。しかし、ここでこのやり取りはあまり意味がありません。教科書の問いは、「○が1つずつ増えていくと、△はどのように変わっていくか、・・・」です。○と△という抽象化をされたものを使って式で考えることが目的の課題だとわかります。兄と弟という表現をここでは使っていない意味を理解できていなかったのです。子どもたちは、札に書かれた△や○も意識していませんでした。式をつくったのですから、ここでは式を使って表を埋めることをさせなければいけません。「○が1のとき△はいくつになるか、この式を使うと簡単に求められるね」といった確認が必要になるのです。
子どもを使ったこのような具体化が活きるのは、最初の問題文の把握や式を考える場面です。その場合でも、単に弟の年齢に対して兄の年齢を言わせるのではなく、「兄はいくつ?式は?」と式も問いかけて、式は「いつも弟の年齢+7」という関係に気づかせることが大切です。

授業者が用意した表は5までで閉じていました。教科書はちゃんと5から先があることがわかるように、表の端は横に伸びています。こういうちょっとしたところにも気を使う必要があります。子どもたちに作業させますが、5で終わらずにその先も書いている子どもがいました。こういう子どもを活躍させたいところですが、5まで埋めて「完成しました」と言ってしまいました。また、「表の変わり方」という言葉も使っていました。あきらかにおかしな表現です。また、教科書の問いは「どのように変わっていくか、調べてみましょう」です。それに対して、授業者は「2つの数量の関係を考えよう」と課題を変えました。教科書が、「△=・・・」の形にこだわっている、その前の問いでは、「○が1つずつ増えていくと、△は・・・」と増分を意識しているのは、関数的なとらえ方をさせたいと考えているからです。授業者は教科書の意図をどのくらい理解して、この発問を選んだのでしょうか。多様な考え方が出ればいいというわけではありません。もし、多様な考え方を出させたいのであれば、変化を見る考え方(横の関係を意識したもの)と2つの数量の関係だけに注目する考え方(表を縦に見る)の違いを焦点化することが求められますが、残念ながら、そのような場面はありませんでした。
教科書の問いには主語が書いてありません。ということは「何が」も問う必要があるということです。「何が変わるの」に対して、○と△を出させて、「○が変わると△も変わる」という関数の考え方につながる言葉を引き出してほしいところです。

子どもから「○が1増えると△が1増える」という発言が出ました。この発言を授業者はすぐに板書しました。一度板書すると、この考えや表現に縛られます。この表現は「ずつ」が抜けています。この違いを明らかにしていくことが必要です。板書せずに、何人か指名すれば言葉が足されていきます。子どもから「ずつ」が出てくるはずです。
ここで、この発言を揺さぶるという方法もあります。「○ってどこ?」「いくつのとき?」と問い返したり、「○が1増えると△は」と言いながら、対応しない△を指さして「1増えるの?」とわざとおかしなことをしたり、1つだけ確かめて「確かにこの時は言えるね」と言って、「ほかでも言える」「いつでも言える」という言葉を引き出したりするのです。特に、「必ず?」「いつも?」「絶対に?」という言葉は算数で大切にしたい言葉です(「算数・数学で大切にしたい問いかけ」参照)。授業者の表では○の欄は5までしか書いてありませんが、「○が10でも?50でも?」と確認することで、表が一部でしかないことにも気づけますし、5から先の表をつくった子ども活躍させることもできます。このことは、関数の定義にかかわる「定義域」を意識することにもつながります。「1から始まっている」という発言もありました。この発言を授業者は受容して終わりましたが、定義域の考えにつなげることもできたはずです。「それってどういうこと?」と問い返すと、「0がない」「おから始まるんじゃないか」といった言葉が出てきたのではないかと思います。小学校では扱いませんが、「0.5とかはダメなのと?」揺さぶると、連続量への拡張を意識させることもできます。結論を出す必要はありませんが、一部の子どもへの刺激にはなります。教科書がわざわざ兄弟の誕生日を同じだとことわっているのは、小数を考えなくてもよいようにしているからですが、だからこそこういう揺さぶりもあるのです。

子どもが、「△から○を引くと7になる」と発言しました。確認のために聞き直すと「7を引くと」と言葉が変わりました。授業者は最初の発言を板書しましたが、「7を引くと」と黒板の表では△から上へ矢印を引いて7を書きました。国語と算数は言葉にこだわってほしいのですが、特にこのようなミスは子どもに無用の混乱を引き起こす可能性があります。注意をしたいところです。
この場面でも、子どもから「いつも」といった言葉を引き出しませんでした。にもかかわらず、表ではすべての組み合わせで矢印を引きました。算数で大切にしなければならないポイントを外してしまいました。また、子どもの発言を受けて教師がすぐに表で確認をしたことも問題です。このようにすることで、結局子どもは自分で考えずに黒板の教師の説明を聞いて納得しようとします。別の言い方をすれば、教師が受け止めたあと黒板で確認をした内容が正解だと考えるようになるのです。教師が何を書いて説明するかに注目していればいいので、友だちの発言を聞かなくなってしまいます。この場面では、「本当にそうなっている?自分の表で確認して」と全体に返したあと、何人かを指名し、「なっていた?」「いつでも?」「絶対に言える?」と問い返し、最後に挙手で全員に確認して、「言えるね」と子どもたちに判断させるといった進め方をしてほしいところです。
子どもの言葉で授業をつくろうとしているのですが、一部の子どもたちの言葉だけで進んでいます。この授業だけでなく、この学校全体でこの傾向があるように感じます。とはいえ、教師が一方的に説明する授業から脱却しつつあるのですから、これは進歩の過程なのです。子どもの発言を教師が確認するのではなく、子どもたちに確認させるといった「つなぐ」ことが次の課題となってきます。

勉強熱心な授業者ですが、前回の訪問時に、いろいろなことに手を出すのではなく、まず一つずつきちんとできるようにすることを課題として指摘しました。今回授業を見て感じたのは、笑顔とほめることで授業規律をつくることを強く意識していたことです。子どもたちの授業規律もよくなっているように感じました。素直にアドバイスを受け入れる姿勢は素晴らしことです。いつも言っていることですが、授業のベースがしっかりすればするほど、課題は見えるようになります。
この学校に限らず、長文の日記が増えているのは、訪問する学校の授業の質が上がっていることの表れなのです。

授業検討会では、ベテランを中心によい意見がたくさん出てきました。ただ、どうしても教師の教科面での展開、指導に偏る傾向があります。その中で、子どものようすからわかること、ノートの内容をもとにした意見もいくつか発表されました。「2つの数量の関係」という発問に対して、1次関数の関係も比例の関係も、どちらも比例と書いている子どもがいた。子どもたちは2つの数量の関係は比例しか知らないから、この発問ではこういう間違いが出てしまう。このような意見です。こういう意見がもっと増えてほしいと思いました。
私の話も、先生方の疑問に答えることが中心となったために教科面の話が多くなりました。子どもとのかかわり方についてももう少し話すべきだったかと反省しています。
先生方にもっと子どもの事実をもとにした授業検討をしていただけるように、検討会の持ち方を変えるようにお願いしたいと思っています。

最後に「新年度に向けてのアドバイス‐学年始めにするべきこと‐」というタイトルでミニ講演をおこないました。
・この1年を振り返って、目指す子どもの姿を明確にすること(ちょっと早めに4月の学級づくりを考える目指す学級の姿を具体的にする参照)
・4月は教師も子どももリセットする時であること(「4月はリセットする」参照)
・まずは授業規律を確立して、安心安全な学級をつくること(「子どもが教師に求めること」、「規律を守れなかった子どもの指導」、「学級全体の問題か個別の問題か」参照)
・子どもを認める、ほめる場面をつくること(「子どもの自己有用感を大切にする」参照)
このようなことをお話して、大切にしたい「受容の言葉」「称賛の言葉」「外化・思考・行動を促す言葉」「つなぐ言葉」を紹介して終わりました。

訪問を重ねるごとにこの学校から学べることが増えていきます。来年度も4回ほど訪問させていただくことになりました。この学校の先生方の成長に立ち会えることは私にとってとてもよい勉強になります。継続して訪問できることをとてもうれしく思っています。
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