小学校で授業アドバイス(その1)(長文)

小学校で授業アドバイスと授業研究に参加しました。今年度最後の訪問です。

3年生のベテランは、算数の2桁のかけ算の授業でした。以前に見せていただいた時と比べて、授業者の笑顔が増えていました。子どもは落ち着いて、前向きに授業に参加していました。子どもたちの学習もよく定着しています。前時の復習では、1人を除いて全員の手が挙がりました。指名で進めましたが、こういう場面ではペアでの確認を取り入れると、子どもたちが発表する機会が増えますし、手の挙がらない子どもも自然に答を知ることができます。答だけでなく「考え方」も聞きます。子どもは前で図や式を使って説明したかったのでしょうか、「そこへ行っていい」と黒板を使おうとしましたが、「言葉で言って」と返しました。言葉での説明にこだわって、子どもたちにできるだけ言語化させようとしていることがわかります。算数や数学では図や式も表現の大切な手段です。言葉での説明だけにこだわらず、いろいろな表現手段を子どもの実態に応じて取り入れていただければと思います。発表者は一生懸命に説明しようとします。全員ではありませんが、何人かの子どもがうまく説明できるだろうかと、発表を気にしています。せっかくですので、「しっかり聞いていてくれたね」と評価したり、「助けてあげてくれる」「○○さんの言いたいことわかった。代わりに説明してくれる」「何か足すことはない?」とつないで活躍させたりすることで、こういう子どものよい姿を学級全体に広げてほしいと思います。
かける数が4増えて、1位の数が0から4に変わったときの計算の仕方を、今まで習ってきたことを使って自分で考えるよう指示しました。ただ答を出すのではなく、考え方もノートにしっかり書かせます。子どもたちを見ると、多様な考え方が書かれています。日ごろから鍛えられていることがよくわかります。その反面4、5人の子どもが手つかずの状態です。授業者は何とか自力で解決させたいと考えているのか、机間指導しても彼らにあまりかかわりませんでした。
「ちょっと鉛筆を置いてくれるかな」と作業を中断しました。「答えてくれる前に」とヒントを出しました。机間指導であえて声をかけなかったのはここでヒントを出そうとしていたからでしょう。さすがにベテランです、非常にわかりやすいヒントで、途中で止まっていて子どもたちも含めて多くの子どもが再び意欲的に活動を始めました。しかし、手のつかなかった子どもにとってはここまでの時間はかなりつらいものです。また、すでにできている子どもにとっては、このあとの時間は退屈な時間となってしまいます。
自力解決の前に、前時の復習と合わせて、2学期にやった2桁かける1桁の計算を(できれば今回利用する数を使って)実際に計算して復習する。ヒントと言わずに、問題把握の段階で、「ミカンが4つ増えると、払うお金は増えるね。どれだけ増えるかな。できそう?」と子どもたちに見通しを持たせてから取り組ませる。というように、必要な知識を具体的に復習し、見通しをそれとなく与えておくという方法もあります。また、手のつかない子どもに、できている子どもに聞くようにうながすことで、できた子どもにもよい学びの時間となります。
このようなことをアドバイスしました。

3年生の若手も算数の時間でした。線分図を元に2つのものをまとめてから計算するか、順々に計算するか、いろいろな解き方を考える場面です。
求めるものの確認を全員にしました。「消しゴム」と元気な声が返ってきます。こういう場面は全体で言わせて終わってしまうことがよくありますが、何人かには個別に確認したいところです。なんとなく全体の声に流されていることがよくあるからです。
個人作業を机間指導するのですが、一部の子どもだけに○をつけています。○をつけるのなら全員に○をつけることを意識してほしいと思います。正解していなくても、できているところまでを「ここまでいいよ」と部分肯定をすることで、止まっていた手も動き出します。「まわりと相談してもいいよ」と声をかけて子どもをつなぐという方法もあります。子どもへ「すごい」と声をかけますが、何がすごいのかはよくわかりません。具体的に何がすごいかを言わなければ、そのことが強化されたり、まわりに広がったりはしません。「できてるじゃん」という声も出ていましたが、「答が出ることに価値がある」と言っていることにもなります。「先に足してから引いたんだね。なるほど、すごいね。他のやり方もできるかな」と具体的に考え方をほめるようにするとよいでしょう。
答が出た子どもはそこで活動が止まっています。途中で、できた子どもには別の解き方を考えるように指示をしますが、まだ途中の子どもには、指示は通りません。このような指示は作業に入る前にしておくことが大切です。全体での共有化の場面では、何通りの解き方ができたか数を聞きます。途中で指示をしたといってもこれはあまりよいことではありません。数を問うのであれば、最初の段階で課題を「いくつの解き方ができる」といったものにしておく必要があります。
子どもたちに発表をうながしますが、できているのに手の挙がらない子どもがいます。自信がないから発表しないのか、できているので発表する意味がないと思っているのか気になります。式を発表したあとで、式の説明を「なんで」と聞きます。「なんで」や「なぜ」は答えにくい問い返しです。発表者はどう答えていいのか戸惑っています。できれば、「どういうこと」と答えやすい聞き方をしてほしいところです。しかし、授業者が笑顔でしっかりと受け止めてくれるので、たどたどしいながら言葉を紡いでくれます。説明でわかったかどうかを何人にも確認します。教師が自分の言葉で説明しないように意識していることがよくわかります。とてもよい姿勢です。苦しくてもこの姿勢を崩さなければ必ず成長します。
子どもは自分の言葉で説明しようとすると、簡潔な説明はできません。どうしても、長くなってしまいます。聞いている子どもは1回聞いただけでは完全に理解できません。こういう時は、「なるほど、しっかり説明してくれたね。みんなにわかってもらいたいから、もう1度きかせてくれるかな」と繰り返させます。このとき、途中で「ちょっと待って、ここまでの説明は納得した?」と切りながら全員の理解を確認します。「○○さんの言ったこと、もう一度説明してくれるひと?」と重要なところは他の子どもに説明させてもよいでしょう。
また、子どもの考えを深めたり、整理したりするには教師の切り返しも大切です。「この式で何を求めたの?」と返す場面がありました。このような問いかけに、「消しゴムの代金」と具体的に答えられる場合はいいのですが、式そのままに、「ノートと鉛筆の代金をたしたもの」としか答えようがないものもあります。先ほどの「なんで」と同じようにとても答えにくいのです。簡潔に「○○です」と答えられないからです。こういった場面は言葉での説明にこだわると苦しくなります。せっかく線分図を使っているのですから、それを活用すればよいのです。線分図の「どこのこと」「どこにある」といった聞き方をすれば、示しやすくなります。
また、子どもの説明で、「合わせての時は足し算ですが・・・」といった言葉が出てきたことが気になります。言葉と演算を1対1で覚えるのはとても危険なことです。「合わせていくらになりました、元の値段は・・・」では引き算です。言葉の示す状況を理解して、図示するなどして、演算を決定することが大切です。「足すと値段が大きくなるから引き算・・・」といった言葉も聞かれましたが、見通しを持つには有効な考えですが、それを裏付ける根拠を持たせることが大切です。言葉での説明にこだわりすぎているように感じました。
わかっている子、発表できる子は教師がしっかり受け止めてくれるので積極的に挙手をしますが、そうでない子はなかなか参加できません。子どもの発表の途中ですぐに教師が板書するので、友だちの話を聞こうとしている子どもも、そちらを頼りにしてしまいます。「わかった人?」とつなぐのですが、まだ、答という結果をつないでいます。「どこでわかった」と過程をつなぐといったことも意識する必要があります。教師が受け止めて、板書して、わかったと聞くという流れなので、発表者は教師に理解してもらって満足してしまいます。発表すると自分の仕事は終わったという顔をして、友だちの反応を期待していないことからもわかります。教師ではなく、友だちに理解してもらおうとする姿勢を育てることが大切です。
子どもとの基本的な関係、受け止める姿勢、授業規律がしっかりしてきたからこそ、課題がたくさん見えてきました。一つひとつのことを意識して、子どもの反応から少しずつ修正していくことで大きく進歩すると思います。来年度が楽しみです。

6年生の若手の授業は体育でした。前回バスケットボールの授業を見せていただいたのですが、そのバスケットボールの最後の時間でした。子どもたちはグループごとに練習をしています。タイマーによるインターバルで、教師の指示なしで次の活動にスムーズに動いていきます。授業者は、その間子どもたちのようすをじっと見ています。子どもたちを自主的に動かそうとしていることがよくわかります。前回と比べて子どもたちはずいぶんと成長しています。互いに声かけをして、自分たちで課題意識を持って活動しているグループがたくさんあります。ゲームをおこないましたが、子どもたちは小学校6年生としては、とても組織的にプレーをしていました。グループごとに作戦を立て、試合終了後にチェック表で自己評価しています。子どもたちが考えて意欲的に取り組んでいる理由がわかります。
途中で子どもたちを集めて指示や説明をしますが、コンパクトにまとまっています。ムダな時間が減って子どもたちの活動時間が確保されています。
グループごとの準備運動の後、ボールを取りに行って活動を始める場面で、素早くボールを取りに行くグループがいた反面、うっかりしてしばらくボーとしているグループがありました。子どもたちが気づくのを待っていましたが、こういう場面では「おっ、素早いグループがあるね」とよい行動をほめて広げることをするとよいでしょう。グループ内でのかかわり合いは意識されてきましたが、その学びを全体に広げることも大切です。グループ間のかかわり合いをつくることが必要です。ゲームのないチームがゲーム中のチームのプレーを見てよいところチェックし伝える。全体で、練習の工夫やうまくいったことを発表する。こういった活動を加ええるとよいことを伝えました。
わずかの期間ですが工夫をして授業がよい方向に変わっていることが、子どもたちの姿からわかりました。うれしいことです。

特別支援学級の若手の授業のようすも参観しました。
先週から担当の児童が1人増えて、3人になったようです。授業者は笑顔がとても素敵で、子どもたちのよいお兄さんといった雰囲気です。子どもたちとの関係も良好で、子どもたちは授業者とかかわりたくてしょうがありません。子どもたちは授業者が相手をしてくれるとテンションが上がります。授業者の気を引こうとして声を出したり、机をたたいたりといった行動をとります。授業者は、それにすぐに反応してしまいます。課題の指示をしたり、落ち着くよう指導したりしますが、子どもにとっては授業者の気を引けたのでそれで成功です。これの繰り返しで1時間が過ぎていきます。子どものテンションは高いままで、授業者は疲れてしまいます。笑顔で受容することも大切ですが、子どものテンションを下げる技術も必要になります。
教師の仕事は子どもたちの相手をして喜ばせることではありません。子どもたちがどのような姿になること目指すのかをしっかりと意識して対応する必要があります。目指す姿の一つに自分の行動を律することがあります。我慢できるようにすることです。子どもは教師が反応しなくても我慢できる時間や回数がある程度決まっています。3回まで我慢できるなら、4回目に反応してあげる。そういったかかわり方も必要です。子どもが机をたたいたりして授業者の気を引こうとしたときには、それをやめた瞬間にほめて相手をしてあげるといったよい行動を強化するペアレンタル・トレーニングの手法も有効です。
ある子どもが以前にやったダンスを始めました。授業者は「今はダンスの時間じゃないよ」と注意をしましたがなかなか止まりませんでした。子どもはそれまで机の前に座ってストレスをためていて体を動かしたかったのかもしれません。それとも、教師の気を引きたかったのかもしれません。それをわかって対応できるのは日ごろから接している担任しかいません。子どもの行動の因果関係を把握することも大切なことです。
このようなことを伝えました。

長くなりましたので続きは、「小学校で授業アドバイス(その2)(長文)」で。
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